第7話 血の樹ラーゼス4
「ラーゼスだったか。それは都市の名前か?」
「そんなことも知らず侵入したか!」
一面を埋め尽くす灼熱の炎が強襲してくる。俺の背後には先ほどみた捕らわれた人間たち。強制させられているにせよ、自らそうしているにせよ、俺が守らないといけない。全員は無理でもせめて手に届く範囲だけは!
手を前に出しただ魔力を籠め放つ。地面が割れ、周囲の建物が崩れる程の突風が生まれるがそれでも目の前の炎は消えない。やはりこの程度では無理か。
すぐに次の手段に切り替える。背後にある建物を覆うように光の魔法を展開し炎から守る壁とする。そして炎とは別に上空から迫ってくる魔人を見る。Ⅰの目つぶしをそう何度も使用はできない。先ほどの魔人の回復力を見るに普通の魔人とは比べ物にならない程の強いのは明らか。だから下手に乱発して慣れられても面倒だ。
「ハァアアアアッ!!」
紅から蒼へ。その炎の色を変えた火球がこちらに十数発放たれる。これほどの炎はそれこそ龍種と同レベルといえるだろう。普通の人間なら一瞬で骨も残らない程の火力だ。
「普通ならな」
「何ッ!!」
迫りくる火球すべてを無視するようにただまっすぐ空中にいる魔人の元へ跳躍する。よほど驚いたのだろう。大きく口を開け目を見開いている。
「空にいてくれて助かるよ。これなら巻き込まない」
「ッ! 我の炎を受け傷一つ付かぬとは貴様ッ!」
片手をそっと魔人の前に向けて突き出す。瞬間、周囲に展開させた光魔法。細かい粒子は大小合わせ数百万はあるだろう。それを目の前の魔人に集まるように収束していく。
「こ、これほどの魔法を! たった一瞬で――」
「”
数百万の光の粒子が目の前に集まりさらに極小サイズに圧縮されそして消えた。
トンッっと地面に軽く着地し周囲を見るがまだ蒼い炎が燃え続けている。あの魔人の魔力で燃えているかと思ったが消滅してもまだ残っているところを見るとまともに当たれば面倒な魔法だったのだろう。一度当たったら消えないとかそんな感じだろうか。
「ま、龍程度の炎なんて、今更火傷もしないが――?」
目の前が闇に染まる。いや巨大な樹の根が急速に俺を包むように伸びている。適当に拳を振い樹に穴を空け脱出しようとすると巨大な雷が空中に帯電している。
「落ちろ」
どこから聞こえる声に耳を傾けながら落ちてくる雷を見る。鼓膜と激しく振動する空気の音が周囲に轟いた。
Side ヴァート
「直撃したよ」
「オーアッ! まだです! 手を休めないで!」
「わかった」
アジュールと侵入者の戦闘が始まった瞬間。ラーゼスに巨大な魔力が満ちた。てっきりアジュールがすぐに侵入者を殺しまた笑いながらその死体を持ち帰ってくると思っていた。だが現実は違った。
アジュールの気配が消えた瞬間の私たちの動きは迅速的だった。セルブスはケスカ様に報告に行き、私とオーアの二人で侵入者の撃退をする段取りに変更された。アジュールを殺した相手。しかも正面から破った相手だ。油断なんて言葉はもう私たちの中には存在していない。出来るだけ隙を付くように強襲している。
私が操る樹の根17本を使いあの侵入者の動きを抑え、オーアの雷撃で倒すという簡単な作戦。この聖樹の一部を操る事が出来る能力のお陰で私はここラーゼスで起きるすべてを把握できている。だからわかる。雷龍の一部を移植された魔人であるオーアの雷撃がすべて直撃しているにも関わらずあの
「オーアの雷撃は触れるだけで蒸発するレベルの熱量なのにッ!」
「いや、最初はいいけど2回目以降はこの作戦意味ないだろ。この雷撃で樹の根が焼けて消えているじゃないか」
「ぐぅッ!!」
何が起きたのか分からない。気づいたら身体に凄まじい衝撃が走り私は遥か後方へ吹き飛ばされている。数棟の建物を破壊し既に攻撃を受けた腹部には大きな穴が開き、下半身は千切れ、既にどこへいったか分からない。ようやく止まった私の身体に視線を移し絶句した。
「か、回復を――」
下半身は無く、内臓が周囲に飛び散っている。だがまだだ。核が無事ならまだ治癒は可能。
「ま、まりょ、くを練らないと」
「ああ。済まないな。痛めつけるつもりはなかったんだ」
「な……なぜ……」
口から溢れ出す血液のせいでうまくしゃべれない。だが目の前の男を見て私は一瞬だが痛みを忘れた。あれだけオーアの雷撃が直撃したというのに、あれだけ聖樹の根で攻撃したというのに目の前の侵入者はまるで何もなかったかのように傷一つなく、服に綻びもない。
「あの雷小僧も殺したし、後はお前だ。すぐ楽にしてやる」
「ば、ばけもの――め」
「散々味方から言われてるから知っているよ」
既に視線が霞む。最後に見えた景色は周囲を包むたくさんの光だった。
「さて、いきなり襲ってきたがこれで終わりかな」
それにしても久しぶりに強い魔人だった。以前戦った事がある魔王直属の護衛隊よりも強かったと思う。これと同じ魔人がまだいるのか、それともあれで終わりなのか。その辺の情報を履かせたかったがどうしても周囲を巻き込むような大技ばかり使うためうまく手加減が出来なかったのは先ほどの戦闘における反省点だろう。
「加減をミスって殴ったらこんなに遠くまで飛んじまったしな」
魔人は人間の敵だが憎いと思ったことはない。だからあまり痛めつけたくなかったんだが最近は人間関係でストレスも溜まっているせいか魔人にあたる傾向がある。拙いと分かっているんだがこうも回復力が高い魔人がいるとついつい魔法じゃなくて殴りたくなるのは勇者失格だ。
「さてっと、次が来たかな」
新しい魔力が迫ってくる。それも先ほどの3人とは比べ物にならない程の強い魔力を持った魔人だ。
「貴様か。余の庭を荒らし、余の配下を殺した愚か者は」
長い金髪が風になびいている。ボロボロの白いローブから僅かに見える身体から察するに随分小さい。人間の年齢だと12歳前後くらいの体形だろうか。赤く鋭い瞳が俺を見ている。
「君がケスカって真祖か」
「人間風情が余の許可なく発言するなど無礼だな。
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