第31話 Cランク冒険者たちの実力

 一度は膝をついたナイジェルが、ふらりと立ち上がる。


「……成敗……成敗だと? 僕を成敗すると言ったか。ふっ……ふふふふふっ……ハーハッハッハッハ!」


 大剣使いの青年は、高笑いをあげる。


 そして次には、その端正な顔立ちを限界まで歪ませ、ケヴィンを睨みつけ叫んだ。


「舐めてんじゃねぇぞクソガキ!!! おいテメェら、このガキ囲んでバラすぞ! 生かして帰すな!」


 普段の丁寧な口調はどこかへ吹き飛んで、チンピラ丸出しの言葉で怒鳴りつけるナイジェル。


 正体を現した青年の言葉に従って、短剣使いの女盗賊と、斧使いの戦士、弓使いの男がそれぞれケヴィンに攻撃を仕掛けようと動きはじめた。


 ケヴィンはナイジェルを含めた四人に注意深く視線を走らせ、剣と盾を構えて迎え撃つ。


 まずは弓使いが長弓ロングボウに矢をつがえ、ケヴィンに向かって狙いをつけようとするが──


「なっ……!?」


 ──ヒュンッ!


 弓使いが慌ててバックステップした直後、彼が直前までいた空間を、一本の矢が貫いていった。


 その矢を放ったのは、ケヴィンのパーティの女盗賊だ。


 ジャスミンは短弓ショートボウに次の矢を構えながら、ニヤリと笑う。


「なんや残念。少年に気ぃ取られててくれればよかったもんを」


「チッ……! 女ぁっ! 盗賊風情が、本職に勝てると思ってんじゃねぇぞ!」


「はっ! やってみな分からんよ、本職さん!」


 弓使いの男とジャスミンとが、互いに弓矢の撃ち合いに入った。


 さらにもう一組。

 斧使いの戦士のもとには、獣人の少女が駆け込んでいく。


「お前の相手はワウがするぞ!」


「あぁん……!? ケッ、獣人のメスガキが! 二度と舐めた口をきけねぇように、大人の怖さってもんを分からせてやるよ!」


 斧使いの男とワウもまた、一対一の交戦に入った。


 そうしてナイジェルの仲間のうち二人が個々の戦闘に入れば、ケヴィンの前に立つのはナイジェル自身と女盗賊の二人だけになった。


 計画の首謀者である青年は、不愉快そうに舌打ちをする。


「チッ、使えねぇな。おいキャシー、しょうがねぇからこのガキは二人でバラすぞ」


「キャハハハッ、オッケー♪ ま、あたしたちの連携についてこれるわけないし~。──じゃあ行くよ、ナイジェル!」


「おうよ。──ぶっ殺してやるよ、クソガキが!」


 大剣使いのナイジェルと、短剣使いの女盗賊が、ケヴィンに向かって同時に跳びかかってきた。


 一方のケヴィンは、防御の構えを取る。


 先のように意表を突けば一撃も加えられるが、相手が戦闘態勢を整えれば、そうたやすい相手ではないのだ。


「──オラオラオラオラぁっ!」


「──キャハハハハッ!」


 大剣と二振りの短剣による恐るべき連携攻撃が、ケヴィンに襲い掛かる。


 素行は不良なれど、いずれも実力はCランク級だ。

 その攻撃のラッシュは、半端なものではなかった。


「──っ!」


 ケヴィンは盾と剣を駆使して、二人のCランク冒険者からの攻撃をどうにか凌いでいく。


 だがさすがの少年にも、それはたやすいことではなかった。


「ぐっ……!」


 ──ブシュッ!


 女盗賊の短剣の一撃が少年の防御をかいくぐり、ケヴィンの右上腕が浅い切り傷を負った。


 少年はナイジェルの大剣の攻撃を優先して防御しており、その分だけ女盗賊の攻撃への防御がおろそかになっているのだ。


「キャハハハハッ! バァアアアカッ! これであんたはもうおしまいね! あたしの短剣には、即効性の麻痺毒が塗ってあるんだから!」


「…………」


「ハハハハハッ! ──さあ少年、いつまでもつかな!」


 余裕を取り戻したのか、ナイジェルの口調にも多少の丁寧さが戻っていた。


 一方でケヴィンは、なおも二人のCランク冒険者からの攻撃を見事にさばき続ける。


 いつまでたっても、その動きが鈍る様子はない。


 女盗賊が短剣による連続攻撃を続けながら、怪訝そうに眉を動かす。


「どういうこと……!? 麻痺毒が効いてないの……!?」


 それに対してケヴィンは、的確な防御を続けながら言葉を返す。


「ええ。毒耐性ポイズンレジスタンスの神聖術を使っていますから。今の俺に、弱い毒は通りませんよ」


「なっ……!? めんどくさいわねぇ!」


「だが少年! どちらにしたところで、防戦一方ではな! 僕たち二人の連携攻撃で、じわじわと嬲り殺しになるがいい!」


「キャハハハッ、そうね! ──さあさあ、どうすんのよ!」


「…………」


 ──ブシュッ!


 さらに一撃、防御を抜けた女盗賊の短剣が、ケヴィンの頬を浅くえぐった。


 それでも少年は、なおも冷静に攻撃をさばき、凌いでいく。

 彼に焦りの様子は、少しも見受けられない。


 むしろ徐々に焦燥を見せ始めたのは、ナイジェルたちのほうだった。


 彼らの口車による、少年に焦りを与えようという試みは失敗したのだ。


「くっ……! こんなガキ一人の防御が、なんで崩せねぇ……! おいキャシー、手ぇ抜いてんじゃねぇだろうな!」


「バカ言わないでよ……! ナイジェルこそ、一撃も入れられてないじゃない!」


「うるせぇ! このガキ、俺の攻撃を重点的に防御してんだ! お前が突破しなきゃどうしようも──」


 戦いの均衡が崩れたのは、そのときだった。

 その一撃は、ケヴィンの背後から飛んできた。


「氷の槍よ、わが敵を穿て──アイシクルジャベリン!」


「しまっ……!? ──キャアアアアアッ!」


 敵の女盗賊が、飛来した氷の槍の直撃を受けて吹き飛ばされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る