影の住処(中)
1ヶ月しても情報通りの現象が起こらない。闇夜のあちらこちらで、アレはガセネタだったんじゃないかともっぱらの話題だった。サトルは苛立っていた。自分だって特別になれる権利はあるはずだと。地球の形態を変えた人間達をとことん憎んだ。昼間学校ですれ違うアイナに触れようとしても、その機会は一瞬のうちにして失われる。暗闇でしか会えない関係に終止符を打つかつてないチャンスだったのに。
噂話も何とやら。3ヶ月後には誰もその事を口にしなくなった。
それからさらに3ヶ月後、サトル達の本体は高校3年生になっていた。アイナとはクラスが分かれたが、会えないわけではなかった。
6月のある日、
落雷がこの世で一番大きな木に落ちたとの速報が、眠った街を駆け抜けた。
来たんだ、ようやく来たんだとサトルは胸の高鳴りを止める事ができない。いや止める必要なんてない。それはサトルだけのものではなく、界隈の影達にも言えた。期待の秒針がその時を迎えようとしていた。
朝、
「これが雨ってやつか?異常気象……」
母親が聞いていたニュースで言っていた事を空に向かって呟く悟。容赦なく降る雨は、片目を閉じた悟の顔面を叩きつけた。開いていた口に雨が入っていく。無味で悪い物でもなさそうだなんて悟は初めて経験する雨の感想を考えていた。
「よし。完了」
そんなあっけらかんとした思いを抱いていた悟だったはずの肉体は、瞬時にサトルになっていた。空から落ちてくる水、つまり雨を本体が口にする事で影は本体と入れ替わりをする事ができるのだった。アノ噂「ターン」は本当だったとサトルはカバンからマスクを出してつけた。そしてカバンでどうにか雨をしのぎながら学校ではない場所へ急いだ。
雨を避けるように神社の屋根がある所にサトルはいた。まだ雨は降り続いている。地球温暖化の影響は凄まじく、この世から水分を奪った。だが人間は人間でその事を予期し、水分を生み出す機械を用意していた。要は知恵と技術さえあれば生きていけるのだと、かつて◯◯評論家がワイドショーで言っていた。不便な事もあったが、慣れてしまうというのが人間の長所で愚かしい
だが影達はその時を境に
____
影の住処(下)↓↓↓へつづく
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