エピソード3:アンデッド討伐と冒険者対決
第20話 先輩と一緒のランチタイム
冒険に出たあとは、少なくとも一日は休みの日を入れる。
ケヴィンたちの冒険者パーティの取り決めだ。
そんなわけで、歌声山から帰ってきた日の翌日は、休日である。
この日の昼、ケヴィンは昼食をとるために、街の大衆食堂へと向かった。
目抜き通りから少し外れた場所にあるその店は、手頃な価格でおいしいランチが食べられるとあって、不利な立地ながらも昼時にはそれなりの客入りがある。
ケヴィンが店の扉をくぐると、カウンターの一席に見知った顔を発見した。
「あれ、ケヴィンさん……? お昼ですか?」
「ルシアさん? 奇遇ですね」
冒険者パーティの仲間の一人、魔導士の少女ルシアだった。
カウンター席についていた彼女は、空いている隣の席をぽんぽんと叩いてみせる。
「お隣、どうですか?」
「はい。じゃあ失礼します」
ケヴィンは店員にも確認してから、ルシアの隣の席についた。
少年は隣席となった知人に緊張しつつ、食事を注文する。
ルシアはケヴィンの顔色を窺うように、こんなことを言ってきた。
「ケヴィンさん、私のこと、休日に一人で食事をする寂しい女だと思ったでしょう?」
「え、いや、思ってないですけど」
「えーっ、本当かなぁ?」
「本当ですよ。だったら俺も寂しい男になっちゃうじゃないですか」
「あははっ、言われてみればそうですね。じゃあ寂しい女と寂しい男で、一緒にお昼を食べましょう」
「いやだから、どうして寂しいことにしたがるんですか」
「……どうしてだと思います?」
ルシアは隣席から、意味ありげな微笑みとともにケヴィンの顔を覗き込んできた。
ケヴィンはその表情に、思わずドキッとしてしまう。
今日のルシアは、冒険に出るときの魔導士姿ではなく、街の人たちと同じような私服姿だ。
それもオシャレに気を遣った上等な衣服で、ただでさえ魅力的な少女を可憐に彩っていた。
ケヴィンはドギマギとしながら、ルシアから視線を外しつつ答える。
「わ、分かりません……! それよりワウさんやジャスミンさんとは、今日は一緒じゃないんですね」
「はい。たまに一緒に遊ぶ日もあるんですけど、休日ぐらいはプライベートにしようって、パーティ内での決め事なんです。ケヴィンさんだけ仲間外れにされていると思いました?」
「い、いえ……そういうわけじゃ……」
「ふふふっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪な聞き方をしちゃいましたね。ケヴィンさんはいじるとかわいいので、つい」
「むぅーっ……」
ケヴィンが不満そうに口をとがらせたのを見て、ルシアがくすくすと笑う。
それからルシアはケヴィンに身を寄せ、少年の耳元でこう囁いた。
「……私のこと、嫌いになる前に言ってくださいね? ケヴィンさんに嫌われたら、私、ショックで寝込んじゃいますから」
一方でケヴィンはといえば、気が気ではなかった。
息が吹きかかるぐらいの距離で囁かれた少年は、頬を真っ赤にして隣席の少女に抗議をする。
「ル、ルシアさん……! そういうの、本当にやめてください!」
「えーっ。どうしてですか?」
「ど、どうしてって……どうしてもです!」
「ふふふっ、どうしよっかなぁ~♪ 本当に嫌われている感じでもなさそうだし、こんな楽しいいたずらはやめたくないですし♪」
「……ルシアさん、意外といじめっ子ですか?」
「いじめてるつもりはないんだけどなぁ。……こういうの、ケヴィンさんは楽しくないですか? ドキドキしません?」
「い、いや、それは……い、いただきます!」
そんなやり取りをするうちに料理が運ばれてきたので、ケヴィンは会話から逃げるようにして、あわてて食事にとりかかった。
ルシアはそれを見て楽しげに笑いつつ、自身も食事に手をつけていく。
ケヴィンにとっては、気心の知れた隣人との食事だったはずが、ルシアのいたずらのせいでとんだドキドキハプニングになってしまったわけだが──
そんなとき、もう一つのハプニングが訪れる。
店の入り口の扉が開き、冒険者風の四人組が入店してきたのだ。
「──だからさ、僕はそいつが泣いて謝るまで、ボコボコにしてやったんだよ。そうしたらあの女、『ごめんなさい、もう生意気言いませんから許してください』って、不細工になった顔で言ってさ。傑作だったよあれは」
「キャハハハハッ、その女バカすぎ~! ナイジェルを怒らせたらどうなるかぐらい分かるじゃん」
男性三人に女性一人という四人組は、大声で喋りながら、我が物顔で店内に踏み込んでくる。
そんな四人の先頭を歩く青年に、ケヴィンは見覚えがあった。
冒険者ギルドで、歌声山への薬草を採りに行ってほしいと願う依頼人を罵倒し、蹴り飛ばした男だ。
四人は空いているテーブルの一つに勝手に陣取ると、そのうち二人が店員に向かって怒鳴りつける。
「おい、注文! 早く聞きに来いよ!」
「お客様を待たせんじゃねぇ! ったく、使えねぇ店だなホント!」
混雑時で慌ただしく動き回っていたウェイトレスが、「は、はい、ただ今! 少々お待ちください」と慌てて返事をする。
ケヴィンの隣では、スプーンを持ったルシアの手が、ぎゅっと握られていた。
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