第8話 血の樹ラーゼス5

 なるほど、あれが真祖ってやつか。

 目の前にいる金髪の女の姿を見て、その魔力量からおおよその力量が把握できた。確かに今まで戦った魔人の中でも最上位に来る強さを持っている。下手をすれば2回目に戦った魔王よりも強いかもしれない。


「お主はなぜここに来た」


 子供のように高い声でそう質問を投げてくることに内心驚きを覚えていた。この手の魔人はなんだかんだと力づくで攻めてくる印象が強いからだ。下手に言葉を交えてしまうのもどうかと思ったが俺がこれからする事を考えると最低限の礼儀は尽くそうと考える。


「お前を殺すように依頼されたからだ」

「はッ! 人間風情がこの余を殺すと? 片腹痛い」


 そういうとケスカはゆっくりとローブの中から小さな手を外に出した。鋭く伸びた爪が印象的な指をこちらに向ける。その瞬間に目の前の視界に数多の赤い液体が散った。

 空中から突如発生した赤い水。恐らくはケスカの血液だろうか。それが突如数多の槍となりこちらに襲ってくる。俺とケスカの間にある空間がすべて埋まる程の赤い槍。それをたった一瞬で生み出している。一本一本に籠められた魔力から察するにオリハルコンさえも容易に貫くだろう。


「余の血から生まれた槍で串刺しになるのだ。光栄だ――ぐはッ!」

「自分の視界さえふさぐような質量攻撃をする時は相手の位置を常に把握するべきだ」


 迫りくる槍の間をすり抜けるように光魔法で身体を光子に変換した俺はケスカの近くまで移動し心臓を抉った。


「き、貴様ッ!」

「真祖は死なないそうだな。俺も長丁場は覚悟している。とりあえず1回目だ」

「この。余に触れるなど無礼者め!!」


 零距離から魔法を行使する。俺の魔力を含んだ光子を浴びたケスカを跡形もなく消え去るように、出来るだけ細切れになるように魔法と放つ。


「”ツヴァイ”」


 光に包まれたケスカを覆うように発生する光の斬撃。髪を、肌を、肉を、内臓を、骨を、そのすべてを細切れにし焼き殺す魔法。激しい光が収まると俺の手には僅かに残るケスカの血液のみとなった。それが塵となって消えていく。





Side ケスカ


「な、なんなのだ。あの男は」


 先ほどの戦闘から遠く離れた場所でケスカは復活した。足元にはケスカの血が与えられていた戦闘人形ドールズの死体が転がっている。真祖という存在は世界から存在を証明されている。そのためケスカの存在が僅かにでも残ってれば容易に復活が可能だ。髪の毛一本、血の一滴、爪の一欠けらでもいい。本来でればあのままあの男の近くですぐさま復活するべきだったのだがたった一度の攻防で悟ってしまった。


 アレは間違いなく自分と同等の存在だという事を。


「確か勇者という人間種だったか。馬鹿な、先代の魔王の強さから考えれば勇者の強さは大したことないはずだ。この世界の理として常に魔王と勇者の強さは拮抗しているはず。だというのにあれほどの力がなぜ――」


「思った復活と違ったな。てっきりあの場で復活すると思って待ってたんだが」

「ッ! 魔血変換コンバージョン!!」

「ん?」

「真祖である余の魔力に制限はない! この星から、世界から!」


 周囲に拡散した余の魔力をすべて自身の血液へ変換。そして余の血はすべて意のままに操る事なぞ造作ではない!


「飲み込め!」

「”アインス”」

「ッ! 視界を一瞬奪った程度で!」


 一瞬閃光が走り視界を潰された。これはアジュールに行っていた目つぶしの魔法。恐らく最初の閃光を視界にとらえた時点で不可避の攻撃を眼球に与える極悪な魔法。だが2回同じような魔法を喰らった事で対処方法も理解した。奴と同じいやそれ以上の魔力で常に身体を覆う事。単純だがそれしか方法がない。あの僅かな閃光で載せられる魔力などたかが知れている。全力で魔力による障壁を纏えば少なくともあの不意打ちのような目つぶしは対処できる。


 自らの意思で操作する血液の奔流。それをあの勇者レイドはすべて寸での所で回避している。一撃でいい。いやかすり傷でいいのだ。それだけで奴の体内に血を潜り込ませ操る事が出来る。たった一撃。だが必殺の一撃となる。血を槍に刃に変え奴の逃げ場を奪うように少しずつ削っていく。


「いい加減鬱陶しいな」

「ならば諦めてその首を差し出せ!」

「それは無理な話だ」


 更に奴の魔力が膨れ上がる。あれが全力ではなかったのか!?


「我が血よ、刃となれ!!」


 右腕から更なる血液を生み出し巨大な刃として振り切る。赤い閃光が走りその線をなぞるように前方の樹と都市が切断された。


「おい、自分の都市を巻き添えにする気か?」

「ならば貴様がすぐに死ぬことだッ!」

「仕方ないな、少し強引に行くぞ」


 更に眩い閃光が走る。案の定、眼球近くに光の小さな棘のような物が発生するがそれを余の魔力障壁が阻む。


「その魔法は既に対策を――これはッ」


 奴の周囲に展開し追い詰めていた余の血の武器たちがすべて砕け散っている。だが元は自身が作り出した武器だ。たとえ砕けようとも瞬きもしない間に修復は可能。

 だがその一瞬を付かれた。奴の周囲の血が砕け修復するその刹那に奴が既に目の前に接近していた。


「そう同じ手を喰らうとでも」


 奴が握る拳に合わせ周囲へまた血液を生み出す。何十重ねそれこそ魔王ですら砕けぬように凝固させ全力の魔力を注いだ血盾。

 それがあっけなく砕け散る。まるでガラス細工のように。


「ぐぅあッ!」


 魔力で強化していたため今度は貫かれることがなかった。そのまま身体が後方に激しく吹き飛ばされる。だがその瞬間。まき散らされる血液を枝のように伸ばし奴に攻撃を加える。


「本当に面倒な力だな」


 奴のその言葉を聞き、また攻撃を躱し時には破壊している様子から察するに奴も余の攻撃を真面に喰らえないという事は理解している様子だ。ならそれを利用するまで。


「”魔血変換コンバージョン”――我が血よッ! 全て飲み込め!!」


 無限の魔力をそのまま余の血へと変換した単純な質量攻撃。この一帯の区画の建物も人間たちも被害を受けるがそれで奴が殺せるのならば問題ない。突如発生した津波のように血の大海原が奴めがけ走った。




 


ーーーー

次でケスカ編終了です。

少々残虐シーンが多いです、ご注意下さい。

 

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