第46話 なんで?
「……咲百合先輩、今なんて?」
相澤は、目を丸くして聞き返す。
俺も、姫乃先輩がこうして来てくれている以上、てっきり一緒に戦ってくれると思っていたから衝撃的だった。
この場に居るシロルも、見ているが口出しする気がないのか何も言わない。
「あら、聞こえなかったかしら? 私は、貴女に魔法少女を辞めさせるために、ここに来たと行ったのよ」
「どうしてですか? 間違った事はしてないのに!」
「そんなの、危ないからに決まってるでしょ? 私はね、見知らぬどこかの誰かより、貴女に危険な目にあって欲しくないのよ」
姫乃先輩が言っていることは、何一つおかしくない。
むしろ、彼女の反応のほうが自然だ。
なまじ魔法が使え、誰かを守る力があるからか、そう言う反応が一般論だと気づけなかった。
いや、ただ見てみぬフリをしていただけなのかもしれない。
「貴女、さっき私が来てなかったらそこの使い魔もろとも死んでたかもしれないのよ?」
「それは!! そうかもしれないですけど……」
姫乃先輩は『かもしれない』っと言ったが、間違いなく二人揃って死んでいただろう。
感謝しても、しきれないほどの恩はあるが……。
「貴女の事だから、自分の大切な人を守りたい。だから戦いたいとか思ってるのよね?」
姫乃先輩に見透かされて、相澤はグウの音もでない様子だ。
かくいう俺も、反論する言葉もすべも持たない。同じだから。
「でもね、貴女を大切に思ってる人も、同じように貴女に元気でいて欲しいと願ってるの。両親も友人も、もちろん私もね」
「咲百合先輩……」
「だから危険な真似は止めて頂戴。貴女じゃないと駄目なんて事はないの、他の誰かに任せればいいじゃない」
俯き、目を伏せる相澤の姿を見て、もしかしたら、相澤はこのまま魔法少女を辞めてしまうかもしれない。なんて事を思ったときだった。
俺は彼女が、小さく拳を握りしめていた事に気付く。
「駄目なんです……」
「えっ?」
相澤は睨みつけるように、それでいて真正面から姫乃先輩に立ち向かう。
「そんなの駄目なんです! 私は知っちゃった。魔法のことも、ゾーオの事も。誰かを救えることは、運動も勉強も何も出来なかった、自信のない私が唯一誇れる事だから!!」
そんなことを思って……。
「確かに心配をかけちゃうかもって、後ろめたい気持ちもあります。それでも、困ってる人を見て、みぬフリをするような卑怯な自分じゃ、堂々とノア君に顔向けできなくなっちゃう」
「澪……。あなた」
いい話だ、今でも全然堂々と顔向けして無いだろ? なんてヤボなことは、この際言わないでおこう。
彼女なりに思うことがあるわけだし。
「分かったわ、認めます。どのみちこれ以上言っても無駄みたいだしね」
「咲百合先輩!」
あれ、思ったよりあっさり。
もしかしたら姫乃先輩、相澤の覚悟を聞くためにこんな事を? なんて、考えすぎか。
「──ただこれだけは約束して。死ぬ気でとか言って無茶をしないと」
姫乃先輩は、相澤の肩を掴み、言い聞かせるように話しかける。
表情からは笑顔が消え、彼女の本気が伝わるようだ。
「死ぬ気なんて言うのは覚悟じゃない、ただの諦めよ。そんな事するぐらいなら何が何でも生きて成し遂げなさい。例え汚泥を啜ろうとも! 魔法が思いに呼応するなら、諦めや迷いは敵よ。生きて、生きて、その上で救ってみせなさい」
まるで、自分のことを言われてるみたいに耳が痛かった。
魔法が思いに呼応するなら、諦めや迷いは敵かっ……。
俺の弱さは、もしかしたらこんな事も理由なのかもしれないな。
「でもまぁ、今後は命の心配はしなくてもいいけどね。ふふっ、だって私が貴女を守るから」
「それって!?」
相澤は、咲百合先輩に抱きついた。
そうか、今後は姫乃先輩も協力してくれるのか。
心強い! って言いたいけど、勘弁して欲しいって思う気持ちもあるな。
「澪の使い魔、ちょっと来なさい」
……えっ。俺、今声に出してないよな?
相澤に抱きつかれている姫乃先輩は、手招きで俺を呼ぶ。
怒られる事は、していないつもりだけど。
正直、逃げ出したい気持ちもあるが、今後の事を考えれば素直に行くべきか。
「いてぇ!?」
そして近づくと、姫乃先輩のデコピンが炸裂した。
「言っておくけど、貴方もよ? さっきも言ったけど、自分が死んでもなんて思わないで。貴方の死はこの子をずっと苦しめるの、そのことを重々理解して」
「は、はい。肝に免じておきます……」
やっぱり怒られた!!
しかしなんというか、いつもの折檻とは少し違う。
心なしか優しさがあるような。姫乃先輩、もしかして機嫌が良い?
「でもまぁ、主人を守ろうとした気概だけは認めてあげるわ。貴方、名前は?」
「えっと、ノ、ノアール……」
「そう、だからノアちゃんなのね。私は姫乃咲百合。それでこの子が私の使い魔の『フォルムチェンジ』」
姫乃先輩が魔法の言葉を唱えると、彼女の近くに浮いていた盾が光り形を変える。
そしてクルッと縦に一回転し、猫の形を成す。
「はじめまして、
あ、この子、以前姫乃先輩が連れてた。
盾の姿に変わるとか、そんな事もできるんだ? なんて思っていると、隣で話を聞いていただけだったシロルが、落ち着きを無くしていることに気付く。
「お、俺っちはそろそろ……」
そして、慌ててその場から逃げるように翼をひろげ、飛び出そうとした。
「あら、どちらへ行かれるのですかにゃ。シロル様」
アネモネがそれを見て、声をかけた。
するとシロルは、ビクリッと体が跳ね
動きを止める。
「ずっと私の元に居てくれるって言ってくれましたよね? なのになんで逃げますのにゃ? あんにゃにも愛してるって言ってくれましたのに、あれは嘘だったのですかにゃ? 私はシロル様を狂ってしまうほど愛していてにゃまないのに。あにゃたにゃしでは生きていけませんの……。シロル様後生です、アネモネを愛しているとお聞かせくださいにゃ」
愛が重い!!
俺は察した、なぜ以前に逃げ出したのかを。
シロルは翼を消すと、肩を落とし諦めたように彼女の元へとあるき出す。
そして近づくと、アネモネはシロルに頭を必要以上に擦り付け「シロル様シロル様シロル様シロル様シロル様……」っと、愛しき彼の名前を繰り返す。
時折俺を見て、助けて欲しそうにするのやめろよ……。無理だから。
「えへー。シロルちゃん、アネモネちゃんとラブラブなんだね」
ラブラブって、死語じゃないか? なんて思ったが、重要なのはそこじゃない。
彼女にとって、あれが仲良く見えている点が問題だ。
つまりそれは、彼女にも病む才能があるわけで……。
相澤。お前の唯一の救いは、ストーカーなのにお気楽な所だ。
だから頼む、病んでくれるなよ?
「さて、自己紹介も終えたし元の姿に戻りましょうか」
「あ、はい! 結界も解かなきゃいけませんし」
そういえば、まだ結界が張りっぱなしだったな。
結界と言えば、さっきの家族が何事もなく無事だと良いんだが……。
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