第9話 呪い師カカカ現る
水を出されて、皆でとりあえず一服ついた。
「だから私は眠ったばかりと言ったでしょう。」
「お母さんも真っ青な顔して言われたら私も勘違いするわよ。」
「私の顔色が悪いのはいつのもことでしょう。こういう顔なの。」
「それにしても顔に白い布をかけなくても…私じゃなくても勘違いするわよ。」
どうやらこの世界でも死んだ人の顔に布をかぶせる習慣はあるらしい。
「布は、お父さんいつも夜中に息してない時があるから。この機会に確認するためにかぶせたておいたのよ。無呼吸症候群なんじゃないかな~と心配に思って。そんな時にあんた達が帰ってきたから…。」
言い終わると同時に母親はわしの方に向き直り、
「すみません、お見苦しいところを見せてしまいまして。ところであなたは…。」
そういえばまだ自己紹介もしていなかった。
いや、あやうくスルーするところだったけど、この世界に無呼吸症候群とかあるのか? というよりそんな言葉あんのかよ! なんで知ってんだよ! たまたま翻訳されただけなのか? でもファンタジーなのでスルーしておこう。
そして改めて自己紹介をしようとしたら…レイクが「ジューローは仙人様なんだよ。」とくったくのない笑顔で答える。
いや…わしは仙人じゃないですよ。
「ジューローさんは私たちをゲフンから助けてくれたのよ。でもその時の衝撃で記憶を無くしてしまって…それで記憶が戻るまでうちに滞在してくれるようにとお願いしたのよ。」
セイムさんが助け舟を出してくれた。助かる。
「そうでしたの。それはありがとうございます。お聞きになったかもしれませんがゲフンとセイムは両族長の決めた許嫁同士なのです。父親もネル族の将来と娘の幸せを思った末の苦渋の決断だったと思います。私も族長の妻として許嫁の決定には文句がありません。たとえゲフンが頭が弱くても。とても頭が弱くても。ひょっとして…頭が弱くても。文句は一切ありませんとも。」
……っていうか頭が弱いことしか文句ないのかよ。ここの族長っていうか、父親絶対みんなから人望無いよ。
「そういう訳でしばらくこちらに厄介になることになりました。ご迷惑だとは思いますがよろしくお願いします。私のことは気軽にジューローとお呼びください。」
と頭を下げた。
「こちらこそ何もない家ですが、我が家だと思いお寛ぎください。わたしのことはセレブとお呼びください。」
「それではセレブさん。ご主人、いや族長が倒れたとお聞きして、急いで帰ってきたのですが、大丈夫なのでしょうか?」
「私も小用で出かけていて帰ってきたところ、入口で旦那が倒れていて、あわてて寝所に運んだのですが、すごい高熱で、水で濡らした布をあてがってはいるのですが、 一向に熱の下がる気配がなく、困っていたところです。」
ふむ、高熱といえば風邪かな? ただの風邪でもこの世界では致命傷になるかもしれないしな。
「セレブさん、お薬とかお医者さんはいるのですか?」
「お医者さん?というのは聞いたことがない言葉ですが…薬などは城下町などに行けばあるかもしれませんが、私たちのような森の民などには一生縁のないような高価な代物です。」
ひょっとしたら代々伝わるような秘薬や民間療法などがあるのではないか?と思ったのだが…あればとっくに使っているか。それならば病気やケガなどをした時はどうしているのだろう。聞いてみた。
「一応、呪い師のカカカさんには大分前に来てくれるよう手配してあるので、もうすぐ着く頃だと思うんですけど…」
呪い師? そんなので治るのか?と、いぶかしく思っていると…
「この村の呪い師で20年のベテランですの。一説によるとツンダ村のトンダさんの九死に一生のケガを九死に二生にしかけたとか。」
いや、それまた殺しかけてますやん。全然武勇伝じゃないですよ。むしろマイナスやないか~~~い。と心の中でツッコんでいると入口近くで大きな声がする。
「呼ばれて、請われて、じゃじゃじゃじゃ~~ん!」
ムム、新たな濃いキャラクター登場の予感。いやな予感しかしない…
