第5話 血の樹ラーゼス2

 この都市に侵入して幾ばくかの時が経過した。出来るだけ気配を殺し魔力を抑えこの都市の人々を見ていく。ここはこの巨大な大樹の上にできた都市でありまるで大蛇のような太さの枝が幾重も空にある太陽に向かって伸びている。

 時間を使い周囲を捜索する中で気づいた事がある。この都市には。ざっと見た所7歳くらいの子供もいれば20歳を超えた大人もいる。皆が同じ白い服を着て様々な仕事をしている。


(だが、見た所30歳以上の人がいないな)



 最初に感じた違和感の正体はそれか。普通の町であれば老若男女様々な人々がいて然るべきだ。だがここには若い人しかない。仕事などもそうだ。やはりどこを見ても監督役をしているような人物もいない。だが全員が寡黙に己の仕事を熟している。ある程度みた感じ魔人の姿もない。ならやはり――ッ!


 視線を感じる。思ったより早くバレたな。可能な限り魔力は抑えた方だがこれでもダメか。俺はその場から跳躍し近くの屋根の上に着地。そのままさらに移動を開始した。流石にあの場所で戦闘を始めるわけにはいかないだろう。そう考えた時だ。


 身体を捻り突き出された腕を回避する。突き出された病的に白い腕。だが普通の腕ではない。まるで赤い根のように張り巡らされた血管が浮き出ており爪が鋭く伸びている。


「せっかちだな」

「ガアアアッ!」


 目の前の敵と距離を取って確認する。都市で見かけた白い服ではなく黒い服を着た男。白い肌に浮き出た赤い血管。充血した赤い眼球。まるで魔物のような様相だ。魔人ではない。魔人の肌は褐色のはず。つまり人間なのだろうがどう見ても普通ではない。


「ガッアアアア」


  一歩ずつこちらに近づいてくる目の前の男。さらに一歩踏み出した瞬間、足元の屋根が爆ぜ、目の前の男が消えた。音を置き去りに加速する男の拳が俺の腹を狙って突き出された。



「ァッ!?」



 衝撃波が走り周囲の石や木がひび割れていく。


「……落ち着け。出来るだけ同じ人間は傷つけたくないんだ」


 俺に目掛け突き出された手刀を俺は手首を掴むようにして片手で受け止めた。見た目以上に力があるようだがこの程度で俺にダメージを与えるのは不可能だ。

 目を血走らせよだれをまき散らしながら動かない右手を必死に動かしているが手を離さない。


「ガアアアアアアッ!!!」

「ん?」


 空いている左手の指を揃え手刀とし、それを自身の右手に振り下ろした。切断された腕から赤い血液がまき散らされまるでこぼれた水のように血を流しながら後ろに跳躍して離れた。男は左手で右腕を抑え魔力を高めている。喪失した腕から流れる血液が少しずつ形を作り次第に腕の形に変貌した。


「自分の血を使って腕の代わりを作ったのか」


 目の前の現象に驚きつつ俺は自分の中で一つの決断を下した。目の前の男の力は魔法という力の範囲ではない。どう考えても魔人に属する力だ。つまりもう手遅れという事なのだろう。


「すまない。俺は君を救えそうにない」

「ガァァァアアアアッ!!!」


 更に身体に巡る血管が浮き出てもはやツタが絡んだかのような見た目と変貌している。身体を落としそこからこちらに攻め入ろうとしたその刹那。


(”ドライ”)


 わずかに走らせた光の魔法。一瞬の閃光が周囲に走り、男の身体に付着した光子に魔力を遠隔から流し込む。そうして作り上げた光の檻を圧縮、縮小し消滅した。俺が得意とする光魔法で3番目によく使う魔法だ。この刹那の時間で発動した魔法によりあの男は痛みを感じるまもなく、何が起きたのかもわからずに頭を失い死亡しただろう。

 頭部を失った首から血が溢れその身体が膝から崩れ落ちて倒れた。残った身体に付着している俺の魔力を使いさらに身体の方も同じように光で覆い消失させる。


「はぁ……まいったな」


 あれがここの兵士、いや兵士ですらないだろう。魔人の都市が人間を兵士として雇うだろうか。否だ。ありえない。魔人に捕まった人間は基本殺される。もしくはここのように食料として保存するかというくらいだ。ならあの人間は? 


 決まっている使い勝手のいい奴隷みたいな存在という事か。



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