第5話

わたしはいっしゅん、だまった。


「あんたたち、さてはわたしのノート」


というセリフがのどもとまで出かかって、……なんとか押しとどめた。どうしてそうしたのかは自分でもよくわからない。


ユキヒロはまたニターッと笑って、


「はい?――明菜ちゃんのアレがアレしたノートがどうしたってぇ?」


なんて、挑発ちょうはつするようなことをいってくる。


「大丈夫。思いっきり広げてはあったけど、中身なかみは見てないし、名前もそこで確認かくにんしたわけじゃないから」


と、マサナオが、ちょっとくやしくなるくらい平気へいきな顔をしたまま、フォローを入れてくれる。


……と、うしろからぐっとわたしのわきのあたりをだきかかえてきたのは、トモキだ。


「い~から、寝~な~さ~い……」


さすが、(すくなくとも、見た目には、だけど)男子高校生なだけはあって、けっこうな力だ。


かれは有無うむをいわさぬ調子で、ぎゅうぎゅうとわたしを窓ぎわのベッドのあるほうへ押しやっていく。


「……よっ!!!!」


「ぎゃっ」


ごろーん。一面、まっくら。それと、鼻の先がちょっぴりずきずきする。

いきなり、なにすんのよぅ!


「おいおい、病人びょうにんあいてに乱暴なまねはよせ」


いかにもみじめったらしい様子で起き上がっていくと、マサナオがうしろから、せき込んでいる人をなだめるみたいにわたしの背中せなかをなでてくれた。

なんだって、そうやってきゅうにやさしくなるんだろ。


それにくらべて、ユキヒロときたら……


「『ぎゃっ』とはなんだ、『ぎゃっ』とは。どうせならもうちょっと、かわいらしい悲鳴ひめいをあげられないものかねえ。」


なんて言って、笑ってる。


そのユキヒロの、いかにも「おれ、遊んでます」みたいな、プレイボーイふうの、こう……なんていうの、かなあ?

 いまみたいな意地悪を言ってても、そうじゃなくて、たとえばやさしい言葉を口にしていたとしても、やっぱりおなじようにまぶしいんだろうなあって思わせる、そのふとしたときに瞳のおくがチカチカッとかがやくのが見えるようなイケメンぶりをみていたら、だんだん、腹がたってきた。

ふっしぎー。


「ちょっと、ねえ。わたしはいま、すごく気分をがいされてるんですけど。」


熱におかされたわたしの身体をベッドに投げだしたトモキにたいしてというより、ユキヒロ……いや、この場にいるわたし以外の「人間」すべてにたいして、わたしはきぜんとして声をあげた。


「ってか、そもそもですね。わたし、あんたたちのせいで、熱なんかだしてるんですよっ。」


そこっ!――知恵熱ちえねつだなんて、いうなよぉ~。


「だいたい、なんなんですか?ってゆうか、これ、わたしが精神科せいしんかにかかるか、そうじゃなきゃあんたたちをいますぐおまわりさんにつき出すか、……どっちにしろ、やらなきゃならないことはふたつにひとつなんですよ。」


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