尊敬同盟
第34話
テューアは、自室で頭を抱えていた。
内戦は終結したものの、戦争の後始末は残っている。何より大変なのは財政についてである。
教団からいくらか権限を奪うことにより、税収が増えるとの見込みだった。しかし、思ったよりもそれが少なかったのである。
また、そもそもクーデターに協力した者たちへの報酬の支払いも残っていた。今回の戦費と共に重くのしかかっている。
「新たな収入源が必要だ」
今後は他州や外国との戦争も起こるかもしれない。その時に必要なのもお金である。
義教勢力に対して、二州は援助をした。旧教勢力として態度を示したともいえる。いずれ新教勢力との間で争いが起こる可能性が高い。
税収を上げるのは避けたい、とテューアは考えている。ただでさえ農民の流出が危惧されているのである。それに加え、戦争の後には傭兵たちが村に居座るという問題もある。国内需要があったことで、外に出なかった傭兵たちが冬までドライデスフルセスで過ごそうとした場合、仕事がない。そのため無職の男たちがうろつき、治安が悪化する。それを取り締まるのにも経費がいる。
「仕事を作るか」
かつて幾度も同様の状況に見舞われたが、無職の者たちを救うには仕事を作るのが一番である。しかししばらく戦争はない。それならば、道の整備や治水工事に人々を動員するのが対策となる。だが、それにもお金がいる。
結局、元手が必要なのだ。テューアは頭を抱え続けた。
「グラウはどうするつもりだったのだ」
そんなテューアの様子を見かねて、ディアマントが声をかけた。正直なところ、護衛騎士は平時は暇だった。テューアが書類に向かい、ディアマントがそれを見ているのは幼い頃の二人の勉学の様子に似ていて、彼女は少しそれを思い出していた。
「財政についてですか? あまり深く考えていなかったふしが……」
「そうなのか?」
「前議会から引き継げばいいと思っていたのでしょう。ただ、前議会もそんな健全な状況では……すみません」
「今更気にするな。父にも至らぬところはあっただろう」
前議長はディアマントの父である。調停勢力は三百年間、議長職を引き継ぐという形で権力を所持してきたのである。
「タルランドは資源に乏しい土地です。内部で争いが起きれば、国力が衰えその隙に諸外国に攻め込まれるかもしれません。連帯は一気に、穏やかに、十分な余裕のもとに行われなければなりません。どうしても安定した財源が必要なのです」
「あてはあるのか」
「いくつかは考えているんですが」
「教えてくれ」
「姫様、興味あるんですか?」
「……暇だからな」
護衛騎士は鼻の頭をかいた。
「そうですか。ええっとですね、一つは公営の宿を作ります」
「宿?」
「はい。僕たちも旅の途中、困りましたよね。商人たちも難儀しています。村々では専門の宿を運営するのは難しいところも多いです。そういうところに国の運営する宿を作り、旅人の安全を保障します。これは教会を利用するつもりです。今も教会は宿泊させる代わりに寄付を募っていますが、きちんとした形で形態を整えます。通訳を置くのもいいでしょう。ドライデスフルセスは旅しやすいとなれば、商人や移住者も増えるかもしれません」
「なるほど」
「次に、為替を強化します」
「為替?」
「これは僕の予想なんですが……今後、為替業はとてつもなく発展します。その土地土地で新しいものが開発されれば、交易は今より栄えます。その時に、お金を安全にやり取りするのが大事になるでしょう」
「ふむ」
「そこで、安全で公平な為替業を発展させるのです」
「安全で公平?」
「山岳領団及び休職中の傭兵を警備に当てます。山岳領のように、荷物の輸送を手伝わせてもよいでしょう。安心安全にいつでも換金できるとなれば、お金も集まります。また、どこからも取引を受け付けます。ここでも通訳が活躍するでしょうね。宗教、身分にかかわりなく取引をすることを保証するのです。またそこに税をかければ新たな税収にもなります」
「いろいろと考えているものだなあ」
「リヒト家で学ばせてもらったことは、役立てていかねばと思っています」
「お前が議長ならば、と思うよ」
「権力がないからこそ動けることもあります。まあ、フリーダーの力を借りているところは大きいですが」
テューアは、髪をかきむしっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます