第24話 取調べ
「それで相談なんだけど、警察署に着いたんだ」
「え! 凄いじゃない!」
「おめでとうございます! 和彦さん!」
「ありがとう」
二人が祝福してくれる。
「まあそこで相談なんだけど、二人はどうしたい?」
「どうしたいって? 保護してもらうんじゃないの?」
「私もそうするのだと思ってましたけど……」
二人はキョトンとした顔をする。まあそれもそうか。
「あーっと、保護してもらうってことでいいのか?」
「え、なに? 何かあるの?」
「うーん、いや、別にないよ。じゃあ明日、一緒に行こうか」
「何か懸念でもあるのならはっきり言って欲しいです!」
「そうよ! 心配になるじゃない!」
曖昧な返事をしたら二人に怒られてしまった。
「いや、見たところ特に何もないんだけどな。笠原の件があってちょっと人間不信になっているんだよ。それに笠原みたいな奴がいないとはも限らないからな」
「あー、それはそうね……」
「確かに……」
俺の懸念に二人は頷いてくれる。集団に所属するということは少なからずデメリットが発生する。しかも、今は常時警戒体制を敷かれていてピリピリしているだろう。
男女の部屋は流石に分けられているだろうが、何百人も人間が集まれば不埒な輩も混ざるだろう。
俺だけならば何かあっても
中々会話の機会もなくなるだろうし、心配だ。
安全性という面ならばこの
「俺は最低でも情報収集の必要があるし、色々聞いておきたいから行くのは決定なんだけど、二人は後からの合流でもいいよ」
「「……」」
そう言うと、二人は考え込んでしまった。
「まあ今日一日ゆっくり考えて、明日の朝にでも答えを教えてくれ」
「ありがとう、和彦」
「和彦さん、ありがとうございます」
そして次の日……。
「あの、昨日二人で話し合って決めたのですが……聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
朝食に二人の作ったコロッケを食べている時、凛が意を決したように話し始める。
「うん。聞くよ」
「ありがとうございます。それでその……、警察署に行くか、なのですが、ご迷惑でなければご一緒しようかと思います」
「ええ。女同士でしか聞けないようなこともあるだろうからね」
「分かった」
色々設定などについて話し合いを終え、早速準備に入る。必要最低限の荷物だけバックに入れ、動きやすい服装に着替える。
「じゃあ、行こう」
昨日の家に出る。そして、一階におり、道路に出て警察署の前まで歩いて行った。
「止まってください!」
こちらの姿を確認した警察官達が俺達を見て静止を求めてくる。俺も頭の中を社会人モードに切り替え、あたかも逃げてきたかのように演ずる。
「自分達は怪しいものじゃありません! 身分証もあります! ゴブリンから逃げてきました。保護して欲しいです!」
二人を庇いながら手を挙げて害がないことを示す。
「分かりました! そのままゆっくりこちらにきてください!」
もしかしたらレイスに操られていたのか疑っていたのかもしれない。
彼等は網で出来たバリケードを開け、中に入れてくれる。
「身分証を見せていただいてもよろしいですか?」
「どうぞ、三人分です」
そう言って三人分の身分証を渡す。
「貴方が田中和彦さん、それでそちらの……」
「姉の白雪凛と申します」
「妹の白雪澪です」
「なるほど。ではここではなんですからどうぞこちらに」
対応してくれた警察官は笑顔で対応してくれた。だが、俺は見逃さなかった。周りの人間が静かにこちらを警戒していたことを。
凛と澪は途中に歩いていた女性に連れて行かれ、俺は一人、取調室に連れて行かれた。荷物も途中で没収されてしまい、俺は眉を顰め、不快感を示す。
「なぜ、自分は取調室に連れてこられてるのでしょうか?」
「すみません。お疲れのところとは思いますが、出来ればすぐにでも外の状況の最新情報がいただきたいと思いまして。私は刑事をしております加賀美と申します。よろしくお願いします」
