第33話 凪story DAY3
異常事態三日目。
私達はずっと家に引きこもっていた。三人で同じ部屋に篭り、スマホで情報収集をする。
私は、こっそり
するととある掲示板が目に入った。
『求む職業持ち! 権能を考察し合おう!』
これだと思い、私は掲示板を開く。
【職業】「
1:火魔法使い
twit荒れたのでこっち来ました。twitで噂の火魔法使いです。ワイと同じく力に目覚めし同志達集まれ!
2:風魔法使い
どうも。同じくtwitでアカウントごと削除した風魔法使いです。無知どもが。あいつらまじ許さん。
3:火魔法使い
おお!同志よ!ちな権能は?
4:風魔法使い
ウインド。強風吹かせるだけw
5:火魔法使い
それは……orz
6:風魔法使い
そっちは?
7:火魔法使い
イグニッション。焚き火くらいの火をぶつけられる。名前はカッコいいけどファイヤーボールみたいなもん
8:風魔法使い
俺とどっこいどっこいじゃねぇかw
9:剣士
ども。職業剣士です。
10:火魔法使い
おお!同志よ!
11:風魔法使い
やっぱり魔法だけじゃなかったのか。権能は?
12:剣士
ソードマスター。剣術が上がる権能です。
13:火魔法使い
それってどれくらい?
14:風魔法使い
抽象的w
15:剣士
うーんわからんw戦ったことないしw
16:火魔法使い
それもそうかw
17:勇者
どもー!勇者でっす!権能はブレイブリーソードです!
18:火魔法使い
職業ってレベルアップあると思う?
19:風魔法使い
無視www
そういう話はなかったな
20:火魔法使い
隠れステータスとか流石にないときついんだが?
21:剣士
使っていくうちに威力上がるくらいはあるのでは?
22:勇者
お前ら厨二病会話痛すぎ(笑)仕事しろ(笑)
23:火魔法使い
>>22
ブーメラン乙w
24:風魔法使い
>>21
そうであってくれる事を切に願う
25:火魔法使い
>>24
だな。このままじゃ使いものにならん
26:風魔法使い
てか攻撃系の職業しかいないなぁ……
補助系とかの職業いませんかね?
27:火魔法使い
どうだろうな?流石にいると信じたい気持ちはあるw
28:剣士
ワールドオーダーなる存在が脳筋じゃなければあるでしょ、たぶんw
……。
それからも、つらつらと雑談混じりの情報交換が行われていた。更に何名かの
(書き込もうか……)
自分もこの会話に参加したいという思いがあった。しかし、私はこう言った掲示板などに書き込んだことはなく、twitも完全に見る専であった。
それ故に、書き込み方が分からず、結局情報収集するだけに終わってしまった。
その日の午後。
ひっきりなしに今回のゴブリン騒動を取り上げていたニュース番組がこんな事を言っていた。
「一昨日、昨日と続いていた未確認生物騒動ですが、本日の昼頃に現れると予想されておりましたが、未確認生物の増加は確認出来ませんでした。警察は自衛隊と連携し残りの未確認生物の掃討を行っているとのことです。市民の皆様は極力不要な外出はお控えください」
それを観たお母さんとお父さんが喜びの声をあげる。
「まあ! じゃあまたすぐにいつもの日々に戻れるのね!」
「そうだな! これで一安心だ!」
「……そうだね」
そう三人で笑う。しかし、私は心の中で違和感を感じていた。これで本当に終わりなのだろうかと。
ゴブリンとかホブゴブリン、この二日間で分かっているだけで千人以上もの人達が亡くなっている。しかし、この状況が仮に人為的だとしたら、これで終わらせるだろうか。終わりだとしたら何を成し遂げたのだろうか。
普段私はあまり物事を深く考えないが、この時ばかりは珍しく考え込む。
「おい、凪! 大丈夫か?」
俯いたまま動かない私を見て心配した私を見てお父さんが声をかけてくる。
「あ、うん! 大丈夫だよ!」
心配するお父さんに、私は精一杯の笑顔を向ける。
きっと私の考え過ぎだ。それにすぐに国が何とかする方法を見つけてくれる。
そう信じ、私達は引きこもりを続けた。
それから数時間後、日も暮れ始めた頃、窓の外から声が聞こえてきた。
「市民の皆様、こちら自衛隊です。今回の事件を受け、市民の皆様の安全を守れなかったこと、心よりお詫び申し上げます。また、今回の事件を一刻も早く解決する為、引き続き警戒をしておりますので、市民の皆様は不要不急の外出はお控えください。ご協力よろしくお願いします」
その声を聞いて、私たちは安心する。
やっぱり先程の不安は考え過ぎだったのだ。
そう思った時だった。
遠くからパパパンという銃声が鳴り響いた。
「きゃあ!」
「なっ、まだこんな近くにゴブリンがいるのか!?」
抱き締め合う両親を見て私は思った。強さが欲しいと。だがしかし、そう願っても何かに目覚めることはない。
(私の
今、ネット掲示板の彼等が羨ましいと心から思う。
そういえば、田中さんはどうなのだろうか。田中さんは自分で、俺の権能は戦えないなどと言っていたが、ならば何故外に出ているのだろうか。もしかしたら、戦う力を手に入れたのだろうか。
