第3話 村長の話
村にたどり着いた冒険者たちは、まずは村長の家に行って話を聞くことにした。
村長の家の戸を叩き、街の冒険者ギルドで
会議用の部屋で各自が席につき、先輩冒険者たちがそうしたのを見習って、ケヴィンもまた出されたお茶に口をつける。
(へぇ……冒険者って、こういう風にするのか……)
ケヴィンにとっては初めての経験なので、何もかもが新鮮だ。
先輩冒険者たちの所作や言動の一つひとつをしっかりと見て、学ぼうとする。
それはケヴィンの真面目さであった。
「──ではミノタウロスが村を襲ったのは、一昨日の夕刻過ぎということですね?」
村長に向かってそう口にするのは、魔導士のルシアだ。
三人の先輩冒険者たちの中では最も人当たりがいいため、基本的な対話は彼女が行うという。
対する村長は、怒りと悔しさをこらえるような様子で答える。
「はい。あれは突然の出来事でした。巨大な斧を持った牛頭の巨人が村に現れ、村の娘をさらっていったのです。それも三人も」
「……許せませんね。ほかの被害は」
「武器を持って立ち向かった村の男たちのうち、五人がやつに殺されました。……それだけの犠牲を払ってなお、我々はやつを殺すどころか、ろくな傷を負わせることもできなかったのです」
「……お悔やみ申し上げます。私たちが必ず、その憎き怪物を退治してまいります。さらわれた人たちも、生存しているならばできる限り救い出したいと思っています」
「よろしくお願いします、冒険者の皆様」
「お任せください。──クエストの依頼書には、ミノタウロスの現在の居場所について見当がついていると書かれていましたが」
「はい。昨日の話ですが、村の狩人がやつの足跡を辿ったところ、村から小一時間ほどの場所にある洞窟にたどり着いたとのこと。……洞窟の中からは、娘たちの悲鳴がずっと聞こえてきたとも。どうか冒険者様、やつを……あの憎きミノタウロスを殺してくだされ……!」
村長とそのような話をした後、冒険者たちは村長の家を出た。
ケヴィンもまた、先輩冒険者たちのあとについて村長宅を出たのだが──
村長宅の前の広場に出たところで、ケヴィンは先輩冒険者たちに向けてぽつりとつぶやく。
「……俺、ミノタウロス退治なんて聞いて、分かったような気でいました。モンスターを退治して、報酬を受け取るのが冒険者の仕事だって。でも……村の人たちの悔しさや悲しみなんて、何も分かっていなかった……」
ケヴィンは震える手で、拳をぎゅっと握りしめる。
それを見た盗賊のジャスミンは、少し冷めた様子で少年に声をかける。
「あんまり感情的になりすぎるのもいかんよ、少年。強すぎる気持ちは、状況判断を鈍らせるからな」
「……はい」
感情を抑えつけるような低い声で応えるケヴィン。
だが狼牙族の少女ワウも、少年に同意するような声を上げる。
「ワウもミノタウロスのことは許せないぞ……! 必ず倒して、さらわれた人たちを助け出す! 絶対だぞ!」
「……さらわれた人たちのほうは、まだ生きていればの話ですけどね。それに生きていても、ろくなことにはなっていないと思う。さらわれてからもう、一日半も経っていることになるし……」
悲観的な見解を添えたのは、魔導士のルシアだ。
だがそれが現実的な見方であることは、この場にいる誰もが分かっていた。
ケヴィンが再び、低い声でつぶやく。
「……とにかく、村を襲ったミノタウロスは倒さなければいけない。何としても」
「ああ、そうだ。──でもケヴィン、お前は剣を抜いて斬りかかったりしたらダメだからな! ちゃんと神聖術で、ワウたちの援護をするんだぞ!」
狼牙族の少女にそう言われ、ケヴィンはうなずいた。
その後、冒険者たちは狩人からも話を聞いてから村を出ると、ミノタウロスが潜むと思しき洞窟へと向かった。
盗賊のジャスミンが先頭に立ち、村の狩人がそうしたのと同じように足跡を追いかけていくと、やがて一つの洞窟が見えてくる。
洞窟からは、村娘の悲鳴は聞こえてこない。
しかし足跡を追う限り、それが目的の洞窟に違いない。
まずは盗賊のジャスミンが洞窟の前まで偵察に行って、周囲を見回し聞き耳を立てるなどしてから、後続の仲間たちに合図をして呼び寄せた。
洞窟の入り口やそこから続くトンネルは広く、天井の高さは冒険者たちの背丈の倍以上もある。
魔導士のルシアが魔法の灯りを作ると、冒険者たちは洞窟の中へと踏み込んでいった。
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