第11話運命のスタート
土曜日、珍しく全員が集まった。今日はレッスンが無いらしく、御神も時間を気にせずいれると話していた。佐伯は寝坊したらしく、30分ほど遅刻するそうだ。
「佐伯くんが居ないけどもう始めちゃいましょうか」
御神は佐伯以外のメンバーが集まっている事を確認し、前に出て言った。今日する事は主に3つ。譜面配りと役割分断、それから譜読みだ。御神は先生から貰った譜面を教卓に並べた。
「ここに、4種類のパートがあります。もちろん、一人ひとりが別々のものなので他力本願にならないように。それぞれが重要なものなので協力しながら頑張ってね。」
俺もさっきザッと4種類の楽譜を確認したが、難易度に少し差はあるもののどれも難しく、時間を要するものだった。
「難易度的には…こっちから順に難しくなるように並べてあるわ」
大した差でもないと思うが一応御神と話して難易度ごとに並べることが出来た。
「わりぃ、遅れたっ」
勢いよく開いたドアの方を見ると佐伯が肩で息をしていた。
「32分遅刻よ」
御神が呆れたように言うと佐伯は居心地が悪そうに端っこの席に座った。
「取り敢えずこっちに来てちょうだい」
御神がもう一度声をかけると佐伯は皆が集まっている教卓の辺りに来た。譜面を見つけ、目が輝く。
「これって…!」
「そうよ、今回1ヶ月間練習する譜面よ。こっちからこっちにかけて譜面が難しくなっていくわ。」
楽しそうに譜面を見つめる佐伯に御神の表情も少し緩まる。
「ちょうど今誰がどの譜面を担当するか決めようとしていたところだよ。音楽が好きだからって難しいのを選ぶと出来が良くなくなって結果的に他の人の音を消すことになるからよく考えてね。」
俺は音楽好きを理由に最難度の譜面を取ろうとしていた佐伯に不安を感じ、忠告した。すると佐伯は暫く悩んだあと、1番簡単な譜面を取った。綾瀬さんもその譜面を取ろうと思っていたのか、一瞬、「えっ」と言う声が小さく聞こえた。
「あ、ごめん。でも…悔しいけど今1番ピアノを弾けてないのは俺だと思うんだ。俺、皆の音を消したくねぇ。」
綾瀬さんの声に気づいた佐伯は綾瀬さんをしっかりと見つめ、自分の考えをぶつけた。すると綾瀬さんは
「和真くんは・・優しいですね・・・。譜面は・・・違いますけど・・・一緒に・・・頑張りましょう!」
と小さく笑った。綾瀬さんは2番目に簡単な譜面を取り、「私がやっていいですか・・・?」と訊き、
「ええ。もちろん。水澄、一緒に頑張りましょう」
御神の言葉にホッと胸を撫で下ろした。大きく頷く綾瀬さんは、入部した時よりもはるかに音楽を愛しているように見える。そんな綾瀬さんを見て、『もう大丈夫だな』なんて思ったりする。真剣に譜面を見て音階を1つずつ書く佐伯も何とか出来る気がしてる。教卓を見ると残る譜面は最難度の譜面だけになっていた。
「白藤君…」
音寧が勝手に取ったのだろう。御神は呆れた顔をして音寧を見つめた。
「何ー?ボクは1番難しいのなんて御免だよ?」
呑気な声で答える音寧は御神と目を合わせることは一切しなかった。御神は音寧との話し合いを諦め、残った譜面を取った。席に戻った御神は早速譜読みを始めているようで、机の上で指を走らせる。音寧は俺にくっつき、譜面を眺める。皆の『運命』はここから本格的に始まった。
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