第40話 ゾーオの調査
その日の、最後の授業中。
俺は眠気に抗いながらも、真面目に勉学に勤しんでいた。しかし──。
「見てみろよノア、グランドに犬が居るぜ」
中には集中できていないものも居る。
授業中に裏を振り向き、俺に話しかけてくる目の前の一樹のように。
「授業中だぞ、前見ろ前。って、犬だって?」
体育をしていた生徒がグランドの隅に集まっており、その視線の先には大きめの犬が居る。
本当だ。遠くて見ずらいが、確かに犬だ。
犬種はシェパードっぽいな、時折グランドの外を見て体を低くしている。
酷く興奮している様にも見えるけど。
「皆さん、授業に集中しなさい!」
先生の声が聞こえ、俺と一樹は前を見た。
しかし今朝のニュースを思い出し、なんとなく気になって一樹を盾にして外を見る。
「警察も動いているのか」
やっぱりニュースと関係しているのだろう。
一、二分、目を離した隙にシェパードと警察の追いかけっこが始まっていた。
動物捕獲用の、先端に輪が付いているポールをもった警官が二人がかりで、囲むように追いかけている。
興奮しているように見えたのは、きっとこれが原因なんだろう。
「まさか、ゾーオが絡んでたり。なんて……」
グランドを縦横無尽に駆け回る犬に、警察は悪戦苦闘だ。
何となく気になり、俺は「トレース」っと、小声で魔法を唱えた。
「何もない、か」
ゾーオの影どころか、黒いモヤも何も見えない。
特に変わった様子もないようだけど。
「でも、気になるなー……」
応援の警官が更に到着し、警察と犬の追いかけっこは犬の捕獲と言う形で終わりを迎える。
多くの生徒の、心ここにあらずの状態で、終業のチャイムがなり響く。
「授業を終わります」
授業を犬に邪魔され、予定まで内容が進まなかったのだろう。
職員室に帰る先生の背中は、何処か寂しく見えた。
朝のニュースに、茜のポスター。それに、さっきの犬の校内への侵入。
今日一日、所々で出てきた『犬』のワード。
まるでそれは、朝の悪い占いのように脳裏にベッタリとくっついて離れない。
「そういえば聞いたか、ノア? 姫乃先輩、今日学校休んでるらしいぜ」
「えっ、今日は学校まで休んでるのか?」
考え事をしながら、教科書をまとめ帰り支度をしているときだった。
振り向いた一樹から、耳寄り情報を聞かされる。
なんでお前が知ってるんだよ。っとも思うが、まぁ一樹だしって事にしておく。
それにしても、あの人が居ないのか。
「偶然も、三度起きたら必然だよな……」
姫乃先輩が居ないなら丁度良い。気になるから調べに行くか。
「一樹、ちょっと用事がある。悪いけど部活休むわ」
「お、珍しいな。分かったよ、適当に伝えておく」
担任が教室へ入ってきて、手短に最後のホームルームを終えていく。
それが終わり次第、俺はカバンを手にし「それじゃ、先に」っと、一樹へと挨拶をした。
「あぁ、またな」
部屋を出て、階段を降り、一年の教室がある廊下を抜け下駄箱に向う。
一応、相澤も誘って一緒に調査した方がいいか?
「まぁいいや、コーリングもあるし。相澤には何かあってから連絡すれば」
何事もなければ、無駄足になるだけだ。
下駄箱から靴を手にした。
そうだ。もし残り香で追跡できる状況になれば、機動力のある猫の姿のほうが良いよな?
手にした靴を履かず、袋に入れバックにしまう。
その後、俺は一階のトイレに向かった。
「さて、どうやって調査するか」
トイレにつくなり、個室に入る。
その後俺は、便座に座り込んだ。
犬の件を調査するにあたり、どうするべきか。
なんたってさっき決めたことだし、完全にノープランだ。
「そう言えば、いつぞやシロルから聞いたな。この鈴、ゾーオが人の中で潜伏している時は効果が無く、外に居るときか、食事中でなければ位置を教えてくれない。範囲が五キロ圏内とかなんとか……」
ポケットに入っていた鈴付きの指を、手の上で転がす。
魔法と科学の産物とも言ってたな、便利なのか不便なのか。
「俺の『トレース』も、長時間経つと痕跡が消えるみたいだしな。せめて飛んで探せればいいけど、日中飛んで人目につくのもマズイ。どうしたらいいものか……」
トイレの天井を見て、頭を悩ませる。
トレースを使いながら、適当に歩き回るか?
って、市内だけでも二百六十二平方キロメートルもあるんだぞ。
「あ、あの手があるな」
手に持っていた首輪をつけ、ポケットからスマートフォンを取り出す。
ロックを解除してウェブサイトを開く。
「こんな時こそ、文明の利器だ。最新のニュースで大まかな場所を特定して近くまで行けば、鈴かトレースに反応があるかも」
よし、狙い通り。
真新しいニュースでは、ここからさらに東の方でも警察が対応しているらしい。
「善は急げだ『メタモルフォーゼ』──」
変身の魔法を唱え、俺は猫の姿へと変わる。
そしてトイレの開いてる窓、そこから外へと飛び出した。
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