第二章 恋愛相談
第9話 開かずの扉
魔法少女の使い魔となって、最初の土曜日の早朝。
「おはよう俺。あれ、また一枚増えたか?」
人間……。いや、今は猫だけど。
ともかく慣れとは恐ろしい物だと、つくづく感じさせられる。
いつしか俺は、普通に寝て起きて、壁に掛けてある自分の写真に朝の挨拶が出来る様になるまで成長していた。
今更ながら、何故こんな写真に怯える必要があったか?
見えるものより、目で見えないない方がよっぽど恐ろしいではないか。
そんな事を考え、俺は女子高生の部屋には不釣り合いな、そこそこサイズのある冷蔵庫の前に立つ。
「ん~~おはよう、ノアちゃん。喉乾いたの?」
「──ふぁっ!?」
び、びっくりした。
普段はアラームの音で起床する相澤が、突然起きて冷蔵庫を見つめていた俺に声を掛けてきたのだ、そりゃびっくりもする。
「おはよう、相澤。いや、そうじゃなくて……」
聞くんだ
この冷蔵庫の中身も、見て知ってしまえば何も恐れることはない。
中身が分からないから恐ろしく感じるだけだ、きっとそうだ。そうに違いない。
「こ、こ、こ、この中、何が入ってるのかなーって」
聞いたぞ、とうとう聞けたぞ!
俺の質問に、相澤は露骨に視線を外す。
都合が悪い時の、彼女の癖だ。
「あ~うん。ノアちゃん、知らない方が良いって事、あると思うんだ……」
「って、マジで何が入ってんだよ‼」
恐怖のあまり、全身の毛が逆だった。
俺のツッコミに、相澤は口元を押さえクスクスと笑う。そして、
「えへー、なんて冗談だよ」
っと、あっさり冷蔵庫ドアを開けた。
すると中には、飲料水のほかに何個もの瓶が入っているではないか。
「もしかしてそれ、レモンの蜂蜜付けか?」
それには見に覚えがあった。
部活中、休憩によく食べている物に瓜二つだったのだ……。
「うん。頑張ってくれてる皆に、差し入れに持ってってるんだ。ノア君も『美味いな』って、食べてくれたんだよー」
まったく、嬉しそうな顔しやがって。
いつも食べてたこれ、相沢が準備してくれてたのか。
本当、マネージャー達にはいつもお世話になりっぱなしだな。
その思いに報いる為には結果で答えないと……。
──じゃなくて! それより。
俺が気になってるのはそっちじゃない、その上だ。
鎖と複数の鍵で開かなくなってる、冷蔵庫の上の段が気になってるんですけど?
「もういいよね? 今日は午前中、部活の練習があるの、そろそろ準備しないと」
「は、はい。貴重なお時間を取らせて、申し訳ありませんでせした!」
笑顔の筈なのに、彼女の目は一切笑ってない。
無言で、これ以上踏み込むなと言われているようだった。
数日分の勇気を使い切った俺が冷蔵庫から離れると、相澤は部活へ行く準備を始める。
「ま、まぁ一歩前進だ、今日はこの辺にしてやるか……」
俺は小声で謎の虚勢を張り、部屋の隅へと歩く。
何が入っているか分からぬままの冷蔵庫から、なるべく遠く離れた、部屋の隅の隅へと。
そして謎の不安を抱えたまま、俺は相澤が部屋を出るまで、その場に
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