第2話 新しい任務

 冒険者ギルドを後にして、俺は城を目指して歩き始めた。本来であれば魔法による転移での移動が一番楽なのだが、王より城への転移は禁止されているため使用が出来ない。だが、近くの街までなら転移はできる。そのため、普段生活している山の中から態々このフルニクの街まで来たのだ。ここは大きな都市だが二つの顔がある。

 一つは冒険者の街としての顔だ。この大陸では、比較的大きな冒険者ギルドであり、また流通も盛んであるためにとにかく人が集まる。またこの大陸の西部の方は大森林が広がっており、人の住む場所ではない。だが、この大陸の唯一国家であるエマテスベル王国の領土として認知されているために、多くの冒険者たちはエマテスベル王国内にあるフルニクへ集まるのだ。


 そしてもう一つは国としての顔だ。元々エマテスベル王国は中央部に城下町を構えていたが、先々代の魔王襲撃により半壊、その後、ここフルニクへ城を移したとされている。元々は街の北部に城を作り始めたが、それと同時にさらに北へ貴族街を作ったため、現在はエマテスベル城が街の中心になり、南部が階級がない平民や冒険者。北部が貴族のみが住む街となった。ちなみにシルバーランク以上の冒険者であれば冒険者認証プレートを見せれば貴族街に入る事も可能だったりする。だが、俺は貴族街に入ることは出来ない。禁止されているからだ。もっとも、行く予定なんてないがな。



「王に呼ばれ参上しました。謁見の許可を貰いたいのですが」

「……勇者か。話は聞いている。少し待て、すぐに近衛兵を呼ぶ」

「はぁ。かしこまりました」


 城門の門番に要件を伝える。毎度のことだが、のは何とかならないのだろうか。まぁ無理か。あの王が何の準備もなしに俺に会う程の度量はないだろう。そうして通行人の視線を感じながら待っていると、二人分の足音がこちらに近づいてきているのが分かった。


「待たせたな、勇者。いつも通り貴様が前だ」

「これはこれは――ヴェルナー近衛騎士団長とアルフレット魔法騎士団長ではないですか」


 青色の鎧に纏っている30代後半の男、ヴェルナーは鷹のように鋭い視線を俺に向け、腰に携えている両手剣に左手を置き、右手には魔道具が埋め込まれた籠手が見える。どうやらいつも通り完全武装のようだ。確か、あの両手剣は魔法技術部が作った最新の魔道兵器らしく、魔法使いが使う障壁を容易く切り裂くほどに、対魔法使いを意識した装備だったと記憶している。


「口答えをするな、勇者。王を待たせるつもりか?」

「アルフレットさんはどうしてここに? 暇なのですか」

「問答はなしだ。早くしろ」


 若くして魔法騎士団団長へ上り詰めたアルフレットはヴェルナーに比べ上半身と、腰回り、また腕部分だけに鎧を装備している。それ以外は冒険者たちもよく使う、魔物の革やローブなどを装備しているという形だ。一見軽装に見えるがすべてに魔道具が埋め込まれており、耐物攻撃を防ぐために考案された魔道具だ。魔法を使う際に必要な魔力構築の際に少しでも身軽にしつつ、かつ防御力を上げるために作られた物だと聞いた事がある。もっとも、魔道具に込められた魔力が切れればただの脆い鎧になってしまうが。


「前に言いましたけど、その程度の装備で――」


 そう言いかけた瞬間、俺の首にヴェルナーの剣が突き付けられていた。


「言ったはずだ。問答は不要。早く行け」


 そう言われ俺は一歩足を踏み出し、前へ進んだ。そして二人の横を通る瞬間にもう一度言いかけた事を話した。


「その程度の装備で俺とまともに戦えると本気で思ってる辺り、程度がしれてますよ」

「貴様、何度言えば――ッ!」


 鈍く耳障りな音が辺りに響く。それは、ヴェルナーの両手剣が柄より先の刀身部分が30以上に分解され石畳に落ちる音だった。


「――ッ! いつのまに」

「ヴェルナーさんが剣を抜いた瞬間ですよ。その程度もわからないのに、どうして王の護衛をするんですか。言ったでしょう。、そもそも敵対するつもりはないって言ってるのになぁ」


