第27話 純粋
その日から山本をラウンジで見なくなっていた。
恐らく子どもを持つ親御さんからクレームが入ったのだろう。
部屋で軟禁状態にあるらしい。とはいえ、第二、第三の山本が現れないとも限らない。
早急に対策を取るべきだとは思う。
「あの……」
ラウンジでまた暇をしていると、凛が声をかけてくる。
「何?」
「ここでは何ですのでついて来ていただけますか?」
「え、うんいいよ」
ここでは話せないこと。俺の
凛について人のいない場所まで行く。
しばらく逡巡していた凛だが、意を決したように口を開く。
「和彦さんは……物資回収にご参加なさるのですか?」
物資回収。辺りのコンビニや家々を周り使える物を片っ端から拝借する仕事。
「もちろん行くよ」
俺は即答した。
もちろんここにいる人達のことを優先させてもらうし、取りすぎないようにはするが、それでも充分メリットがある。
「そう……なのですか」
「うん。え、何で?」
行くに決まってる。何故そんな分かりきったことを聞くのだろうか。
凛は視線をウロウロさせたが、すぐに俺の目を見て答える。
「あの、もしかして和彦さんのお力で」
「うん。あ、もちろん取りすぎないようには注意するよ。ここの人達を優先するよ」
「いえ、そうではなく……」
何だろうか。
「あの……和彦さんのお力をここの人達の為に役立てたりはなさらないのですか?」
「え?」
予想外の質問だ。
「和彦さんがお力を隠したいということは分かります。ただ、ここには子どもも沢山います。和彦さんのお力ならきっとここの人達を助けられます!」
「ああー」
なるほど。凛の言いたいことは分かった。確かに
何ならここにいる人達を
ただ……。
「悪いけど俺にその気はない」
「え……」
凛は衝撃を受けたような顔をする。そんなに意外だっただろうか。
「理由は幾つかある。けど、一番の理由は危険だからだよ」
「危険……ですか?」
「そう。例えばだけど、世の中の社会人で、自分の給料や貯金を他人に喋る人って基本いないんだ。それは何故かわかる?」
「それは……」
凛が言い淀む。学生にはまだ少し難しいか。
「危険だからだよ。要らぬ嫉妬や妬みだったり、無用な争いや知り合いからたかられたりといった面倒ごとを引き起こすんだ。それと同じ。この力は非常に強力なものだ。そんな力を彼らが知って、俺に危害を加えないって保証があるのかな?」
「それは……」
「彼らが全員純粋無垢な子ども達っていうなら喜んで助けることに賛成するよ。でもそうじゃない」
彼らを俺の
事実、俺は笠原に殺されかけた。ここにいる男達も嗜好品などの贅沢品を占有している。危険なことをしたのだから見返りが欲しいというのは分かるが、同時に山本のような人間を生み、人間関係に亀裂がはしっている。
自分、もしくは自分の家族が最優先。こんな世界になっても人々の行動原理は変わっていない。
「……分かりました。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
「いやいいよ。凛が優しいのは知ってるから」
他人の事を思い合えるから、見ず知らずの俺を自宅に招いてくれたのだ。凛の純粋さは人としての魅力であり長所だ。
だが、俺はそこまで純粋にはなれない。
「じゃあ俺はもう行くね」
「はい。お時間をいただきありがとうございました」
「うん。じゃあ」
お礼を言って頭を下げる凛をおいて、俺はラウンジに戻る。
それから暫くして、警察官の一人がラウンジにやって来て、物資回収班の募集をする。
俺は即座に手を挙げて警察官について行く。
他にも家族がいる男性や独り身と思われる男性が手を挙げて警察官について行った。
そこで初めての人の講習が行われ、防弾ジャケットと大きめのバッグを渡される。
そこで俺と同じように講習を受けていた男性が手を挙げて質問をする。
「すみません、拳銃とまでは言いませんが、せめて警棒くらいは貸して欲しいのですが」
「それは出来ません。一般市民への武器の貸し出しは許可されておりません」
「いや、こんな世の中ですよ? 警棒くらいは貸してくれてもいいのでは?」
「いえ、申し訳ございませんが武器の貸し出しは出来ません」
それから何度か男性が食い下がるが担当の警察官は武器の貸し出しはできないの一点張りだった。
男性はこれ以上食い下がっても無駄だと分かったのか、諦めて質問をやめた。
「道中の安全は我々が保証いたしますのでご安心ください」
そう締めくくり移動を開始する。
三班に分かれ今日探索する場所に歩いて行く。道中はあまり魔物がいない。
定期的に警察官だけでここら辺の魔物の間引きをしているからだ。
地元じゃない俺にはもうこの辺りの道は分からないが、警察官だけあってここら辺の道には詳しいのだろう。迷う事なく目的地であるコンビニエンスストアにたどり着いた。
そこで見たのは、無惨に切断されて殺されたゴブリンとホブゴブリン、そして人間の死体だった。
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