第28話 調査

切り刻まれた死体を見て、一般参加の男性陣に少なからず動揺が走る。


「皆さん、落ち着いてください。ここは一度退却し、ここで見た情報を持ち帰りましょう」


リーダー格の警察官がそう指示すると、俺達の班は足早に警察署に戻っていった。


俺達が警察署に戻ると、リーダーの警察官が釘を刺してくる。


「皆さん、大変申し訳ないのですが、今回の件について他の市民の方々を不安にさせないよう、秘密にしておいていただけますか?」


申し訳なさそうに言ってはいるが有無を言わせない圧力がそこにあった。


その後、早々に班は解散となり、俺は手洗いうがいをしてラウンジに戻る。そのまま凛と澪、凪の三人が座る席に着くと早々に澪が話しかけてくる。


「ただいま」

「おかえりっす!」

「あら? 和彦、早かったじゃない。もしかして何も出来ずに追い出されたの?」

「そんなわけあるか」

「おかえりなさい。何か危険なことでもあったんですか?」

「多分。いや、どうだろう。ちらっとしか見てないから分からん」

「何それ?」

「それだけじゃわからないっすよ」

「いや、箝口令かんこうれいが引かれたから言えない。必要だと上の人間が思ったら説明があるだろう」


そう言って俺は口を閉ざす。


(あの死体、不必要なくらいバラバラになっていた。しかも、魔物も人間も関係なく。なら、犯人は……)


あくまで可能性の一つだ。

今頃は警察官が調査部隊を編成し、死体の調査に向かっているのではないだろうか。


調査結果などまず間違いなく共有されないだろう。どうにかして知る方法はないだろうか。


「何か起きてるってことっすよね?」


考え込んでいる俺を見かねた凪が話しかけてくる。


「ああ、しかもあんまり良くない方で」

「ふむふむなるほどっす! そういうことならこの凪にお任せを!」

「え?」


力強く胸を叩き立ち上がる凪に、俺は不安を隠せずにいた。


「凪、お前何するつもりだ?」

「そりゃもちろん和彦さんのお力になることっす!」

「いや、危ないことはしないで欲しいんだが?」

「大丈夫っすよ! この警察署からは出ないっすから!」


ここも別に安全というわけてはないが、外に行かれるよりはマシだろう。


「変なとこに首を突っ込みすぎるなよ? 知れればいいくらいにしか思ってないんだからな?」

「分かったっす! じゃあ行ってくるっす!」


どう見ても分かっていなそうな凪は俺に笑顔を向け、走ってどこかに行ってしまった。


「あれ、本当に大丈夫かな?」

「大丈夫じゃない? あの子、学園でも結構交友関係広かったし」

「いや、警察が捜査状況を教えてはくれないだろ」

「私に言われても知らないわよ、そんなこと」


それはそうだ。


「凪さんなりに考えあってのことだと思います。私は凪さんを信じます!」


凛が両手を握りながら力強く語ってくれるが、俺の心のもやは晴れることはなかった。


…。


凪と次にあったのは、その日の夕日が沈みかけた頃だった。再度、凪と共に収納空間インベントリに入った俺は、飲み物を用意し話を聞く。


「死体はどうやら真新しかったらしいっす。死後一日も経ってないくらい」

「へー。ということは殺されたのは昨日のお昼辺りか」

「そうっす! それと切り口は物凄く鋭利な物で切断されたみたいっす」

「鋭利なもの? 包丁とかか?」

「いや……どうやら人間技じゃないみたいっすよ」

「人間技じゃない……か」


人間技じゃない。


「魔法、もしくは切断系統の職業ジョブ

「だと思うっす」


魔法で鋭利な刃といえばまず最初に思いつくのは風魔法だろう。そう言えば澪が風魔法の使い手がtwitに動画を上げていたと言っていた。


人間が自分の欲望のために人間を殺す。笠原を見て、そういったことがこんな世の中でも十分あり得るということがわかった。


まだあくまで可能性だが、頭の隅に入れておく必要があるだろう。


それよりも今は疑問に思うことがある。


「こんな情報、どうやって調べたんだ? 聞いたら教えてくれる、なんてことはないよな?」


女子校生に情報をペラペラと話すような警察官がいるとはとても思えない。なら、俺達探索チームに先に教えておいて欲しいくらいだ。


そう思っていた俺に、凪は一瞬寂しそうな表情をする。だがしかし、そんな表情はすぐに消え、笑顔になり答えてくれる。


「自分の職業ジョブ、【探偵】っすから!」




ーーーーーー。


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