 やるなら城ごと滅ぼすに決まってるだろうに。まぁ言わないけどね。これ以上怖がられてもいいことは一つもない。


「あぁ一応言っておきますが、その剣の弁償はしませんよ。先に抜いたのは貴方だ」

「ッ! さっさと行けッ!」

「……はい、わかりましたよ」



 後ろから二人の殺気を感じながら城の中を歩く。いつもながら俺が行く度に、城の中の兵の数が増えているのはなんなのかと言いたい。俺を魔物か何かと勘違いしているんじゃないだろうな。城で働く使用人も多くいるが、俺が城にいく時は誰も見ない。それどころか、兵士が多く配置されているように感じる。これだけの兵士から警戒され、俺の後ろから騎士団のトップが二人。まったく我ながら随分歓迎されていると思う。




 寄り道をせずまっすぐに謁見の前へ移動する。扉をくぐり、中へ入るとこの城の近衛兵が集まっており、全員が槍を手に持ち、整列している。槍の矛先が俺に向いていないだけまだマシだろう。そのままカーペットの上を歩いて前に行く。


「とまれ、勇者」


 後ろにいるヴェルナーの声が周囲に響いた。それを聞いて俺もその場で停止し、そのまま跪いた。するとまた別の足音が聞こえてくる。広い謁見の間に足音だけが響き、そして止まった。


「よく来た。勇者」

「はっ」

「さて、余も忙しい身であるため、手短に命を伝える。ウサラガル大渓谷の近くに魔人の都市があるのは知っておるな。どうやらその領主は真祖という吸血種の魔人であるらしい。それを討伐して参れ」

「はっ。では領主をしている真祖の吸血鬼とやらを討伐して参ります」


 真祖か。戦ったことがないタイプの魔人だ。一度ヴェノの所に寄った方がいいかもしれないな。そんな事を考えていると王から想像もしていない耳を疑う事を言われた。


「その魔人都市には食料として人間も飼われておるそうだ」

「では、合わせて救出して参りましょう。しかしあそこは帝国領土であるため、救出後は帝国預かりになるかと思いますが……」

「早とちりをするな。





 ――今、なんていったのだ。捕らえられている人間も殺すだと?


「なぜ、殲滅なのですか」

「口答えは聞いていない。余の命令を果たせ、勇者」

「……なぜッ! と聞いてます」


 俺は立ち上がり王を睨みつけた。すると、周囲にいる近衛兵が槍を俺に向け、後ろにいる二人も殺気を放ったのがわかる。


「き、貴様ァッ! 勇者の分際で、余に逆らうというのかァッ! こちらが下でに出れば調子に乗りおって。貴様は大人しく、余の命令だけを聞けばよいのだ!」

「俺は人を守るために勇者になりました。同じ同族を殺すためではない」

「――勇者」


 すると今まで黙っていた宰相が口を出してきた。


「事前の調べによると件の真祖の住む都市では、人間を家畜のように飼っているだけではなく、洗脳までしておるのだ。真祖の魔人に食われる事が名誉であると生まれながらに刻み込められ、魔人を自らの信仰の対象として奉っているのだ。そのため下手に救出してもその洗脳を解くことは容易ではなくまた、逆に不利益になる可能性すらあると判断された故、諸共殲滅という指示となっている。納得しろとは言わぬ、だが理解はしろ。それがお前に与えられた新しい命令なのだ」


 魔人による洗脳。確かにそれは厄介だ。魔法だけの洗脳であればなんとでもできるが、生まれながらに価値観の一つとして埋め込まれている場合、確かに下手に助けても逆に魔人の味方として暴動を起こす可能性すらある。だが、それでも――



「何をしておる。勇者、お前の要件は以上だ。さっさと行くがいい」


 王はそういうと足場やに謁見の間を後にして出て行った。もう話すことはないという事なのだろう。踵を返し、俺も謁見の間より退場する。そのまま来た道を通ると、一人の老執事が俺の前に立ち止まっていた。


「勇者殿、聖女アーデルハイト・ラクレタがお待ちです。どうぞこちらへ。ヴェルナー殿、アルフレット殿はここまでで結構です。後はこちらが引き継ぎましょう」

「……そうですか。ではくれぐれもよろしくお願いしますな」


 次は聖女か。王に聖女まで会うとは完全に今日は厄日だな。



 









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