第3話

 翌日。延期された会議は延期なれどその分内容が充実するかといえばそうでもなく。翌週に迫ったマルムの砂壁破壊作戦の確認に終始した。俺はモニターをスライドさせながら鉄壁と言われるマルムの砂壁の写真を眺める。


 ――砂壁をたった一欠片でもこじ開けることができれば。


 まあ、何世代も前から同じ作戦が謳われてきたし、今更という感じもするが。技術班と化学班が合同で開発したという溶解砲の説明はこれでもう五度目だった。


 溶解砲ヴィーナスの舌――ミクロン単位で物質を溶解する、マレ軍の重要兵器であり機密事項。今回の砂壁破壊作戦に向けてより精度を上げたらしい。スクリーンに実験の様子が映し出される。

「…して、鉄壁の透過ののち待ち受ける人体をも溶解したのであります!」

 威勢の良い声で化学班の責任者が説明する。瞬間、スクリーンの一面に赤く爛れた人間が映し出され、会議室が一気にざわめいた。漆川大佐なんか画面に釘付けで、その滑稽なサマに笑いが込み上げそうになる。

 横目でチラと太郎を見ると、その碧眼は空のように何もうつしていなかった。流石だ。太郎は溶解砲ヴィーナスの舌の実験がいかに成功しようとも興味の範疇にはないだろう。

「溶解の速度は?」誰かが化学班に質問を投げた。そちらに目をやる。よくもまあ、このクソみてぇな会議を長引かせたいのかよ。俺の想像通り、カタブツ女――姫木直子ひめきなおこ中佐がバインダーを片手に立ち上がっていた。

「秒速、一平方メートルであります!」化学班が鼻息荒く答える。

「準備できる数、スペア、それから今回使われた実験体の総数は?」

「準備できるのは二百砲、スペアはなし、実験体の総数は延べ三十と言えます!」

「二百。後で資料をもらえる?」

「畏まりました!」口角泡を飛ばしながら化学班が答える。どちらもお熱いようで。


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