第4話
長かった会議がやっと終わり、俺は背伸びをしてモニターをケースにしまった。部屋を出ていこうと気だるげな足取りで歩いているとその横に姫木中佐が並ぶ。正直、この女が苦手で仕方がない。カラスのような黒い漆黒のストレートヘアは隙間なくボブにまとめられ、ピカピカに磨かれた肩の腕章には一遍の隙もない。こんなカタブツ、仕事以外に楽しみなんかあるんだろうか。
「釼谷君」
「ああ、はい。お疲れ様です」
「ねえ」脇に抱えたバインダーを振りながら中佐がこちらを睨む。え、俺何かしたっけ。
「あなた、一回も質問しなかったじゃない。本当に中佐に昇進する気があるの?」
げっ。んなことでいちいち説教してくんなよ~。てかあの会議、そんな昇進にかかわるものなのか?
内心辟易したが、
「すみません!あの実験に心奪われすぎて呆然としてしまって」部下スマイルを繰り出してみる。
「まぁ、あの実験の成果は大躍進よね。今回の作戦は期待できそう」中佐がもっともらしく頷く。
「でも、俺思うんですよね。舌が壁を突き破ったとして、マルムの奴らにまで到達するんですかね」
「そのための実験なんじゃないの」
「そうすか」釈然としないながらも返事をする。漆川大佐や姫木中佐だけじゃない。軍の連中は壁のその先のことをどれくらい考えているのだろうか。もっと言えば、最初から全てが解決しない絵空事であるとするならば――
「ねぇ!僕だけ仲間外さないで~」ガバッと、後ろから勢いよく抱きつかれて鳥肌全開でそいつをはねのけた。最も、そいつの動きは0.1秒差ですでに俺から離れていたが。
「山田君もね。次は何か発言しなさい」諭すように言って姫木中佐は俺たちを後にした。
「太郎だけズルくない?」
「何が~?」太郎はとぼける。嘘つけ。こいつ俺のすぐ後ろにいたくせに。
「姫木中佐は太郎にだけ、甘い」
「姫ちゃんは、芳人にだけ厳しいよ」
「は?」
「狙われちゃってるねぇ」
「冗談はやめてくれ」
その後二人で話をしながら軍服から平服に着替えて兵舎を出た。
adieu 長月 冬 @ELLY0901
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