第21話 チンピラたち
四人組の横暴は、さらに続いた。
運んでいた料理を別の客のもとに届け終えたウェイトレスが、すぐさまその四人のもとに向かう。
男の一人が、また彼女を怒鳴りつけた。
「遅っせぇぞ! 客が呼んだらすぐに来い! 舐めてんのか!」
「す、すみません。ほかのお客様にお料理を運んでいたもので。ご注文をお伺いします」
「はぁ? 言い訳すんのか? この店の教育はどうなってんだ! おい、店長呼んで来い店長! 今すぐにだ!」
「で、でも店長は今、厨房で料理を作るのに手いっぱいで……」
「ああっ!? 客が呼んで来いっつったらすぐに呼びに行くのが当たり前じゃねぇのかよ! さっさと行ってこいボケ!」
「まあまあ、落ち着けよお前ら。店側にだって都合はあるさ。──すまないね、こいつら気性が荒くてさ」
そう言って取り持ったのは、四人組のリーダーらしき青年だ。
怒鳴っていた男たちも、「ナイジェルさんがそう言うなら……」と矛を収める素振りを見せる。
ウェイトレスは少しだけ安堵した表情を見せて、再度注文を伺った。
今度はおとなしく注文をする四人組。
それを見ていたケヴィンは、小声でルシアに話しかける。
「柄の悪いチンピラかと思いましたけど、どうにか収まりそうですね」
だがそれを聞いたルシアは、険しい表情で首を横に振る。
「違いますよ、ケヴィンさん。あいつらのタチが悪いのは、これからです」
「これから……?」
ケヴィンが問い返すも、ルシアからの返事はない。
少女は何かを躊躇っているようだった。
やがてケヴィンらが食事を終えた頃に、ウェイトレスが四人組の料理を運んで、そのテーブルへと向かっていく。
ルシアは隣の少年に向けてつぶやく。
「あいつら、きっとやります。ケヴィンさん、あいつらのことをよく見ていてください」
「見ている……? あっ」
それはとても素早い、注意深く見ていなければ気付かないような動きだった。
四人組の中の女性が、料理を運んでいたウェイトレスの足を引っ掛けたのだ。
「えっ……」
ウェイトレスが、何が起こったのか分からないという表情で声を上げたとき、彼女はバランスを崩し、料理は宙を舞っていた。
──ガシャーンッ!
四人組がいたテーブルやその周辺の床に食器が転がり、料理がぶちまけられる。
席に座っていた四人は、まるでそうなることがあらかじめ分かっていたかのように、ぶちまけられた料理に汚れることなく素早く席から離れていた。
男たちが騒ぎ出す。
「おい、おいおいおいおい! どうなってんだよこの店は!」
「ふざけんなよ、客を何だと思ってるんだ! ──おい女! 何ボサッとしてんだ、早く店長呼んで来い店長!」
「で、でも……今……」
若いウェイトレスは転倒した姿勢のまま呆然とし、今にも泣き出しそうな顔になっていた。
彼女は自分の足元を見るが、当然ながら何らの痕跡も残っていない。
四人組のリーダーらしき青年が、静かな声でウェイトレスに言う。
「店長を呼んでくるべきじゃないかな? 違うかい?」
「あ……で、でも……」
ウェイトレスは、四人組の中の女性を見る。
女性はニヤニヤ笑いを浮かべ、ウェイトレスを見ていた。
それでウェイトレスは、頭に血が上ったようだった。
彼女は女性を指さして、懇願するような声をあげる。
「こ、この人が今、私の足を引っ掛けたんです! 私はちゃんと──」
だがその言葉に、青年は穏やかに聞こえる声でこう応じた。
「誰にでも失敗はある。でもその失敗を人のせいにするのは、良くないんじゃないかな」
「えっ、あ……で、でも……だって、私……」
「はぁー? ねぇナイジェル、この店員なんなの? あり得なくない? あたしチョー気分悪いんだけど」
「す、すみません、お客様……!」
昼時の厨房であわただしく料理を作っていた男性店長が、いよいよまずいと思ったのか、料理を中断してすっ飛んできた。
そして店長はウェイトレスを叱責し、四人組に向かって何度も頭を下げ、ウェイトレスにもまた頭を下げさせた。
それを見下ろす四人組のリーダーらしき青年──ナイジェルの顔は、嗜虐的な笑みで満ちていた。
彼は店長に静かに詰め寄る。
「店長さん、この始末をどうつけてくれるのかな。たまたまよけられたからいいけど、僕らは料理をかぶるところだったんだよ?」
「す、すみません。本当に申し訳ございません。その……今日のお代は結構ですので……料理はもちろん、新しく作り直させていただいて……」
「それは当然のことだよね。……で、それだけ?」
「そ、それは……」
「店長、違うんです……! この人が私の足を──」
「いいからお前は黙っていなさい! 話はあとで聞くから! ──も、申し訳ありません、お客様。店員への教育が行き届いておりませんで」
「まったくだね。しっかり教育をしてからでないと、お客様の前に出すのは失礼だよ。それで、どう賠償してくれるのかという話だけど──」
「ちょっと待ってください」
そこに口を挟んだのは、少年と少女の二人組だった。
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