第13話 ジューローの提案
この国は中央の王城と城下町を中心として豊かな農業、畜産を生業とする東側ナルケル地方、代々森の惠のみで細々と暮らす貧しい西側ネルヌル地方で成り立っている。
我々森の民は代々、年中採れるポポタン(じゃがいも)と海から採れる塩、狩りによる獣肉といった貧しいながらも、ほそぼそと暮らしてきたが、貧しさに絶えかねて豊かな東側へ、わずかな対価を求めて移住する者も増えた。
たとえ“森の貧しい民”と蔑められてもな。まあ、それもわしら族長の森の民を守る事の出来ないふがいなさもあるのだが…
そこで、今までヌル地域とネル地域に分かれていがみあっていたヌル族とネル族をわし等の代で1つの部族として統合して、森の民として一丸となり、体制を整え豊かな東側と対等に渡り合っていこうではないかという提案のもと、前回、族長スブムには俺たちの子どもを結婚させて産まれた子に森の民を引き連れてもらう“運命の定めプラン”と、ヌル族、俺たちの部族がネル族、いわゆるお前達の部族を吸収しておれ様自信が統一族長となり矢面にたって率いてやろうという“楽々安心プラン”提案したのだが…
「どうやら美人のお前の娘セイムはうちの頭の弱い息子はお気に召さなかったようだ。まあ、それはそれでしょうがないので、もう1つの案を通させてもらおうとするかな。」
言い終わると、こちらの表情を覗き込むように見て、ニヤっと下衆な笑みを向ける。
散々長い事1人でしゃべり、ずいぶんと身勝手な提案を押しつけようとする態度にイラッとしたが、これがやつの狙いなのかもしれない。この族長ゲタンはいかにも武闘派な、筋骨隆々な肉体。
それとは対象的に族長スブムは中肉中背、病弱の体つき。この1対1の会談では相手の気迫に押され、雰囲気にのまれてしまうだろう。
ここは副族長のわしの出番かのう。
「なかなかおもしろい提案ではあるけども。結局主導権はそちらが持つという案しかないのかのう。それ以外にも選択肢はいろいろあると思うんじゃけどのう?」
「そうか、前回はそんな提案はなかったもんでのう。じゃあお前さんがたの提案も聞いてやるわ。言ってみい」
と不適な笑みを崩さない。
わしもここは強気にでる。
「そうじゃなあ…
①例えばアナタ達の部族がワタシ達の部族に吸収合併されるとか。
②そもそも部族を統合しずに今まで通りに森の民として過ごすとか。
③お互い対等な関係から、東側の地域を超えるような豊かな地を目指すとか。
今、わしが思いつくだけでもまだまだ選択肢はあるな。」
「ふわっはっはははは」
ゲタンは豪快に笑い出す。
「わしに面と向かって言うとはおもしろい、しかし①と②はわしはおもしろくない。③の発想はわしにはなかった。力づくで奪う以外に東側を超えるという夢物語を口だけでなく、実現させるプランはあるのか?」
このゲタンという男…理不尽なだけではなく、人の話を聞く器の大きさぐらいはあるようじゃな。ふふふっっ、なかなかの人物じゃな。ただの筋肉バカだと思っていたわい。
「ジジイ、お前の名は?」
「ジューローじゃ」
「そうか。ジューロー、今度は5日後におまえがおれの村に顔を出せ。その時にお前のいう東側を超えるプランを聞こうではないか」
よし、ばっくれよう!
「もし来なかったら、おれの統一案を力ずくで実行するからな」
よし、ちゃんと行こう!
「ではジャマしたな!」と颯爽と出て行こうとしたが…
足をひきづってた…まだ足痛かったのかよ!
そうだ!
「ゲタン殿、こんな朝早くから来てもらって手ぶらでかえしては申し訳ないのでのう、こころばかりで悪いんじゃが、この村1番の呪い師カカカがその前の道を50m進んだ所の脇にある落とし穴にはまっていますんで、あなたの村にご自由にお持ち帰りください。」
「なに!あの九死に一生を、九死に二生にした武勇伝をお持ちの呪い師カカカがいるのか?本当にそんな高名な方を連れて行ってよいのか?」
あいつ以外と名前知られてるんだな…。ポンコツのくせに…。
ゲタンは満面の笑みで足を引きずって帰っていった。ちゃんとポンコツを連れて帰っていってくれる事を願う。
ところでスブム族長…完全に気配消してたよね。最後まで。…吸収統合された方がいいんじゃね?この部族。
「ジューロー様、何か案はあるんですか?」
スブムがおどおどして聞いてくる。
「ん~まあ、ないこともないんじゃが、腹が減ったのう。ぐうぐうじゃ。まずは腹ごしらえしようかのう。」
セレブさん、セイムさんで朝食の準備に取りかかってくれていた。
その後、みんな揃って朝食を取る。ふかしたじゃがいもを2個といちぢくみたいな果物を食して終了。いちぢくみたいなくだものはカルンと呼ばれてた。みずみずしく、ほんのり甘い果物で暑い地域にはぴったりだ。
それにしても、朝から色々ありすぎてもうすでに濃い1日だったわ~。まだ朝7時くらいなのにね。
さて、5日後に向けてアイデアを練ろうと外に出ると…昨日の子ども達を含む40人ぐらいが3列になって勢揃いしてた。
「テヘペロ!」
「「「「「「テヘペロ」」」」」」
レイクが挨拶みたいに号令をかけるとみんなが一斉にテヘペロのポーズをとる。例のポーズを…。
レイクなにこの子達…
「仙人様今日は40人集まり、準備万端ですペロ!」
〈ムラノコタチノ、ハンブンクライアツメタヨ。ペロ〉
リイナもいるの?あと二人とも上官につけるサーみたいな感じで、気軽に語尾にペロつけるのやめてくんない。流行っちゃうから。
「今日から我ら子ども部隊は仙人様直属のテヘペロ部隊として誠心誠意使えていきますんでよろしくペロ。」
最後のペロ、ムカつくんですけど…わしバカにしてない?
どうやら、まだ仕事を任せるには早い小さい子や、働けなくなった老人などは暇をもてあましてるようだったので、そういう人たちにでもできる簡単な仕事を任せれば、責任感も自信もつくであろう。
やりがいを与えれば子ども、老人だけでなく森の民全体の明るい未来につながるのではないかと、なんとな~く思う。まあ、とにかくわしのアイデアを形にするには人出が欲しいと思っていたし、レイクの申し出を受け、挨拶をする。
「諸君は幸運である。わしという光に出会えて。諸君は幸運である。わしの手足となれることを。さあ!気の趣くまま叫ぶが良い!神をも恐れぬ! 永遠の挨拶テヘペロをおおおおおお」
「「「「「うおおおおおおお」」」」」
「テヘペロ」「テヘペロ」「テヘペロ」「テヘペロを世界の合い言葉に!!」
うわあああやべえええええ~~~いきおで適当な事言ったのに…。全然意味のない事を厨二病的なノリ100%で言っただけなのに…なんだなんだと村の人が集まってきた。よし、じゃあ後はレイクに仕事は任せて大丈夫だろう。
いつの間にかわしの右腕となったレイクに細かい指示を出して、子どもたちを率いてもらう。よし、これで当分は帰ってこんじゃろう。
セイムさん暇かのう?わしとちょっと出かけませんか?ポッとほほを赤らめる族長の妻セレブ、それを見守る族長スブムもほほを赤らめる。
なんでやねん!おまえら2人は誘ってないっちゅうに。絶対ついてくんなよ。おまえら2人。まあデートでも何でもないんだけれども…
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