第14話 レイス
「レイスの対処法なんだけど、魔法で倒す、というのが一般的だ」
「魔法? 何で?」
何で、と言われても困る。ゲームならそれで倒せる、としか言いようがない。
「ゲームとかだとレイスみたいな霊的な魔物は物理攻撃が効かないから魔法で倒すんだよ」
「……は?」
「あの、それはどういうことなのでしょうか?」
澪は可哀想な人を見る目でこちらを見ており、凛の瞳も心なしか冷たい。
突然わけわからないことを言い出したぞこの男。そう言いたげな瞳だ。
「え? 二人ともゲームとかやらないの?」
「まったく」
「はい、お恥ずかしながら……」
澪は堂々と、凛は少し顔を赤らめながら首を横に振る。
別に恥ずかしい事でもない。だが、ゲーム知識前提で話していたことをはずかしく思い、俺は慌てて言葉を返す。
「あ、ああそうなんだ! そうだよね! お嬢様だもんね!」
確かにゲームとかやらなそうなイメージがある。よしんばやっていだとしても、レイスが出てくるようなRPG系のゲームは尚更やらなそうだ。
「別にうちの学校でもやってる子はいるけど、私たちが興味ないってだけ」
「恋愛ドラマとかなら少しは……」
恋愛ドラマにレイスとか出てきたら世も末だ。いや、操られた恋人を助ける為に四苦八苦するというのはむしろ新しいのかもしれない。
「あと私達、別にお嬢様じゃないから」
「え? あの帝桜女学院に通っておいてそれは謙遜が過ぎるでしょ」
「謙遜じゃないわよ。確かにうちの親は結構稼いでいるし、家系的にも裕福ではあるけど、それだけよ」
(それを世間一般的にお嬢様というのでは?)
などと思うが、どうやら澪の感覚では違うらしい。
「とにかく、私をお嬢様なんて呼ばないで!」
確かにお嬢様といえば世間知らず。言ってしまえば無知の代名詞のように扱われることもある。
もしかしたらそういう風に思われるのが嫌なのかもしれない。
「すまん、悪かった!」
そう言って二人に深々と頭を下げる。
「あ、私は別に全然気にしてないです。澪が気にしすぎなだけで」
「気にしすぎじゃないわよ。私の友達には家に執事がいるような家柄の子もいるんだから」
(執事なんて現実に存在したのか……)
言葉は聞いたことある。だけど見たことはない職業トップ5には入るだろう。
「仮に和彦の言ってる事が本当だったとして……」
「魔法、ですか? ですが魔法使いというのは存在するのでしょうか?」
「魔法なら存在する」
「え? あ! ……もしかして和彦さんの
「その通り」
正解を導き出した凛に俺は満足げに頷く。
「でもそれでどうやってレイスを倒すっていうの?」
「いや、確かに俺の
空間魔法がレアなのかどうか分からないが、空間魔法使いがあるのなら他の属性魔法使いがいてもおかしくない。
「twitに魔法使いの人、いませんでした?」
「……いたわ。火の魔法と風の魔法を使ってる人が」
「おお! 火! 火はいいですねー、攻撃向きで! あと風も悪くない!」
(やっぱり本当にいたのか、魔法使い)
興奮して思わず立ち上がる俺。しかし凛は驚いたように、澪に至っては冷めた目で見てくる。温度感がすごい。
「でもどっちも一人だけよ。とてもじゃないけど日本中からレイスを消し去るなんて出来ないわ」
「一人だけって決まったわけじゃない。アニメなどでも火、風、水、土の魔法使いは結構オーソドックスな力なんだ。いや、最後二つはいるか分からないけども」
「シュレディンガーの猫じゃないけど、見つかってないならいないのと同じじゃない」
「そ、それはそう」
凛がすごい現実的なことを言ってくる。
「いや、でもレイスを全て消し去るっていうのはあまり現実的じゃない。というかこの事件の元を絶たない限り不可能と言ってもいい」
「何でよ?」
「二日目にゴブリンがさらに追加されたんだろ? ならレイスだって追加で出せるって思うのが普通だ」
「「あ……」」
今出ている魔物には恐らく追加がある。なら全滅など不可能だ。
「けど倒せるのなら何とかなるかもしれない。まあ危険なのはレイスだけじゃないけどね」
実体があるなら現代兵器の敵ではない。とはいえ、数は力だし、国中にランダムに出現されたらたまらない。
(まあこれに関しては俺達の考えるような事じゃないが……)
今の俺に大切なのはこの三人の安全だ。
俺自身がレイスに対抗するための手段を考えねば。
「でも暫くはこの家に引きこもってた方がいいと思う。国も何もしてないわけじゃないだろうし、多分安全な拠点作りくらいはしてくれているはずだから」
希望的観測になるが、レイスが壁を透過できない事、そして夜にしか現れない為、昼間のうちに何かしら市民を誘導するようなことをするのではないだろうか。
いかに巨大で脂肪に包まれたオークといえど、連射可能なライフルの弾丸を食らってはただでは済まないだろう。
助けが来るのであれば、あとは食料と根気、それに魔物にここを狙われないよう祈るだけだ。
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