第3話

「どうするのがいいと思う、テューア」

 二人の兄弟は、庭にいた。テューアはまだ幼く、グラウは十八だった。病気がちな父と長兄に代わって、グラウがザトアン家のことを取り仕切っていた。

「使用人のことですか」

「ああ」

 グラウの視線は、遠い空の雲に向かっている。テューアは、花壇に植えられた花に、蕾がついているのを発見したところだった。

「少し、考えてみます」

 使用人の一人が、皿を盗んでいたことが分かった。一度きりではない。その皿を売っていたのである。グラウはまだ、処分について決めていなかった。

 テューアは、目をつぶって思索した。彼の兄は、助言を求めるような人間ではない。幼い弟のことを試しているのだということが、はっきりと分かった。

「いいですか」

「ああ」

「続けて働いてもらうのがいいと思います」

「ほう。盗人に罰を与えず、雇い続けるというのか」

「罰は……少しは与えても。でも、思うんです。新しく雇う使用人が、善人である保証はありません。でも、一度罪を犯した人は、悪人であることがはっきりしているので、対応しやすいんじゃないでしょうか」

「おもしろいな」

「あと、ばれてしまったわけですから、次の悪事もばれると思ってなかなかできないはずです。新しい悪人はばれるのを恐れないでしょう。だから、一度罪を犯した者を雇うのは効率がいいと思います」

 グラウは視線を下げ、弟の目を見つめた。

「俺にもお前のような聡明さがあれば、と時折思うよ」

「そんな」

「確実に、お前は天才だ。俺と違って。ただ、俺にしかわからないこともある。いいか、雇う側としては、やはり罪を犯した者がいるというのは、不安だ。そしてそれを赦せば、他の者も『赦されるなら』と気が緩んで、小さな悪事をなすようになるかもしれない」

「……はい」

「なぜこの世に罰があるか。それは本人の贖罪からだけではない。他の者への警告でもある。いいか」

「わかりました」

 グラウの右手が、テューアの頬を撫でた。

「お前のその聡明さは、きっといつか俺の助けとなる。もし俺に何かあれば、お前が当主だ。いいか、お前は自分の考えを貫け。そして俺は、俺自身を信じ続ける」

「はい」

「いいか、お前はあと何年かでこの家を離れるだろう。それでも、ザトアン家の人間であることに変わりはない。俺は、この国の未来自体も変えるつもりだ。その時、必ずお前の力が必要となる。頼んだぞ」

「えっ、はい」

 このときにはまだ、兄の言っていることの意味は分からなかった。ただ、聡明なテューアは、兄がどんな性格の人間かということははっきりとわかっていたのである。

 結局、使用人は処分された。

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