第5話 異世界へ転移

「…ミチ、ジューローを送った?」

「いや、送ってないよ…カウントダウン言い終わる前に消えなかった?今。」


「まさか、この空間に干渉できるなんて、あの方クラスしかありえないはずなのに…。はっ、もしかして!やっぱり、惑星アルガズンには転生されていない。ミチすぐにジューローを探して!どこに飛ばされたかを」

「OK」


「早く見つけ出さないと…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 わしは天地左右もわからないような真っ暗闇の中、ただただ落ちている感覚にもまれていた。


 今から赤ちゃんになって生まれ変わるのだ。今のわしは小林十郎として生きた78年の記憶しかない。何回も…42回も転生を繰り返したそうだが、いつも生まれ変わる時はこんな感じだったのだろうか?何も見えない中、ついつい余計な事ばかり考えてしまう。


 正直不安しかない。それはそうだろう、今までの自分の経験をすべて無にして新しく構築し直さないといけないのだ。言葉も生活習慣も、文化も、人もなにもかも全部だ。


 まあ、この不安な思いもすべて消え去って生まれ変わるのだろうから、今思い浮かんだような余計な考えは杞憂で終わるだろうが…。


 いろいろな不安で埋め尽くされていたわしの考えも終着が近いようだ。落ちて行く先にわずかな光がうっすら差してきた。それはちいさな、ちいさな光だったが除々徐々に大きくなる。


 さらば今まで生きた地球の小林十郎、享年78歳。さらばわしの愛しい家族、孫、そして妻さとみ。


「さあ新しい人生の始まりだ!」


 いきんで叫んだ瞬間、長い暗闇のトンネルから抜け出し、まばゆいばかりの光がおれを包み込む! 一瞬にして視界がひらけ五感が戻る。視覚が、聴覚が、嗅覚が、味覚が、触覚が。これが人が生まれ変わる瞬間なのか!


 と思った瞬間におれは地面につきささった。どご~~~んという轟音とともに。


 あれ? 何これ? マンガみたいに自分の半径2mぐらいくぼんでますけど。


 何だこの違和感は…。


 見える範囲で裸です。まあそれはいいとして…、よくないけども、落ち着けわし。冷静になるんだ~~~~~~~~~。

 体が…、見える範囲の自分の体が…、赤ちゃんじゃない…子どもでもない…青年でもない…なんというか…


 色黒で、中肉中背なんだけどもおもったより腹筋は割れている、だけど腕とか足が…自分が50~60歳ぐらいのシワ加減というのか…肌の質感というか…。


 はっと思い顔に手を添えてみると彫りの深い凹凸に、面長の顔。たぶん見えないけど福○雅治みたいな顔か?


 いや、もうポジティブな希望的観測だけなんですけど…。だが一番の問題は…めっちゃ禿げてるっていうか、ツルツル…毛根が根こそぎ無い!


「十郎さんはいくつになっても髪がふさふさで、憎…いや羨ましいですな。」

とカツラをかぶった佐藤さんによく言われていたのに…いざ自分が禿げてみると…


 いや、それよりもまずこの状況はどういう事だ。赤ちゃんから生まれ変わるのでなかったのか?今一度じっくりまわりを見渡してみる。


 あれ、くぼみの2m前にしりもちをついて驚いた顔でこちらをみる、ひげもじゃの野蛮そうなブサイクな男が1人。俺の後ろにはすごい美人風のお姉さんが、子ども(推定10歳)を2人抱きかかえて覆いかぶさって、かばっているようだ。その3人が俺をビックリした顔で凝視している。


 すると…


「¥*>⁂∂Å☆~~~⁂」

 ひげもじゃが、いきなりわけのわからない奇声をあげて立ち上がった。こちらに斧を向けて何か怒鳴りちらしているが何言ってるのか全く分からない。


 ひょっとして言語が違うのか? あたりまえか、国どころか星ごとちがうのだから。などと考えていたら、ひげもじゃがものすごい形相で斧を振りかぶり、いきなりおれに振り下ろした。


 あまりにも突然すぎて体が硬直する。時がゆっくり流れているかのようにスローモーションに見えた。周りの音は聞こえず自分の心臓の音だけが響く。


 情けないが何の考えもおよばず、ただ頭の上に振り下ろされる斧を見て、とっさに頭を守るために、両手をクロスして防ごうとした。何の防御にもならないだろうな…とも思いつつ…手を出した。


「わしの人生もう終わりか…。」


 これがこの世界に産まれ落ちてすぐに殺されそうになった、わしの最後の言葉…



 とはならなかった。

「「おまたせ~~~」」

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