第29話 凪の職業
職業・探偵。
「探偵?」
「そうっす! 探偵っす!」
名前からして調べる事に長けていそうな
「それで調べたの?」
「そうっす! そういう権能っすから!」
「ふーん……」
(探偵の権能……、なんだろ? 聴覚強化とかかな?)
流石に、キック力上昇や麻酔付与なんて権能はないだろう。
「権能は……」
「ちょっと待て!」
「わっ! なんすか?!」
教えてはくれないだろうと思ってたら凪の方から教えてきた。慌てて引き止める。
「いや、凪。あんまり俺のことを信用するな」
自分でも何を言ってるのかわからない。俺のことを信用するななんてリアルで言うとは思わなかった。
「でも自分、和彦さんの
「……」
(記憶を無くす前の俺! 何してんだぁーーーー!」
権能ならともかく
人に教える必要がないのに、知られると致命的な情報。
それが
「俺、そんなに凪の事信用してたの?」
「そうっす! 信用されてたっす!」
「そうか……」
いよいよもって、記憶を無くす前の俺の行動が謎めいてくる。
「あの……」
「ん?」
俺が複雑な顔で黙りこくってたら、凪が心配そうに聞いてくる。
俺は少し俯いていた顔を上げ、凪を見る。
「自分……もしかして和彦さんに嫌われてるっすか?」
「え?」
そこには、先ほどまでの天真爛漫な笑顔は消え、涙を流し俯くか弱い少女がいた。
「凪……」
「自分、和彦さんに救われたんす。だから……和彦さんの力になりたいんす。けど……和彦さんが嫌がるなら自分、身を引くっす」
その言葉に俺は何も言えなくなっていた。他人にそこまで言わせるほどの魅力があるとはとても思えなかったからだ。
それとも記憶を無くす前の俺の
「自分、大事な時に和彦さんの力になれずに逃げ出した無能っす。命を救われたのに逃げ出すことしかできなかった臆病者っす!」
「そんなことはない!」
俺は立ち上がり、凪の肩を掴む。
「まだ何も思い出せてないけど、たぶんきっと……その方が良かったんだ」
まだ凪の事は俺は何もわからない。何の根拠もない。だけど、自分の事をここまで信じてくれた女の子を信じたい。
「ぐすっ……。やっぱり和彦さん、優しいっす」
涙を流しながらも凪は笑顔を見せてくれる。やはり女の子は笑ってるのが一番だ。その笑顔を見て、俺は決意した。
「もし凪が望むなら、家に帰れるようになるまでここにいればいい。大丈夫。お前一人分の食い扶持くらい何とかしてやるから!」
俺は胸を張って答える。まだ先の事は全然分からない。だがしかし、俺は目の前で涙を流す女の子のために頑張りたいと思った。
「ありがとうっす。和彦さん、記憶を無くしても同じことを言ってくれるんすね」
「記憶を無くす前も同じことを?」
「そうっす。だって自分、もう行くところ……ないっすから」
「行くところがない……? 実家は? 親と離れ離れになった、とか?」
そういう言い方ではない。そう思いながらも俺は一縷の望むにかけて聞く。しかし凪の口から漏れたのは、俺の予想通りの答えだった。
「そういえば忘れちゃってたっすよね。自分、両親殺されちゃったんすよ」
ーーーーーー。
今回短いですがキリがいいので。
次回より凪sideが9話続きます。田中和彦が忘れた空白の五日間。乞うご期待ください。
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