第23話 ご飯
「本当に!? ありがとう!」
「和彦さん、ありがとうございます!」
思春期だししょうがないか、などと思いつつ、一つの懸念事項について聞いてみる。
「二人の部屋の転移先、上書きしちゃっても大丈夫?」
「え、あ、まだゴブリンさん達が居座ってるんですよね?」
「ああ、ありゃしばらく居座るだろうね」
「そうですか……。でしたら戻れないですし私は大丈夫です」
「私もいいわ。必要なものとか全部持ってきてるし、家ももう引っ越す予定だったから」
「そうか。じゃあ早速……」
二人の許可も出たので双子の姉妹の部屋の固定を外す。
これで次の次の帰宅で自動的に上書きされるはずだ。
「それにしても和彦の能力、本当に便利すぎない?」
「私もそう思います。すごいお力だと思います」
「まあ、なんかいつの間に手に入れてた力だけど」
何もしなくても持ってる隠されたエクストラスキルでもあるのだろうか。
記憶にある限りでは、あの声の中にはレベルやスキル熟練度なるものは言ってなかったはずだ。ただ空間魔法使いになったと、それで
しかし、手に入った時アナウンスがないとおかしいと感じてしまうのは、きっと俺がゲーム脳、ないしアニメ脳だからだろう。
事実、漫画やアニメをほとんど見ない凛と澪に聞いてみても、それが普通だと思う、と言われるだけだった。
そうだとしても急すぎる気がする。俺はまだろくに
更には、何か他に見落としている権能がある可能性まで浮上してきた。
悩むと思考の渦にハマってしまいそうになる。
「あの……」
「……うん? 何?」
凛が話しかけてきた。
「その、申し訳ないんですけど……」
「え、もしかしてお手洗い?」
もじもじしているのでトイレを我慢しているのかと思ったが、凛は首を横に振る。
「そうではなく、その、カーテンで仕切りを作って部屋を作りたいと思いまして……」
「え、別にいいけど? 何か手伝うことある? タンスとか動かすよ」
「え! 本当ですか!? ありがとうございます!」
「その代わりって言ったらなんだけど、俺の部屋作りも手伝ってくれない?」
「はい!」
プライバシーは大切だ。俺もこのだだっ広い空間は落ち着かない。もっと狭い場所で眠りたい。
……。
数時間後、だだっ広い
少し離れているとはいえ、すぐ側なのは起こすのに手間がかからないからだそうだ。これからも起こしてくれるのか。よし、起きても寝たふりしよう。
他にもキッチンやら物置やらのスペースを作り、他の家具類一切合切を隅に移す。今までは中央に置いていたのだが、普通に邪魔だし整理しづらかったらしい。
電気が使えないと使用ができない家具家電も隅に移す。これらは、まだ見つかっていないが、太陽光バッテリーとか手に入ったら使えるようになるだろう。
……。
次の日、俺は無事、警察署の前にたどり着いた。
正確には少し手前から、空き家から拝借した双眼鏡で覗く。
ここら一帯は、ゴブリン、ホブゴブリンは全くおらず、道端で死体になっていた。しかもその死体は銃弾で殺されていた。
人がいるのは確定だろう。しかし、まだ彼等が安全と決まったわけではない。慎重に探らねば。
警察署前では警察官が辺りを警戒し、民間人と思わしき人達も警棒を持って警戒をしている。
(ふむ……)
遠くから見た感じ、まともな人達に思える。
警察官と民間人が争っている様子もないし、雰囲気からは使命感のようなものも感じられる。
窓は、全てカーテンが閉じられていて中の様子が伺えないようになっていたが、おそらく相当数の避難民がいると思われた。
(一度戻って二人に相談するか……)
「おーい、戻ったよー」
「あ、おかえりなさい!」
「おかえり、何か収穫はあった?」
俺が戻ると、二人はエプロンを着てガスコンロで料理を作っていた。
ナマモノは軒並みダメになっていたが、常温保存可能な食材や被災用の缶詰などは大量にあったため、それらを使って料理をしてくれているのだ。
姉の凛は薄着に短いスカートを履いて、ピンク色のエプロンを着ており、妹の澪は姉とお揃いの服に短パン、薄水色のエプロンを着ていた。
夢にまで見て妄想を繰り返した光景だ。
出来れば駆け寄ってきて服を脱がしてほしいが、俺は脱がせてもらえるようなボタンのついたシャツなどは着てないしスーツでもない。
ボタン式の服はどこかに引っ掛けたりする危険があるので部屋着用にして、外に出る時は専ら長袖の服を着ている。
それでも、料理をしている二人の後ろ姿を見れれば俺は満足だ。
「ああ、まあそこそこな」
内心の歓喜の声をよそに、そう言って俺は手袋を外して手を洗い、顔を洗い、うがいをする。
汚れた水は汚れた水用の桶に入れる。
「ふいー、疲れたー」
キッチン、と俺たちが呼んでいるその場所は、食器棚にガスコンロ、机と椅子だけの簡素な作りとなっていた。
俺は椅子にぼーっと座りながら、料理をする二人の様子をじっと見つめる。
姉の凛は長い髪を背中あたりで縛り、妹の澪はポニーテールにしていてここからでもうなじがよく見える。
そして二人に共通するのは、すらりと伸びた綺麗な脚。その美脚と言って差し支えないほど輝く美しい脚を惜しげもなく晒している。たまにちらりと見える横顔もまた美しく整っており、何もかもが俺の性癖に刺さってしまった。
「何見てるのよ?」
「うおっ!?」
だから澪が声をかけてくれるまでその場から動けなかった。
「前から声かけたのになんでそんなに驚くの?」
「いやー、ははは、ぼーっとして気付かなかったよ」
「ふーん、まあいいわ。食べましょ」
「どうぞ召し上がってください、大豆のハンバーグです」
俺の目の前に置かれたのは鍋で炊いたご飯に、荒らされた家から失敬させてもらった大豆や根菜類、白雪家にあった調味料を合わせて作った大豆のハンバーグ定食だった。
俺のハンバーグは二人のハンバーグよりも厚みがありご飯も大盛りだ。
「おおー、凄い! ではいただきます!」
「「いただきます」」
俺は早速ハンバーグを一口食べる。うまい。
事前に知らされなければ大豆から作られたとはとても思えないだろう。
ソースもこれがまたうまい。ハンバーグを作った際にでた汁をベースにワインなどを混ぜて作ったらしい。
ソースがハンバーグの味をさらに引き立て、いま飯を食っているはずなのにお腹が空いてくる。
「はっ!」
気付いたらなくなっていた。二人よりも倍近い量があったのにも関わらず、圧倒的な速さで完食してしまった。
「うますぎ……。ご馳走様でした」
「ふふ、お粗末様でした」
「がっつきすぎよ。もう少し噛んで食べなさいよ」
全くもってその通りである。正直まともに噛んだかどうかの記憶が曖昧だ。それくらい美味かった。
これからもこんな料理が食べられるのか。
食べたばかりだというのに、俺は次のご飯を待ち望むのだった。
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