第53話
少女はそれから、毎日のように森へと通いつめた。
森ではユニコーンが待っていて、少女は彼と楽しくお話をした。
木漏れ日が落ちる森の中、一角の白馬と少女の周りでは、蝶や小鳥が戯れる。
幻想的な風景の中で、少女は夢のようなひと時を過ごした。
ときにはユニコーンの背に乗って、森の中を散策したこともあった。
ユニコーンは少女に優しく語りかけ、少女は楽しそうに受け答えをした。
少女の名前はエイミー。
ユニコーンの名前はルイス。
一人と一頭は、最愛の友達になった。
ただしユニコーンは、少女に一つだけ口止めをした。
自分のことは、誰にも話さないようにと。
エイミーが「どうして?」と聞くと、ルイスは『欲深い人間が、僕の角を狙うからさ』と答えた。
ユニコーンの角は、大いなる治癒の力を秘めている。
ゆえにそれは人間社会で高額取引される財宝になるのだと、ルイスは語った。
エイミーは「分かったわ」と答えて、言いつけを守った。
自分の両親を含め、彼女はルイスのことを誰にも話さなかった。
だがユニコーンのルイスもまた、ひとつ考えが抜けていた。
自分の姿を見た人間がもう一人いたことを、すっかりと失念していたのだ。
ある日のこと。
エイミーがいつものように森の待ち合わせ場所に行くと、そこで信じられない光景を目の当たりにした。
ルイスの周囲を、武装した十人ほどが取り囲み、攻撃を仕掛けていたのだ。
武装した者たちは、いずれもダークエルフのようだった。
浅黒い肌を持ったエルフの親戚だが、普通のエルフとは違って邪悪な種族であるとエイミーは教わっていた。
ルイスは懸命に反撃をしているようだったが、多勢に無勢である上に、ダークエルフたちは一人ひとりが洗練された戦士だった。
ダークエルフたちは見事な連携攻撃でルイスを次々と傷付け、彼を徐々に弱らせていく。
その光景を見たエイミーは、恐怖でへたり込んでしまった。
ルイスを助けなければと思いながらも、エイミーには何もできない。
そればかりか、自分が暴漢に襲われたときのことを思い出してしまい、あのダークエルフたちからも同じことをされるのではないかと怯えてしまった。
苦闘するユニコーンの瞳が、少し遠くの木の陰でへたり込んでいたエイミーの姿を捉え、大きく見開かれた。
同時にダークエルフたちも、エイミーの姿を発見したようだった。
『逃げろ、エイミー!』
ルイスがそう叫んだのと同時、エイミーは弾かれるようにその場から逃げ出していた。
少しして、逃走したエイミーのあとを、一人のダークエルフが追いかけてくる。
それは若い女のダークエルフだったが、だからといってエイミーにどうこうできる相手ではない。
エイミーは必死に走った。
わけが分からなくなりながらも、ただ本能のままに逃げた。
ルイスを助けなければいけないのに、どうして自分は逃げているのか。
でも、だって、どうしようもない──
追いかけてくるダークエルフの脚は速い。
じきに追いつかれる。
それでもエイミーは、ただただ逃げるよりほかに思いつかなかった。
逃げ続けていたら、やがて森の出口が見えてきた。
森の外に出たからどうなると?
分からない。
ダークエルフが追いかけてくる。
追いかけてくるから逃げる。
エイミーの頭にあるのは、今やそれだけだった。
森を出た。
丘の上にある森の入り口前からは、村の風景が一望できる。
でもダークエルフは、もうすぐ後ろまで迫っていた。
村までたどり着けるとは思えなかったし、たどり着いたところでどうなるとも思えない。
何よりもう、走るのも限界だった。
あきらめるしかないように思えたそのとき──
エイミーの目に、一つの希望が映った。
それは冒険者らしき、武装した一団だった。
少年が一人、少女が三人。
エイミーのすぐ近くを、のんびりとした様子で歩いていた。
エイミーは藁にもすがる想いで、その一団に向かって走り、叫んだ。
「た、助けてください!」
冒険者らしき一団が、少女の声に気付いて振り向いた。
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