第10話 初めての検解(てへぺろ)

 わしは今、村から少し離れた森の中にいる。凛とした木々の間から漏れ出る明かりに幻想的ですらある中に身を置き、目をつむって精神を集中させる。


 ピリピリとした感覚が体中を伝わってくる。腹式呼吸を繰り返しながら呼吸を整える。そのまま息を止め、20秒、30秒、40経過…今じゃ!


 目を見開くと同時に、大きく息を吸い込み、大きく無駄な動作で右手の人差し指と中指をまっすぐのばしVの字にして、天に突き刺すかの様に掲げる。そのV字になった右手をわしの右目の位置に移動し、舌を左斜め45度の角度で突き出し大声で叫んだ!


「検解(けんかい)」


 ミチ、ミカにもらったチート能力「検索&解析」じゃ。この世界の全てのものを地球で近しい物に変換、解説してくれる優れものなんだそうだが、初めて使うので緊張した。


 なんか…かっこよく決めたが、テヘペロじゃ。俗称テヘペロじゃ。しょせんテヘペロじゃ。どうせテヘペロなんじゃ…いかん自虐的になってしまったわい。


 するとV字で囲った右眼に赤色のターゲットのような丸が出現し、右眼が焦点を合わせたものに詳細が表示された。


●解説/クムクムの木…それほど珍しくない材木で、この森に広く分布する、代表的な木。日本名スギに近い。加工して多種多様に使用できる。などなど


 すごいな。これは使える。植物だけでなく、人、動物、加工品、人工物などにも使えるのだろうか?これから色々と試してみなければな。


 とりあえず今は他を探さなきゃ…


 ふと周りを見渡すと、レイクとリイナがテヘペロのポーズを真似しながらこっちを見ている。と思ったらわしの周りを小さい子ども20人ぐらいに囲まれていた。全員テヘペロのポーズで…。


 新たなチート能力の集中&興奮しすぎて全然気づかなかった。


 そんなシュールな光景に唖然としてるとレイクが話しかけてきた。

「仙人様、このぽーず何? 何? “けんかい”って言ってたけど?」


 最初っから見てたの? 恥ずかしい精神統一も?

〈ハジメカラミテタヨ〉


 …リイナ心読んでない? わしの。読めないよね。そんなチートもってないよねキミ。っていうか、この子供達だれ? なんでこんなにいるの?


「みんな、親が狩猟や、出稼ぎでいない日中は、自分達で集まって、子どもだけで出来る仕事をするんだ。お手伝いを含めてね。」

 3歳~12歳くらいの子どもが集まっている。みんなテヘペロのポーズでわしの一言を待っておる。よし、ここは新参者がなめられないように、一発ビシッとかましてやるかのう。


 少し低めの声で、真剣な顔つきで子ども達に告げる。

「我が国、古来より伝わる選ばれし勇者を讃える感謝、感激、雨、霰のポーズ!“テヘペロ”じゃ~~~~~~!!」

「「「「うおおおおおおお~~~~」」」」」


 子供達がいっせいにうなりをあげた。みんながジャンプしながら声に出して叫ぶ「「「テヘペロ」」」「「「テヘペロ」」」ビッグウェ~ブがおこる。なに、怖い…。この盛り上がりをどうすれば…。


 ごめん…悪ふざけがすぎました。ジジイ反省。


 その後、みんなの興奮もおさまり、今はわしを先頭にレイクとリイナが他の子ども達を従え2列に並んで、軍隊のごとく進行している。なるべく、草花のある場所を案内してもらったのだが…。


 自分も手当たり次第に草木を検解してまわる。


 そのたびにテヘペロコールがおこるのがうるさいのだが、毎回つっこんでは話がすすまないのでスルーした。


 ちょっと広めの原っぱに出て同じように検解をしてみると…


●名もなき雑草…毒々しい紫色の雑草だが、日本名でオナモミに近い薬草。すりつぶした葉を沸騰したお湯に30分入れ、エキスを抽出したお湯を冷まし飲ますと頭痛、解熱に効果がある。


 おお~ついに見つけた。やっぱりこっちの世界にも薬草みたいのはあるんじゃないかなとは思っていたけど、やっぱりあった。しかもご丁寧に薬の作り方まで。ありがたい。作り方は日本とは違うがこの世界ではそうなのであろう。ファンタジーの世界だから。


 よし、これをみんな手分けして探せば…

「レイクこの毒々しい雑草をみんなで手分けして集めてくれんか。一人一つずつくらいでいいでのう。」


 すぐレイクが子ども達に伝令を飛ばす。すっかりわしの右腕と化してるが…まあ良しとしよう、便利じゃしな。


 続々と、毒々しい紫の雑草が集められる。


「よし、貴様なかなかいい働きぶりだな。3ptつかわすぞ」

「なかなかの早さだなおぬし。これからも目をかけてやるぞ」

などと、レイクが雑草を持ってくる度に年下であろう子ども達に声をかけているのだが…単なる遊びだよね。ごっごなんだよね、このポイント制は?


 よし量はこのくらいでいいだろう。すぐにみんなで雑草を運び、族長の家へと急ぐ。一糸乱れぬ2列縦隊で駆け抜ける。


 家に着くとすぐにセイムさんにかまどに火をつけてもらって湯を沸かす。あれから、セレブさんと、セイムさんでマメに交互に濡れた布をあてて、冷やしてもらっていたが、あまり効果は現れていないらしい。まあ、そんなに急に治るわけでもないのでしょうがない。


 呪い師のカカカは、明日の具合を楽しみにしていると捨て台詞を吐いて治らなかった場合の細い棒を探しに行った。


 …やるき満々やね。あの人は。


 紫の葉をすべてすり潰して、沸騰した釜に投入していく。30分ほど煮込むと釜全体が毒々しい紫色に染まっている。不思議と匂いはしない。無臭だ。沸騰した湯を漉して、木のコップに注ぐ。しばらく人肌くらいに冷ます。


 完成だ、たぶん。これで良いと思う。いいんじゃないかな。いいよね?


 試すようで心苦しいが、そんな事を言っている場合ではない。セレブさんに族長の背中を起き上がらせてもらい、木のコップから族長の口に、紫色の液体を流し込む。顔の火照った族長がのどをならしながらコップ一杯の毒々しい紫色の液体を飲み干した。


 ふーーーっと一息ついて、また横になる。


 しばらくすると…族長の目がカッと見開いたかと思うといきなり、右回転で転がり、壁にぶち当たって、今度は左回転でつきあたりの壁にぶちあたる。転げまわるという感じではなく…ビタン、ビタンという感じで表、裏、表、裏というダイナミックな転がり方だ…


 2往復ほどして、ちょうど元の場所に戻る。呆然とその行為を見守っていたみんなが、一斉にわしの顔を不安そうに覗き込む…


 トリカブトじゃないよね。あの雑草…

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