第4話 バトル

 外へ出る。案外、まだ近所ではバトルは始まってないらしい。まぁいきなり戦えだなんて言われて、戸惑わない人なんていないだろう。


 「なんか…思ったより静かね。」


 「そうだな。でも、あと少しでモンスターが出現するはずだ。そうなったら、一気に戦場と化すぞ。」


 「おぉい、そこの若いの。」


 お隣のおじいさんが話しかけてきた。


 「さっき、わしの孫がいなくなってしまったんじゃがの、見てないかね?」


 「え、あぁ…えっと…お孫…さんは…」


 死んでしまった、なんて言えない。でも、なんていえばいいんだろう…


 テンテケテケテケーン!とファンファーレのような音が上から聞こえる。


 「さて皆さん、10秒後に予告通りモンスターを解き放ちます。今のところプレイヤー同士の戦いはあまり起きてないようですが、これからは気を引き締めてくださぁい。じゃ」


 ザザッ…ザザッ…ザザザザッ


 この砂嵐…


 「刀也…これ、何?」


 「やばい、モンスターがくる!桜、さっきのメモリを使ってチェンジしろ!」


 「え、えぇ…」


 そうこうしていると、目の前に、爪が長いモンスターが現れた。胴体はコブラの頭のような形をしている。ごつい。


 「きゃあ!ほんとに出た!」


 「桜、早くそれを使って…」


 「シャア!」


 モンスターが切りかかってきた。


 「危ない!」

 

 「シュアァァ…」


 「これ、バーチャルクエストのモブの1種よ。名前は確か…〈クローデーモン〉だったかな。」


 「確かに、それらしい見た目してるな。」


 すると、別の場所からもう1体の〈クローデーモン〉が出てくる。いや、1体だけじゃない。あちこちから5体ほど出てきた。


 「お、なんじゃあ?何かのショーでも始まるのかの?」


 「は!おじいさん!早く逃げて!」


 「え?なんて?」


 「シャアァ!」


 すると、〈クローデーモン〉がおじいさんを切り裂いてしまった。


 「おじいさん!」


 そして、消えた。


 「まじかよ…」


 「許せない!こんなザコ敵、私が倒してやる!〈コネクト〉!」


 ついに桜が変身した。


 「おぉ!」


 ピカーン、と光ったあと、コネクトが完了する。ん?なんか見た目が…


 「すごい…ほんとに変身しちゃった。」


 「す、すごいけど…なんかダサくない?」


 「え?」


 桜は、ピンクと白のなんの装飾もない仮面をし、胴体はピンクと赤と白で構成された、映画とかに出てくると大抵すぐやられてしまう特殊部隊の隊員のような格好をしている。


 「なにこれだっさ!これならまだ仮面はそのままで、服は制服とかのほうがいいわよ!」


 「まぁまぁ、カラーリングは桜っぽくていいじゃん。」


 「ふん!知らないしそんなの!それより、早くこいつら倒すわよ。やぁっ!」


 そういうと桜は、単身でデーモン達に立ち向かっていった。




 「やぁっ!」


 これがバーチャルクエストと同じシステムなら、最初に武器選択ができるはず!


 「登録、完了。チュート…」


 「チュートリアルはスキップ、次!」


 「チュートリアルをスキップしました。武器を選択してください」


 へぇ、ちゃんとシステムそのままなんだ。武器はやっぱり、刀一択!


 「刀、でよろしいですね。では、〈紅桜べにざぐら〉と言ってください」


 「〈紅桜〉!」


 「シャア!」


 デーモンが切りかかってくる。でも、私にはそんなの通用しない!


 キィン!


 私は、紅桜で爪を受け止める。


 ギチギチ


 「私を甘く見ないでよね。これでも、バーチャルクエストの凄腕刀プレイヤーなんだから!はっ!」


 デーモンの爪をはねのけ、私は胴体を斬る。


 「シャァア!」


 パシャァン


 「まずは1体。」


 「やるなぁ桜。よし、俺も…」


 「あんたは首突っ込まないで。私1人で十分だから。それに、むやみに変身しないほうがいいんでしょ?」


 「え…まぁそうだけど。」


 「じゃあそこで見てなさい!」


  説明通りなら、モンスターを倒してもパワーアップはできる。なら、なるべく倒したほうがいい。


 「敵を一体撃破。技を解放しました。〈桜斬り〉と言ってください」


 「なんかダサいわね。まぁいいや。〈桜斬り〉!」


 すると、刃が紅く光る。


 「やっ!」


 いい手応え。一気に2体撃破できた。


 「よーし!初期装備とはいえ、中々ね。」


 「敵を3体撃破。必殺技を解放。〈桜吹雪〉と言ってください」


 「お、いい名前じゃん。〈桜吹雪〉!」


 すると、私を桜色の旋風が囲う。桜の花びらも混じっている。


 「なにこれ…きれい。」

 

