第6話

はあ、はぁ……。

言ってやったぜ。


「えっ、……。」


……、あーれれ。

わたしのこんなヒステリックなせりふをきいて、……それでも、ユキヒロはやっぱりというか、べつにど~ってことなさそうな表情カオのままなんだけど。

マサナオも、とうぜんちびのミツルだって。


だけどなんでか、トモキが傷つけられた子犬みたいな目で、じっとわたしをにらみつけてる――?


「きみ――」


トモキが、わたしのそれよりもよっぽどかわいらしい感じのする、ちょっとだけおさないうすいくちびるをゆがめて、ぱくぱくなにかしゃべろうとしてる。


わたしはとっさにさえぎった。


「ちなみに、……」


それいじょう、な~んかヘンなこといったら、さいごにダメージをうのはあんたたちのほうなんだからねっ。


「に゙ゃははははははは!!!」


「そりゃあいいや!!」


――えっ?……え。

なに?




たったいま、まさに――「こいつ、人外じんがいか?」と思いたくなるような、もはや、ぶしつけをはるかに通りこして、悪魔的あくまてきとすらいっていい笑いかたをしたユキヒロが、その目になみだをうかべながらわたしにいった。


「おまえ、見た目によらず、けっこうなのな。」


た、たか?

……マサナオまで、一緒いっしょになって。


「うん、いいよ、そういうの。俺、好きよ」


そういうわりに、でも見るみたいに、目をわざとらしくしばたたかせているのが、みょ~にムカツク。


っていうか、いまの、ほんとなに?

わたし、そうは言っても、なにもんですけど。


まさか。このひとたち、いや……そもそも、いわゆる「人」なのかどうかも、まだよくわかんないけど……

「さとり」ぞくなの?


わたしは不意ふいにつかれをおぼえて、ちょうど一歩いっぽさがったあたりにあった、いつのまにかきれいにベッドメイクされている自分のベッドのうえに、へなへなとこしをおろした。

これは、手をくわえたの、たぶんトモキだな。……なんて。


「まあ、そんなとこだな。」


ユキヒロがしずかに言った。


「……はい?」


「だから、俺たちは、――ゴホン。ご明察めいさつのとおり、その気になれば、やれんことはないのだ。」


ううむ。


「……あたしのこころを読みれるってこと?」


「うむ。まあ、心というより、思考しこうをだな。」


「じゃあ、さっきトモキがなにをいいかけてたのかも、わかるの?」


ユキヒロが、その名前がでてきたことに、意外そうな顔をした。

――おっ?………と、いうことはぁ…………。


にわかにみんなの視線しせんが自分にあつまったことにとまどったのか、トモキは自分のうなじのあたりにぺたりと手をやった。


「おまえ、なんかあんの?」


マサナオが、さもいいかげんにわたしのほうをあごでしゃくってから、トモキにきく。

く~っ、なんかしんないけど腹立はらたつぅ。その感じ!


「いや、べつに……。ただ、明菜あきなチャンの口から『精神科』なんつぅ単語たんごびだしたのが、面白おもしろすぎるなと思って。」


「ははっ、マジで、しょうもな。たしかに面白いけど。」


どっちだよっ!!!


心のなかでひとりでいきり立ってたら、ユキヒロと目があっちゃった。

――あ~っ。……


「まあまあ、いろいろと感想かんそうはあるだろうけどな。ざんねんながら、俺たちどうしでは、思考のいはできない。『対明菜』のみだ。」


「なんだよそれ……」


めちゃくちゃすぎるでしょう。


「あと、きみはついさっき、俺が『』と言ったとき……」


「ああ」


マサナオが、ぴくーんと反応した。


「なんかしらねえけど、樋口一葉ひぐちいちようの顔を思いうかべてたねえ、そういえば……。」

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