そんな事を考えるが、実際のところは分からない。財布を消した力のことも結局聞かなかった。恐らく、答えもしなかっただろう。
未だに外からは銃声が鳴り響いている。
「長くないか……?」
「そうね、確かにちょっと長いわ……」
確かに長い。既に十分以上もの間、銃声は響いている。
もしかしたらこの時間にゴブリン達が湧いたのかもしれない。
ゴブリン達は二日連続で決まった時間に湧いていたが、確かに定時にしか湧かないなんて決まっていない。
私達は銃声に怯え、部屋の隅で丸くなっていた。
お父さんは気丈に私たちを励ましてくれるが、その声は震えている。そして、お母さんも肩を震わせ、銃声から耳を塞ぐ。怖い。
つい先日まで非日常を望んでいた自分を恥じる。私が望んでいたのは「自分が主人公となる自分にとって都合の良い世界」であった。
しかし、現実で非日常が起こると、自分はその陰で怯える単なる一般市民でしかなく、この重大事件を解決する力をもたない凡人だ。
先頭に立って人々を導き、それを阻む敵を薙ぎ倒す。そんな力は私にはない。
「火事だあぁぁーーー! 逃げろー!」
突如外から叫び声が聞こえてきた。
私達は慌てて窓ガラスから外を見る。
「燃えている……」
少し遠くではあったが、ここら一帯の家々が燃えている。一軒二軒ではない。意図的と思われるほどの火の海がそこに広がっていた。
「何で……」
呆然としてしまった。
もう夜だというのに、目の前の道路を悲鳴を上げながら人が走っている。遠くからは未だに銃声が鳴り響き、戦闘が行われていることがわかる。
「お、俺たちも逃げよう!」
「ええ!」
「うん!」
お父さんとお母さんはそう言って立ち上がり、部屋の隅に置いておいた避難用の荷物を取る。災害用の一式が入ったバッグが家族三人分。それと財布とスマホ。全部ある。
「よし! じゃあいくぞ!」
お父さんに手を引かれ、私達は逃げている人達と同じ方向に逃げる。どこに逃げているのかも分からない。だが、確かに銃声からは遠のいているような気がする。
ゴブリン達もおらず、私達を阻むものは何もない。無事逃げられるかも。
そう思った時だった。
目の前を走っていた夫婦が、突撃してきた車に挟まれて壁に激突する。
「ヒィィー!」
「キャー!」
(え? え?)
突然の出来事に混乱する。
暗い緑色。特徴的な形の大型車。
名前は知らないが、確か自衛隊が使っている車だったはずだ。
横のドアがガチャリと開けられ、車の中から血塗れの自衛官が降りてくる。
身体からは血を流し、意識が朦朧としているのか、まるで幽霊のようにだらりと体を垂れている。
その自衛官は一歩一歩踏みしめるようにこちらに歩いてくる。その様は少しこづいたら倒れてしまいそうなほど弱々しく、肩を貸して上げそうになるくらい貧弱だった。
「お、おい大丈夫か……?」
思わずと言った感じで、私より前にいた男性が声をかける。
すると突然、その自衛官はバッと顔を上げ、手に持っていた小銃をこちらに向けて発砲を始めたのだ。
「キャァァァァァァァーーーーーーー!」
「な、何故自衛隊が!? ぐわぁっ!」
「逃げろぉぉぉぉぉ!」
叫び声と銃声を聞きながら、私達は逃げた。周りの人たちに揉みくちゃにされながらとにかく反対方向に逃げた。
そんな時だった。
「きゃあ!」
聞き覚えのある声に振り向くと、お母さんがお腹を押さえて蹲っていた。
「大丈夫か!?」
「お母さん!」
私達は慌てて倒れたお母さんに駆け寄る。
お母さんのお腹からは血が滲みんでいた。どうやら銃弾の一発がお腹を貫通したらしい。
「お母さん!」
「凪、あなた、私は大丈夫だから貴方達は先に行きなさい」
「良いわけあるか! 夫が家族を見捨てて逃げる訳ないだろ!」
「そうだよ! 私達はずっと一緒だよ!」
「だめよ! 逃げなさい!」
私はお母さんを抱きしめようとするが、お母さんは逆に私を押して逃がそうとする。
「嫌だ! 離れたくない!」
駄々をこねる。もう行く場所なんて何処にもない。どうせ死ぬのなら、三人で一緒に死にたい。
お父さんもそう思っているはずだ。
そう思ってお父さんを見ると、お父さんは何故かお母さんではなく私を見ていた。
そこにあったのはどこまでも深い愛情を込めた瞳。
「お前は先に行け! お母さんは俺が何とかするから!」
「嫌だ! 私もここにいる!」
「言うことを聞きなさい!」
「うぅ……いやだよぉ……」
泣きじゃくる私にお父さんとお母さんは言った。
「愛してるぞ、凪」
「愛してるわ、凪」
「わ、私も二人のこと……愛してる、あいしてるがら……」
その言葉に二人はにっこりと笑うと、私を押す。
「行けぇぇぇぇぇ! 私たちを置いて逃げろぉぉぉぉぉぉ!」
「行って! 凪! 早く行って!」
「うぅ、ううわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー」
背後から聞こえてくる銃声を背に、私は二人を置いて全力で走り出した。
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