第4話 洞窟探索

 広大なトンネルがぐねぐねと曲がりくねりながら、奥へと伸びている。


 洞窟探索は、盗賊のジャスミンが偵察役として先行し、そのあとをケヴィンとほか二人の先輩冒険者がついていく形で進められた。


 魔導士のルシアが作った魔法の灯りは一つだけだ。

 ルシアが手にした魔導士の杖の先が、たいまつのように明るく輝いてあたりを照らしている。


 先行するジャスミンは、ある程度の暗がりでも見通せる目を持っているようだ。

 敵に気付かれてしまうことを危惧してか、彼女は灯りを持たずに先行している。


 先輩冒険者たちの手際の良さを見て、ケヴィンは感嘆していた。

 仮にケヴィンだけでミノタウロス退治に来ていたら、こうはいかなかっただろう。


 そうして洞窟探索を続けていると、やがて先行していたジャスミンが、後続のケヴィンたちに向けて「待った」の仕草を見せた。


 その後、彼女は曲がりくねった洞窟の先を、こっそりと覗き見る。

 それから口元に手をあて、そそくさと後退、ケヴィンたちのもとまでやってきた。


 ジャスミンは不快感をあらわにし、小声でこう口にする。


「あの先におるわ、クソ怪物が。……食事の最中やった。その子はもう事切れとる」


「「「──っ!」」」


 ケヴィンと、ほかの二人の先輩冒険者が同時に息をのんだ。

 ジャスミンは構わず、報告を続ける。


「あと、同じ広間にぐったりしとる娘がもう一人、こっちは生死不明。残りの一人は見当たらん。やつがいる広間のさらに奥にも洞窟が続いとったから、そっちにおるのかもな」


 ジャスミンから状況報告を受けたケヴィンたちは、しばし絶句していた。

 覚悟していた事態とはいえ、衝撃は大きい。


 次に口を開いたのはケヴィンだった。


「いずれにせよ、俺たちがやるべきことは変わらない。怪物ミノタウロスを打ち倒すのが、俺たちの仕事──そうですよね」


 その少年の言葉に、三人の女性冒険者たちもうなずいた。


 そうと決まれば、戦いの準備だ。

 ケヴィンは神に祈りを捧げ、次々と戦闘補助の神聖術を行使していく。


 魔導士のルシアも、魔力武器エンチャントウェポンの魔法を使ってワウの拳やジャスミンの弓を強化していたが、そんな彼女もケヴィンの神聖術には驚いていた。


「え……ケヴィンさん、今、いくつの神聖術を使いました?」


 ルシアがそう聞くと、ケヴィンは指折り数えていく。


「えぇっと……まず神聖武器ディヴァインウェポンをワウさんとジャスミンさんに、次に神聖鎧ディヴァインアーマーをワウさんに、最後に祝福ブレッシングを全員にかけたので、全部で三種類ですね」


「んん……? 初級の神聖術って、そんなに補助術が豊富だったっけ……?」


「それより少年、治癒術を使えるだけの神聖力は、ちゃんと残っとるんか?」


 ルシアが首をひねる一方で、盗賊のジャスミンがそう聞いてくる。

 それにもケヴィンは、自信をもって答える。


「はい。ここまで使って神聖力の消費量は二割程度なので、まだまだ余裕はあります」


「ふぅん……。初級の術者でそれってことは、神聖術ってのはずいぶん使い勝手がいいんやな」


 このときケヴィンは、ジャスミンやルシアの言う「初級」という言葉に少しの引っ掛かりを覚えていたが、それは今重要なことではないと思考から除外した。


 一方で狼牙族の武闘家ワウは、支援の術をたて続けに受けて「な、何かすごそうだぞ……!」などと言って手をグーパーさせていた。


 さて、そうして戦闘準備が整えば、冒険者たちはいよいよ戦いに挑むときだ。

 狼牙族の少女が、ケヴィンたちを見回して言う。


「ワウがミノタウロスに突っ込んで接近戦を仕掛けるぞ。ルシアは魔法で、ジャスミンは弓で、ケヴィンは治癒術で後ろから援護だ。いいな?」


 その言葉に、ケヴィンを含めた仲間たちがうなずいた。




 ……と、これで作戦通りにミノタウロスを撃破して一件落着となればよかったのだが、そう思いどおりにいかないのは彼らに与えられた運命ゆえなのか。


 この後、現実は冒険者たちに、予想もしていなかった出来事を突き付けることになるのである。

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