影の住処(すみか)

@hasegawatomo

影の住処(上)

 この街では本体が寝入ると影達はこぞって徘徊する。だが多くのモノがビルとビルの間に集まり、タバコをくわえる真似事をしながら井戸端会議をしているのみだった。


 しかし、3ヶ月前だっただろうか、影達は最近噂のアレの真偽を確かめる為に、より多くの情報を欲っし動きを活発にさせていた。街の明かりを避けながら、高校2年生の小川悟おがわさとるの影、サトルも毎晩のように部屋から抜け出しては、様々なコミュニティに顔を出して情報を集めた。


「つまりだ、昔は簡単に出来てたって言うのは本当だ」

「地球温暖化の末によぉ、海ってぇいうやつも今では無くなってよぉ、そのせいで出来無くなったんだぁとかよぉ」

「でも、あと1ヶ月後に再発するって、テレビで言ってるぞ」

「しかし地球ってのはわからないねぇ」


 タバコをふかすような素振りで影同士が話しているのを、サトルは付かず離れずの場所で黙って聞いていた。あともう少しで……。


 次の夜、サトルはアイナを誘って神社へ出かけた。アイナの本体はサトルの本体と同じ学校の2年生、塚本亜依南つかもとあいなだった。本体同士は同じクラスと言うだけで特に仲の良い間柄ではなかったが、夜な夜な街の片隅でたむろしているうちに二つの影は出会い、そして恋に落ちた。二つは自分達だけの場所を求めて、日中でも誰も近寄らない古いくたびれた神社で夜が明けるまで同じ時間を過ごした。


 これが自分達の運命だったのだと二つはそれで満足していた。けれどもアノ噂を聞いた時からサトルは運命のその向こう側へ行ける、そんな気がしていた。かき集めた情報をアイナに伝える。


「あと1ヶ月だってさ。そうしたら俺達は特別になれる」


 サトルは真っ暗な中においても熱を帯びながら語った。


「でも、今でも充分だと思う」


 アイナはサトルの踊る心を心配している。もし噂が真実でなかったら彼がどんなに落ち込むかを安易に想像できたからだ。


「アイナは考え過ぎなんだって。昔の影達はみんな特別になれたんだ」


「みんな特別ってそれって特別なの?」


 サトルとアイカの温度差を風がヒュルリと消しさる。


 重なる影。でもそれは二つが望むほどには重なり合わない。


「アイナ」


「サトル」


 二つは1ヶ月後を待つと誓った。



 ____

 影の住処(中)↓↓↓へつづく

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