「田中和彦と申します」
向こうが名乗ってきたので礼儀としてこちらも一応名乗る。
「このお部屋の理由は他のお部屋は住民の皆さんで使っておりまして……。どうか警戒なさらず」
対応してくれた加賀美は、にっこりと人の良さそうな笑顔を向けてくる。
(そう言われてもなぁ)
ただ騒いだところでどうにもならないのは分かる。彼等は現役の警察官。暴れる人間の対処法など知り尽くしているだろう。
「あ、お腹が空いているでしょうから何かお出ししましょう」
「いえ、カップラーメンを食べてきましたのでお構いなく」
何を入れられるかわからないからな。少なくとも双子の姉妹が作った物よりうまいものは出てこないだろう。
「そうでしたか。では早速色々お聞きしたいのですが……」
それから色々な質問がされた。
外の魔物の数はどうだったか、とか、生きた人間を他に見たか、とか、ネットに流されていない新種の魔物は見たか、などだ。
それらら笠原や
この扱いには少しいらっともしたが、この建物には少なくない市民がいて彼等も命がけでそれらを守っているのだ。
特に出し惜しみするようなものではない。
笠原について何も言わなかったのは、そこから俺が
そう思っていた時、突然、加賀美がこんなことを聞いてくる。
「……田中さんは、
「
覚悟をしていたので何とかとぼけることに成功した。
「魔物が現れたあの日、何人かの人間に現れた特殊な才能のことです」
「へー! あっそういえばtwitでそのような噂が流れてるのは見ましたよ」
「そうです。私がお聞きしたいのはそのことなのです。率直にお聞きします。田中さん、
嘘は見逃さないという鋭い眼光をしてくる。やはり先程までの人の良さそうな笑顔は表面上のものなのだろう。
「いいえ」
こちらも分かりやすく否定した。
じっと視線が交差する。
暫くするとその加賀美がため息を吐き、また元の笑顔に戻る。
「……はぁ、そうですか。いや、大変失礼致しました」
「いえいえ、そちらも市民を守るためでしょうから。こちらこそお力になれず大変申し訳ございませんでした」
社交辞令である。
「では、準備もできたでしょうからお部屋にご案内いたします」
そういうと加賀美は人を呼び、別の担当者が俺を部屋に案内してくれた。
「では……」
軽くルールなどを説明した担当者と別れる。
有難いことに一人部屋だった。狭いし、布団は床に直敷きだが悪くない。
だが、やはりどうも監視されているような気がしないでもないので、なんか気持ち悪く感じる。
俺は部屋を出て、人が集まるというラウンジに向かう。凛と澪も恐らくきているだろうと思ったからだ。
辺りを見渡し、二人がいないことを確認すると、俺は仕方なく端っこの椅子に座る。やることもないので、貰ったコップに入った水をちびちび飲む。
すると、奥から双子の姉妹が知り合いと思わしきショートヘアーの女の子と一緒に歩いてきた。
活発そうで目がくりくりしており、可愛らしくどこか品も兼ね備えていた。
直感だが、なんとなく二人とは違う意味でお嬢様、もしくはお金持ちの家の子、という印象を受ける。
もしかしたら同じ学校の同級生かもしれない。
そう思いながら声をかける。
「やぁ二人とも」
「あ、和彦」
「和彦さん、こんにちは。こちら私のお友達の
「あ、初めまして。自分は田中和彦と申します。お二人とは、その……」
俺が最後に言い淀んだのには訳がある。
それは、楠凪が俺の顔を見て手で口を塞ぎ、その大きな瞳に涙を浮かべていたからだ。
「かず……ひこ……?」
「え? はい」
とりあえず頷く。だが、訳がわからない。なぜ突然泣かれたのか。なぜ彼女が俺の名前を知っているのか。
隣の二人も訳がわからず戸惑っている。
「和彦さん!」
「え? 何? うおっ!」
そのまま俺は強く抱きしめられた。
(え、ええ? だ、誰?)
ーーーーーー。
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