「また族長は倒れたのかい、ついこの間も倒れたばかりじゃないかい。」
カカカはダミ声で悪態をついた。声もデカかったが、顔もデカかった。顔がデカイ分、体もアンバランスでだいたい4頭身ぐらいではないか。首と腰にはジャラジャラと石や骨の装飾をぶら下げて、指にも不揃いの石をくだいたようなものを身につけている。地球ならものすごい成金に見える。デカイ顔にはペイントで謎の模様が描かれており、よけいにインチキくささ倍増だ。
「勝手にあがるよ」
と無遠慮に奥の寝室に入り族長スブムを見た瞬間に、
「これはいかんね。大分悪い状態が進んじまっている。早いところ処置しないと。セレブ急いでこの中から選びな!」
と、懐から4本の紐のようなものを取り出し、セレブさんに突き出す。セレブさんも手慣れたように引く前に一度祈るように天を仰ぎみて、4本の紐の中から1本選ぶ。
「はっ」
と気合いをいれて選び出した紐をカカカに差し出した。
「3だ。え~~と3番は…川に沈めて、30秒ごとに引き上げる。それを3回1セットの3セットやればOK! 引き上げるたびに生存確認忘れんな!」
いやいやいやいや、ちょっと待って、なに? その江戸時代の座敷牢でもやんないような拷問。高熱で寝込んでる人に? 鬼か、あんた鬼か!
「ふ~わかりました。よかったですわ。今回はいちばんイージーで! 引く前に天に祈ったかいがありました。」
セレブさんいい笑顔!っていうか今までどんな拷問受けてんだ!もっとひどい事、日常的に受けてるのか! よく死なないな族長さんよ。
「本当だわ、お母さん。この間の滝の上から3日3晩吊るしあげてからの5km川下りよりよっぽど楽だわ。あの時は私も死を覚悟しましたもの!」
おいセイムさんもマジか! 父親殺すつもりか! ゲフンとの許嫁の件根に持ってんじゃないの? 本当は。
いかん、こんなことやらせたら本当に死んでしまう。ここはわしが…
「ちょっと落ち着きなさい。セレブさん、セイムさん。この病気はわしが今まで治したことがある病気かもしれん。一度わしの言う通りにしてもらっていいじゃろうか。」
今までわしの存在を無視し続けてきたカカカがデカい顔をこちらに向け、ギョロリと大きい目でわしを睨みつけた。
「この爺さん何者だい。この村にはこの村のやりかたってものがあるんだよ。よそ者は黙っていな。」
やっぱりカカカから横やりがはいる。
しかしその文句を無視をして、セイムさん、セレブさんに指示を出す。
「まず体の熱を取らなければいかんのじゃ。首もと、脇のした、ふとももの付け根を水で絞った布をあてがい、温かくなったらまた水で冷やして熱を取る。これを繰り返しやるんじゃ。」
「そんなことなら、川底に沈める私のやりかたの方が効率的じゃないのさ!」
カカカが横やりを入れてくる。
「体力が弱っている時には逆効果なんじゃ。除々に熱を取り除かないといかん。セレブさん、セイムさん今は緊急時じゃ、わしを信じてくだされ。」
「…わかりました。わたしは仙人様を信じます。」
戸惑いながらもセイムさんはわしの指示に従ってくれた。セレブさんも怪訝な表情はみせたもののセイムさんに付いていく。
「あんた! 村一番の呪い師の私をさしおて勝手に指示を出したんんだから、もし治らなかったら、どうなるかわかってるんだろうね?」
正直まったく自信はない。だが、わしには多少なりとも勝算はある。とうとうあの能力を試す時がきたのだ。
「ちなみにわしのが効かなかったら、族長のスブムさんにはあんた、どんな治療があるんじゃ?」
「ふん、今日1日無駄になるんだから、さらに強いまじないじゃないと効かないからね。とっておきと自分の中で評判の、“お尻に細長い棒を差して、200m全力ダッシュ5本”っていう切り札をやってもらうよ!」
わしは表に全力ダッシュで出た。
あの男を殺させはしない! そう、力強い意思で全力ダッシュで表に出た。
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