第1話

「うわっ、……うわわわわ!?」


いきおいよくはね起きると、のぞき込んでいたかれらはわたしとぶつかるすんぜんにさっと体をよけ、それぞれがおたがいの態度たいどをごまかすみたいなせきばらいをした。


「あっ、いいよ~心配しんぱいしなくても」


わたしが警戒けいかいのあまり、思わず――うすいガーゼのかけぶとんを胸のあたりまでひっぱり上げると、わたしの左側ひだりがわ一番いちばんそばに立っていた茶髪ちゃぱつのイケメン男子だんしが、さいしょに言った。


「いまは、こまかいことは気になさんな。……つっても、ま~無理むりあるのはみとめるけど」


ちょうど茶髪とかいあわせの位置いちにいた、『黒髪くろかみ』がつけ足した。


「ともかく、おれらは少なくとも君にあだなすことはないヨ。これ絶対ぜったい


と、また『茶髪』。


「そうそう。なんなら、もうちょっとてたいならご自由じゆうに~ってとこだ」


ここで、すこしむこうがわにいた、ちょっとアッシュグレーっぽい髪色かみいろをした人。


「え……と、」


言葉をえらんで慎重しんちょうにしゃべろうとするけれど、……言葉がみつからない――。


びっくり箱を開けてしまったあとみたいにがくぜんとしているわたしの様子ようすを見て、これまでいちばんよくしゃべった茶髪男子が、ちょっと意地悪いじわるげにニンマリとした。……と、思うと、かれはいきなりかがみ込んで、わたしのつかんでいたふとんと、その上からかぶっていた羽根はねぶとんとを、まとめてひっぺがしてしまった。


「え~ぃやこらっっつ!!!」


わたしはきそうだった。


「…………もう……」


やめてくらひゃい……


茶髪くんはこちらの抵抗ていこうにはいっさいおかまいなしで、こともなげにわたしを、まるでお人形かなにかにたいしてそうするかのように……おひめさまだっこできかかえると、見つめているほかの三人をのこして、ひょいと部屋を出てしまった。


「ちょっと、……まってよ」


ようやっとのことでそれだけ口にすると、かれはそのくりっとした人なつこそうなオリーブ色のひとみを、はじめてちゃんとわたしにむけた。


「ん?」


「外に出ちゃったら、……その……お母さんとかいるし」


茶髪くんは、そのととのった顔になんだか不思議ふしぎみをうかべてからこたえた。


「あー、それならダイジョーブ」


大丈夫ダイジョーブって、どういうこと……ってか、ごめんなさい。――まず、おろしてください。


「いぃじゃねーか、な?もうすぐだしさ」


よくないけど……まあ、いいか。


一階におりる階段かいだんにさしかかったあたりで、わたしはなんだかもう「ままよ」という気分になってきていて、ひとまずここのところはかれにしたがっておくことにした。


わたしがているあいだにいったいぜんたいなにがおこったのか、そしてかれらはいったいどこからきた何者なのか……すくなくとも、この現実げんじつを生きてる人たちではあるのか、……あるいはそうじゃないのか。

どっちにしても、それぞれちがった意味で、大問題だいもんだいなんだけど。


いまんとこ、イチからヒャクまでわけのわからないことだらけだ……


「さっ、洗面所についたよ、お嬢様じょうさま。まずは顔でもあらいな」


――も~知らない。



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