第8話 仙人とは

 実はセイムさんとしゃべっている間中も、ずっとリイナちゃんとは念で会話をしてたのだ。やはり頭の中で考えたセリフをリイナちゃんに向けて発信する方法で会話ではなく念話できるらしい。


 もちろん、セイムさんやレイクくんには内緒だ。初対面でそんなこと言ったら頭の痛い奴だと思われかねないからな。でもなんで、わしだけ念話できるのかリイナちゃんに聞いてみた。


〈アノネ、センニンサマノマワリニモ、イッパイイルノ。シロイノガイッパイミエルノ〉

 いるの? わしにいっぱい白いのがいるの? ちょっと怖いがよくわからないのでスルーしときました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そういえばセイムさん、先ほどからわしのこと仙人と呼んでおるが、それはいったいどういう方なのかな?」

「ええ私達の住むネル地域にはオカタ山という標高599mの小さい山がありまして、1時間30分ぐらいで登れるお手軽さと、王城から近いということもあり、毎年たくさんの観光客や登山者が…」


「それ高尾山(たかおさん)じゃね?東京都八王子市にある高尾山(たかおさん)のことじゃね?」

「はぁタカオサンですか? いえオカタサンですけど…」

いかんいかん、つい普通にツッコンでしまったが落ち着いて続きを聞こう。


「そのオカタ山の頂上に仙人が住んでいるという言い伝えがありまして。」

「登り1時間30分ならすぐに仙人なんて見つかるのでは?」


「それが、仙人さまが住んでいるとされる場所にはいつも霧がかかっていて無理矢理進んでも、もとの場所に戻されたりするといった不思議な場所で、今までたどりつけた人はいないのです。」

「うむ、それでどうしてわしが仙人さまだと思ったのかな?」


「聞いたところによりますと、仙人さまはいつなん時か天より召され、目にも止まらぬ早さで駆け抜け、自分の5倍はあろうかという岩を放り投げるマッチョな老人とのこと。」


 …………………………………へえ。


「あっそして、つるつるとのことです。」


 …………………………………。


「肌がつるつるというわけではなく頭がつ…」

「言い直さんでええ! みなまで言わんでええ!」


「あとよくわからないのですが言い伝えではお顔が福○雅治に似てるとか……どういうことでしょう?」

 ………わしだな。その仙人わしのことだな。


 そもそもこの容姿は地球の小林十郎の頃とは全然違うし…つるつるだし。ひょっとしてその仙人の肉体にわしの魂が入り込んだのか…謎だ。


「そうじゃったのか、それでみなさんわしの事を仙人さまと。しかし、先ほども言ったとおり、今は記憶喪失の身なので、わしのことはジューローと呼んでくだされ。」

「わかりました。ジューロー様。あともう少しで私達の村に着きますわ。」


 左手にレイク、右手にリイナと手をつないで歩く。「ジューロー、ジューロー」となつく子ども達が可愛い。もちろんリイナは念話ですけど。


 今はまだ昼の2時頃だろうか。日差しは強いが森の中なので涼しく感じる。気温は高いが湿度は高くない感じだ。過ごしやすい。5分程歩いたところで100m先に道が開けるのが見える。あれがネル族の村か。


 村人らしき人が入口に立っている。小太りな人がこちらを見つけてドスドス走ってきた。走りながら何か叫んでいる。


「セイムちゃん、大変、族長が…お父さんが…。」

 セイムさんがギクリとした表情を見せる。


 小太りのおばさんが、息を切らせながらも続ける

「先ほど、家の前で…ぜーはーぜーはー…倒れはーはー。」

 落ち着け、お前が倒れそうだ。


 その言葉を聞くやいなやセイムさんは走り出す。ちなみにわしもレイク、リイナを脇に抱えてセイムさんの後を追う。


 チラっと後ろを振り返ると、切ない表情でこちらを見る小太りのおばさんが…あっ走り出した。こちらに向かって走り出した。遅っ、どんどん離される、離される……あ~~~諦めた。その場でへたり込んだ。


 先ほどの場所から100mはあろうか、少し奥まったところに建つログハウスのような建物にセイムさんは駆け込む。


「お父さん! お父さん!」


 中は以外に質素な感じで、左側は台所だろうか、かまどが2つある。横に開けた空間があり、たぶん食堂兼リビングなのだろう。下には木を細く編んだゴザのようなものが敷かれてある。さらにその奥に部屋があるようで、そこが寝室なのだろう。


 その奥の寝室のまん中位に大人の男性が横になっていた。その男性の顔にはハンカチ大くらいの白い布がかけられていた…


 わしは静かに息を飲んだ…。


 顔に白い布をかけられ男性が横たわっている。その傍らには顔を真っ青にした女性がうつむいて座っていた。たぶんセイムの母親だろうか。


「お父さん!お父さん」

 セイムさんが父親に声をかけると、母親がうつむきながら顔を2度横に振る…。


「うそ……」

 セイムさんも顔を真っ青にしてその場に座り込む。


「……静かになさい。今眠ったばかりなのよ。」


……………………………………………………………………………………………………………………………周りを静寂が包み込む。


 自分の心臓の音まで他の人に聞こえそうなぐらいの静寂だ。


「うそよ、そんなの…」

 セイムさんがつぶやいた。


「うそよ~~~~~」

 その時突然「ブフォっっ」という音とともに男性の顔にかけられた白い布が勢いよく吹き上がる。ヒラヒラと舞い上がる。


「んふ~~~ぶがっふが~~~~」

 白い布が顔にヒラヒラと舞い降り口をふさぎ、また舞い上がる。


「んふ~~~ぶがっふが~~~~」

 それを3度ほど繰り返したのを静かに見守った後、白目のセイムがつぶやいた…


「がび~~ん~~~~」


 錯乱してる! 美人だいなし!

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