第28話 私の最愛

「だから、ああくそ。お前を愛してなきゃ、またヤりたいとか、そういうの思わないんだよ、気付け! そういう意味で好きなの!」


 どうにも間抜けな告白になってしまった。もう少しカッコよくというか、余裕のあるものにしたかったのだが、これが俺の限界という事だろうか。シルトは、俺の言葉を聞いて黙り込む。暫くはそのまま固まっていた。

 コイツ、息まで止まってないだろうな、大丈夫か? 瞬きさえも忘れているような硬直に少し心配になる。顔を覗き込もうとした瞬間に、シルトが動く。その両腕が俺の腰を掴む。同時に俺の足は地面から離れ、シルトはそのまま軽々と俺を抱き上げた。


「──ああ、ああ! 愛している、タカユキ!」

「あ、危ねえ、振り回すな、落ち着け!」


 俺を抱き上げながらシルトは笑う。口を開いて、無邪気な笑い声を上げながら。俺を高く抱き上げながら笑うその姿は、俺が見たかった光景そのものだ。それはとても美しく、眩いものだった。心の奥が温かくなる。俺は文句を口にしながらも口許が緩むのをとめられない。

 俺とシルトの気持ちがやっと重なった。今この瞬間が、最高に幸せだ。

 今にして思えば、こうして出会えて一緒にいられるのは奇跡みたいなもんだろう。あの日、俺がこの世界に来ることがなかったら今のシルトはいないし、生まれ変わって黒髪じゃなければ俺はここにいられなかった。

 神様とやらがいたならば一発殴りたかったが、終わり良ければ総て良しともいう。仕方ないので、許してやるとしよう。


 だからどうか、ここから先は─────イージーモードでよろしくお願いします。



 ◆◆




『─────むかしむかし、ある所に四本角の皇帝がいました。彼はとても強くて、頭もよく、偉い皇帝でしたが、実の父親まで殺してしまうとても怖い皇帝でした。彼は決して笑わず、嬉しい気持ちも抱けない人だったのです』


『そんなある日。皇帝の角が一本欠けてしまいます。まあ、なんて事でしょう、その知らせにみんなが悲しみました』


『しかし、その欠けた角から一人の一本角が生まれたのです。その男は、角が一本なのにとても美しい黒色の角をもっていました。すると、どうでしょう。怖かった皇帝でしたが、その一本角がそばにいると楽しそうに笑うようになったのです。皇帝が笑えば、みんなも安心して笑えました』


『いつの時か、誰かが囁きます。そうか、皇帝の角はなくなったのではないのだ! だって彼こそがきっと、その角なのだ! そうしてそのお話は世界中に広まりました、後の世に彼はこう言われる事になります』


 『─────皇帝陛下の、大切な四本目の角。幸運の黒い角。誰もが祝福する中、二人は離れず、ずっと一緒に暮らしたそうです』


『めでたし、めでたし』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る