第36話

 ハーゲル家の申し出は、ドライデスフルセスと尊敬同盟アフトゥグを結びたい、というものだった。これはけっして相手の権利を侵害せず、野心を見せず、困ったときはお互いに助けることを誓うものである。軍事的な内容は含まないもの、タルランド内では州同士でも結ばれたことのない同盟であった。

 議会では議論が紛糾していた。ハーゲル家とはこれまで特につながりがなく、意図が読めなかったのである。

「おう、ただいま!」

「ああ、ラーズン。おかえりなさい」

 勢いよく部屋に入ってきたラーズンは、ソファにどっかと腰を下ろした。

「まったく、きつい旅だったぜ」

「ご苦労を掛けました」

「ハーゲル家領ってのは、ずいぶんと遠いもんだな」

「領内に入ったのですか?」

「いや、手前まで行った」

 テューアは部下に、ハーゲル家の調査に行かせた。ラーズンはその護衛である。

「どう感じましたか」

「まあ、悪い噂はなかったよ。近隣の州とももめ事はない。ハーフェンとのつながりもそんなには深くなさそうだ」

「そうですか」

「ただ……へんてこな人間が多いと聞いた」

「へんてこ?」

「まあ、芸術家ってやつだ。絵描きや音楽家、詩人や軽業師。そういう連中が多く住んでいるらしい」

「ふうむ。まあ、報告書を見て判断しますか」

 そう言いながら、テューアは地図を広げた。ハーゲン家領の場所をじっと見つめる。

「文化、もありですね」

「またなんか思いついたねー」

 テューアにとって、「財政の新しい柱」を見つけることは急務となっていた。旧教教会を利用した公的な宿泊所の案は、グラウによって否定されてしまった。いろいろと理由は述べられたが、実際にはリーベレンラフィンのせいだと考えている。

 宗教的権威をどのように解体していくかは、急務の課題であった。グラウの目的の中にもあったはずである。しかしリーベレンラフィンとの結婚により、それはより難しいものとなってしまった。

「文化的な拠点を築くというのは一つの案でしょう。旅人が興業を見るために宿泊数を増やせば、それだけ街に活気が出ます」

「けど、演者にメリットはあるのかね」

「まあ、そこですね。保護する条件などを整えていけば、ですかね」

 人を集めればお金も集まるが、タルランドにはある重要な課題があった。冬である。雪に閉ざされる冬季は、人の往来が難しくなる。また、食料の確保だけでも一苦労であり、「生産しない人々」の分まで何とかするのは大変なのである。

「解決、しないとですね」

 テューアは、ペンで机をたたいた。

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