 「シャァア…」


 モンスターも見惚れているようだ。チャンス!


 「よそ見は厳禁よ!いっけぇ!」


 私は刀を振った。デーモンを斬ると、旋風が私ではなくデーモンを囲い、

 

 シュンシュンシュンシュンシュン


 と花びらがデーモンを切りつけ…


 「シャアア!」


 パシャァン!


 倒した。


 「レベルアップ!あなたのレベルが2に上がりました」


 お、レベルアップしたみたい。


 「ユーザー名を設定してください」


 ユーザー名か…かっこいい名前がいいな。じゃあ…


 「じゃあ、〈吹妃桜フィオ〉!」


 「ユーザー名を設定しました」





 「おぉ!すごいな、桜。」

 

 「ま、こんなもんよ。」


 「いやぁ、ぶっちゃけ少し不安だったんだけどさ。よかったよかった。」


 「そんなことより、これからどうするの?あの男がどこにいるかわからないのよ?都市の中心かもしれないし、すんごいひっそりしたとこかもしれない。」


 たしかに、言われてみれば全くそのとおりだ。男の背景は部屋のドアだったから、そこがどこなのかわからない。


 「お、プレイヤーいたぞ!2人だ!」


 「やっちまえ!」


 「ん?なんだ?」


 後ろを振り向くと、プレイヤーが3人こっちへ走ってくる。どうやら、協力しているみたいだ。


 「3人か。ササッと片付けよう。〈コネクト〉」


 「え、変身しちゃうの?」


 「よし。まぁ、倒せば問題ないって。行くぞ、桜!」


 「う、うん…」


 一気に決める!そう思った瞬間、目の前に砂嵐が広がる。


 「よいしょっと。」


 「あぁ?モンスターじゃん。」


 「おい…こいつ、バーチャルクエストにでてくる強いやつじゃ」


 「ふぅ。ごめんな、お前ら3人に用はないんだ。おら。」


 「や、やばい!にげろぉ!うわだぁ!」


 「〈ポイズンスプラッシュ〉」


 モンスターの手から毒が散布された。


 「う…うぉ…」


 パシャァン!


 「よし。やぁ、はじめまして…では無いか。」


 「何なんだお前!モンスターなのに喋れるのか?」


 「俺は〈T《テクニカル》ブルート〉。お前らに居場所を伝えるよう、主に言われてきてやったんだ。」

 

 「主?」


 「お前が今探してるモニターの男さ。彼は、都市の中心部にあるETCの本社ビル内にいる。」


 「なんだと!」


 「まぁ焦るなよ。ちゃんと正規のプロセスを踏んでかないと、やられて終わりだぞ?」


 「うるさい!〈ブルーあさると〉!」


 場所がわかった以上、即刻あの男を倒しにいかねば!


 「〈グランドバインド〉」


 「なにっ!」


 突如、地面が足を固定する。


 「なら、〈セレストスラッシュ〉」


 青い刃を振ると、カッター状の光がモンスターに斬りかかる。が、


 「ぐぅぅぅ、はっ!」


 「な!」


 「オラァ!」


 「うわぁっ!」


 それは受け止められ、男は強いパンチを繰り出された。


 「刀也!こいつはまだ倒せない!バーチャルクエスト内でもそうなの!」


 「お嬢ちゃんの言うとおりだ。正規の手順を踏め。でないと、俺とまともに戦うこともできん。じゃあな。」


 そう言い残し、やつは消えた。


 「くそっ…」


 「でも、あの男の居場所はわかった。そこへ向かいましょ。」


 「あぁ…」


 待ってろ…絶対にお前を倒す!それまで、せいぜい見てればいい。


 そして俺達は、ETCの本社へと向かい始めた。

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