彼の力

2時間がもっとか。

私が眩暈に耐えていた時間はわからないが、今までで一番ひどかった。

永遠とも思える時間を、私は必死に耐える。

けれど終わる瞬間はいつも突然やってきて、私の体は気持ちが悪い感覚だけを戻して正常に動き出す。


大きく息を吐く。

そして周囲を見渡す。


「えっ、どうして」


目の前から依頼人が、消えていた。

私が眩暈の発作を起こしているうちに帰ってしまったのだろうかと慌てて柱時計を見ると3時を少し過ぎたころ。

ほとんど時間がたっていない。

どうして?


私は眩暈後の習慣で、ニュースを確認する。

先ほどの依頼人の言っていた事件。

そのものがネット上から消えていた。


「やっぱりこれって……」


「君はとても面白いな。覚えているのか」


声のする方向に振り向くとその先にいたのは、もちろん狭間さんである。

私は混乱した頭を必死にフル回転させる。


私は、依頼人の事件が現実にあったことを知っている。

でも、眩暈のあとには依頼人もさっぱり消えていて、事件自体も消滅した。

そして彼の覚えているのか、という言葉。

彼の小説。

リアリティのある事件の数々。

つまり……でもそんなことがあるのだろうか。

私は恐る恐る推測を口に出す。


「あなたは、過去を改変して事件をなかったことにし、それを小説にしている……?」

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