第30話 出口の罠

 ケヴィンたち四人の冒険者は、口々に感想を言って廃神殿から歩み出ていく。


「いやー、さすがにグールどもは手ごわかったわ」


「本当だぞ。もうボロボロで、ワウたちには戦う力なんて少しも残ってないな」


「まったくです。魔力も使い果たしてしまいましたし、これ以上の戦闘は無理ですね」


「でもグールは十八体も倒しましたから。勝負には勝ったと思います」


 彼らの演技力にはいろいろと問題があったが、それで十分だった。


 神殿前では、ナイジェルら四人の冒険者が武器を構え、手ぐすねを引いて待ち構えていた。


「やあ、ご苦労だったね諸君」


「「「「──っ!?」」」」


 ケヴィンたちは、驚いた様子を見せる。


 ナイジェルの手には、ネックレスから引きちぎられた赤い宝石。

 青年はにやりと笑う。


「だけど──キミたちにはもう少し、痛い目に遭ってもらうよ! フラーマ!」


 ナイジェルはマジックアイテム発動のための合言葉を唱えると、手にした赤い宝石をケヴィンたちに向けて投げつけてきた。

 宝石は瞬く間に、内側から光り輝いて──


 ──キュドォオオオオオオオンッ!


 ケヴィンらの直前の空中で爆発、激しい爆炎を巻き起こした。

 爆炎は四人の若き冒険者たちを、容赦なく包み込む。


 ナイジェルは高らかに笑った!


「はははははっ、バカな奴らだ! ルールを与えられたらルール通りに戦うことしか考えられない! そんなバカだから痛い目を見るんだよぉっ! ──さぁテメェら、あとは殺さない程度に痛めつけるぜ!」


 本性を現したナイジェルが、仲間たちに号令をかけつつ大剣を構える。


 彼の仲間たちもまた、それぞれ斧、弓、短剣を構えて、爆発のあとの砂煙が晴れるのを待った。


 だがそのとき、砂煙の中から少年の声が響き渡る。


「至高神よ、傷ついた者たちに癒しの力を──エリアヒール!」


「「「何っ……!?」」」


 やがて砂煙がやむ。


 そこには四人の若き冒険者たちが、爆炎のダメージなどまったくなかったかのような、ピンピンとした姿で立っていた。


 目に見えることはないが、四人にはケヴィンが事前にかけておいた神聖術、炎熱防護ヒートプロテクションの効果が働いていた。


 それによってダメージが半減され、さらに範囲治癒エリアヒールの神聖術によって、受けたダメージすらもすべて治癒したのだ。


 三人の少女たち──ジャスミン、ルシア、ワウが、その場から散開しながら口々に叫ぶ。


「はっ、やっぱりそう来たかい!」


「動機は分かりませんが、これで私たちを攻撃したことは確定です!」


「お前たちは悪いやつだ! やっつけてやるぞ!」


 そしてケヴィンは、大剣を構えた剣士ナイジェルに向かって、まっすぐに駆けていく。


 矢のように相手の懐に突っ込んでいった少年は、剣に聖光をまとわせ、それを鋭く振るう。


「──はぁあああああっ!」


「なっ……! ば、バカなっ──ぐぁあああああっ!」


 ケヴィンの聖撃ホーリーストライクの破壊力は、とっさに大剣で受け止めたナイジェルを勢いよく吹き飛ばした。


 数メートルも吹き飛んで地面をゴロゴロと転がった青年は、すぐに起き上がろうとするが、そこで膝をついて吐血する。


「ガハッ……! な、なんだと……!? バカな……なぜだ……!?」


 ナイジェルが胸に手を当てれば、ぬるっとした赤色のものがべったりとこびりつく。


 ケヴィンの斬撃は、金属製の胸当てを引き裂いて青年の肉体をも穿ち、その浅からぬ傷口から赤い血を流させていた。


「ナイジェルっ……!? う、嘘でしょ……!? 何なのよ、そのバカげた剣の威力は!? 魔剣なの……!?」


 二振りの短剣を構えた女冒険者が、ケヴィンの前から慌てて飛び退る。


 ナイジェルパーティのもう二人、斧使いの男と、弓使いの男も、それぞれにケヴィンから大きく距離を取った。


 少年は剣を一振りして血を振り払い、敵パーティの前で堂々と立つ。

 そしてはっきりと言い放った。


「あなたたちはもう、モンスターと同じだ──成敗します」

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