第7話ピアノ部

部員、副顧問、顧問が全て決まり、全員で集まることになった。

「本当に校長先生がいらっしゃるのでしょうか・・・」

「忙しいんじゃね?」

放課後、すぐに集まった5人は居心地が悪そうにピアノ室の中をうろついている。10分、15分と時間が経ち、そろそろ20分が経とうとしていたとき、ピアノ室のドアが開き、米本先生と校長先生が入ってきた。4人の息を呑む音が聞こえる。

「全員、一旦席に着こうか」

校長が一言そう言うと全員が一斉に椅子に座った。俺はいつもの席に座ったが、側板ではなく、壁にもたれ掛かった。

「じゃあ、全体の顔合わせを始めようか。」

校長は副顧問を頼みに行ったときよりも少しラフな格好をしていて、声も穏やかだった。意識していないと校長だということを忘れそうだ。

「まず…皆の自己紹介からお願いできるかな。じゃあ…申告書の上の人から」

俺じゃないか。俺は立ち上がって軽く一礼してから話し始めた。

「1年E組の黒宮時雨です。大体このピアノ室で寝てます。よろしくおねがいします」

言い終わってまた軽く一礼して座った。綾瀬さんが俺と入れ変わるように立ち上がり、

「1年・・・E組の・・綾瀬・・水澄・・・です。ピアノが・・・人前で・・・また弾けるように・・なりたい・・・です。よろしく・・・お願いします・・」

と言った。やはり人前で話すのも苦手みたいだ。喋り終わった綾瀬さんはおずおずと一礼してから席に座った。少ししてから俺の隣に座ってた音寧はゆっくりと立ち上がって話し始める。

「1年F組の白藤音寧でーす。僕はクロのためなら弾くけどクロが居ないと弾かないんでそこんとこよろしくー。」

音寧らしい喋り方だな。音寧は椅子には座らず、俺の膝の上に座った。結構な重さが膝にのしかかる。いつものこととはいえ、足がしびれるあの感覚はなかなか慣れない。俺の上に乗った音寧を見た御神はスッっと立って、しっかりと45度くらいのお辞儀を校長に向かって一度してから話し始めた。

「1年B組、御神葵です。ピアノを好きになるためにこの部活に入部しました。宜しくおねがいします。」

ハキハキと話す姿からは育ちの良さが感じられた。再び綺麗なお辞儀をしてから席に座った。緊張していたのか、深く息を吐いている。佐伯は荒々しく立ち上がり、そのままの流れで一礼した。

「1年H組、佐伯和真ですっピアノのことは分からなくても音楽への熱は誰にもまけません。よろしくおねがいします!」

言い終わると同時に荒っぽく一礼して座った。校長は部員全員の自己紹介が終わったことを確認すると教壇の上に上がり、一礼をした。集会でよく見る光景だ。

「副顧問を務めます。森勝です。普段は校長をしているので余り此処には来れないかも知れませんがもし来たときは何でも聞いてください。」

校長はもう一度一礼をして教壇から下りた。入れ替わるようにして教壇に上った米センは校長と皆に向けて一礼をした。

「顧問を務めます。米本侑です。普段は1年E組の担任をしています。宜しくおねがいします。」

一礼してから教壇から下りた米センは御神のように深く息を吐いた。少し緊張しいのかもしれない。顧問、副顧問、5人の部員が決まり、自己紹介も済んだ。やることは部長、副部長の決定か…。

「部長…どうします?」

「時雨君・・・が良い・・と思います・・・」

「賛成。黒宮くんが適任よ。」

「黒宮でいいんじゃねぇか?」

「クロやるのぉ?」

ピアノ部再設を提案したのが俺だからだろうか、部員全員が俺を部長に推薦した。教師受けはあまり良くない俺だが、1人目の部員だからか、米センも何も言わずに頷いていた。

「じゃあ、俺が部長やります。副部長誰にしますか?俺としては真面目な人にやって欲しいんですけど。」

「じゃあ水澄さんか葵さんじゃない?」

珍しく音寧が発言した。俺の意図を分かっているらしい。

「わ、私は・・・葵ちゃんが・・・良いと思います・・・。ハキハキ・・・喋れるから・・・」

綾瀬さんは御神を推薦したいらしい。

「私?別に良いけど副部長が毎日来れるかもわからない人間じゃ嫌じゃない?」

家のレッスンと部活の両立はやはり難しいらしい。現状として週3日しか来れていないことを気にしているのだろう。真剣にこの部活をやりたいからこそ幹部枠の人間がなかなか来れなくて良いのかと悩んでいることが分かった。

「大丈夫だろ。部長がこんなんだぞ。」

悩んでいる御神を見かねた佐伯は俺を指して少し笑った。こんなん…とは。と思ったが確かにいつも寝てる俺が部長なんだ。多少来れなくてもこの部をまとめてくれるような真面目な御神は副部長に適任かも知れない。

「お願いできる?御神さん。」

俺が言うと、御神は暫く黙った後に

「分かったわ。部長さん、宜しくおねがいします。」

と言って微笑んだ。顧問、副顧問、他の部員が拍手をして、部長と副部長の決定を祝った。

「活動場所と部室はピアノ室で大丈夫ですか?」

拍手が止んで、少ししてから早速御神が話し始めた。真面目だな。さすが副部長になっただけある。

「良いと思うよ。」

「大丈夫・・・です。」

「いいよぉ」

「あぁ。」

御神は全員が頷くのを見て、申請書の活動場所と部室の欄に『ピアノ室』と書いた。後は…活動日か。

「やっぱ・・・週3くらいか?」

「毎日に決まってるでしょ?ピアノは1日やらないとサボる前に戻るのに5日もかかるのよ?」

佐伯の意見をすぐにぶった切った御神は全員の許可を取る間もなく活動日の欄に『月〜日』と書いた。

「御神さん、今は週に1日は休みを設けないと駄目だって決まってるんだけど。」

俺がそう言うと御神は不服そうな顔になった。

「1日・・自主練習・・・にすれば・・・良いのでは・・ないでしょうか」

「そうね。流石水澄。」

御神が綾瀬さんの名案を褒めると、綾瀬さんは恥ずかしそうに俯いた。『月〜土※日曜自主練習』と御神は書き直し、俺に部長の確認サインを求めた。俺は確認サインをして、校長と米センに副顧問、顧問のサインを貰う。最後に校長の部活動開設許可欄に校長がサインをし、そのまま校長が預かる形になった。

『部活名 ピアノ部


 顧問 米本 侑   副顧問 森 勝

 部長 黒宮 時雨  副部長 御神 葵

  

 部員 1−E 黒宮 時雨

     1−E 綾瀬 水澄

     1−F 白藤 音寧

     1−B 御神 葵

     1−H 佐伯 和真


 活動場所 ピアノ室

 部室 ピアノ室

 活動日 月〜土※日曜日は自主練習

確認サイン 部長 黒宮 時雨

      顧問 米本 侑

      副顧問 森 勝

      

      校長 森 勝      』

こうしてピアノ部は出来た。

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