第3話 ビギン

 「ただいまぁ」


 返事がない。


 「ただいま〜。」


 あれ?鍵は開いてたからでかけたわけじゃないと思うんだけど…


 「ただい…おぉびっくりした!」


 リビングへ行くと、テレビの前で固まっている2人がいた。


 「どうしたんだよ、そんなテレビに釘付けになって。」


 「こ…こここ、これ、あなたよね?刀也くん。」


 「え?」


 春香さんにそう言われ、テレビを見てみると、そこには正に、モンスターと戦っている俺が映っていた。


 「え?なんで?」


 「これあんたよね!?何なのよこの姿!しかもあのモンスター、〈バーチャルクエスト〉の最初に出てくるモブキャラよ?なんで現実にいるの?」


 そんなの俺が聞きたい。いきなり襲われて、いきなり変なのが胸に刺さって…挙げ句の果てに全国放送されている。


 すると、画面が「ETC」の社長の記者会見に切り替わる。


 「えーこの度、発生いたしましたトラブルの原因については、現在調査中です。」

 

 「ということは、今回、バーチャルクエスト内からモンスターが現実に放出されたことについては認めるんですね?」


 「バーチャルクエスト内からモンスターが現れたのかは我々にもわかりません。それを含めて、現在調査しておりますので…」


 「今後このようなことが起こったらどう対処するおつもりですか!」


 「新空都の開発に影響を及ぼす可能性についてはどうなんですか!」


 「バーチャルクエストというシステム自体はどうするおつもりですか?」


 

 「なんか凄いことになってるわね。」


 「でも、きっと新しいシステムの試運転かなんかでバグっちゃっただけでしょ。まぁ…」


 じろり、と桜がこっちを見てくる。


 「なんでこんなやつがテストプレイヤーになったのか知らないけど。」


 「俺そんなのに応募してないよ!それになぁ…」


 突如、ゴゴゴゴゴ、という地響きがなる。テレビの中も、混乱に包まれている。


 「おぉぉ、なんだこの揺れは!」


 「これも、バーチャルクエストと何か関係があるんですか!」


 「知りませんよそんなこと!」


 ドガァン!と一際大きい音がなる。そして、何故かあたりが少し暗くなる。


 「なによこれ!地震!?」


 「2人とも、机の下に隠れて!」


 俺達は春香さんに言われたとおり、机の下へ避難する。


 しばらくすると、揺れが収まった。ふとテレビを見てみる。するとそこには…


 「速報です。たった今、新空都の周りに巨大な半透明な壁が出てきました!」


 「なんだって…」


 外に出てみると、本当に半透明の壁があった。神河家は新空都の端の方にあるので、ほんとにすぐそこに壁がある。

 

 「何よこれ。ガラス?」


 「いや、違う。何だこれは…」


 「おぉ、なんじゃあこれはぁ…壊せそうじゃのぅ」


 お隣さんが家から出てきた。そして壁を見ると、そばにあったトンカチを持つ。

 

 「ほれ」


 カチンという音がした。だが、割れた様子はない。


 「おじいちゃんどいて。俺がやるから。」


 お孫さんらしい人が、金属バットを持って出てきた。そしてすごいきれいなフォームでバットを構え…


 「はぁっ!」


 フルスイングした。


 だが、ガキン、と言う音がし、バットの先が折れる。そして運悪く、勢いを保持したまま頭に当たった。


 「が…」


 男の人が倒れ込んだ。そして…


 パシャァン


 消えた。


 「キャア!」


 「なっ!」


 「おお、だいきぃい、どこへ行ったんじゃあ…」


 この消え方…さっきのモンスターと同じだ!

 

 「ふはははははは。はじめまして諸君。」


 頭上で声がしたので見上げると、そこには巨大なモニターがあった。そこに見知らぬ男の人の顔が映っている。


 「いやぁ申し訳ない。新空都にいる人たちは、いささか混乱していることだろう。だが落ち着け。今から説明してやるから。」


 男はそう言うと、モニターの画面を切り替える。


「まずは、新空都を囲っている壁から。この壁は〈バーチャルウォール〉。壊すことはできない。あと、見えないかもしれないが、上空には天井があるから、ヘリで抜け出すことも不可能。つまり君たちは、新空都に閉じ込められているってわけだ。」


 「なんですって!」


 「ほんとに何が起こってるのよもう!」


 

 「さて…当然のことながら、みんなはこの状況を打破したい。そっこっで。」


 男が横のボタンを押す。すると、桜や春香さんの目の前に俺の胸に刺さったやつと同じようなものが召喚された。だが、俺の前には召喚されない。


 「今配布した〈コネクトメモリ〉を使って…みんなにはバトルをしてもらう。」


 バトル、だと?


「ルールは簡単。その〈コネクトメモリ〉を使って、他の奴らを倒せばいい。そして、最後の一人になったものが勝者だ。だがそれだけじゃ何か物足りない。だから、今から5分後、新空都のあちこちにモンスターを出現させる。そいつを倒してパワーアップしつつ、敵プレイヤーを倒せ!それと…」


 「新空都のどこかにいる黒と青のプレイヤーを倒すと、スーパーパワーアップするかもね!以上!あ、変身は〈コネクト〉と言いながらメモリを胸に当てるだけ。それじゃ…Let's begin!」



 冗談じゃない。新空都の人たちでバトルロワイヤルしろってか?それに、黒と青って…俺のことじゃん!


 「ねぇ、どういうこと?刀也、あんたなんか知らないの!?」


 「何も知らないよ!とりあえず、一旦家に入るぞ!」


 俺は2人を連れて、一旦家の中にはいる。


 「状況を整理しよう。今俺達は、あの謎の男が仕掛けたバトルに巻き込まれたらしい。多分、それが終わるまで新空都からは出れない。そして…俺はきっと狙われる。」


 「こんなの、まるでバーチャルクエストが現実になったみたいじゃん…」


 「…」


 「刀也、あなたどうするの?外にでたら、あなた、死んでしまうかもしれない。」


 確かにそうだ。新空都の人口は5万人。最悪、その人数を一度に相手にしなければならなくなる。そうなったら、勝ち目はない。でも…


 「だからといって俺がここにいたら、もしかしたら二人にも危害が及んでしまうかもしれません。さっきのテレビを見た人は、ちらっと俺の姿を見てるから、ここがバレるかもしれない。だから俺はここには居られないんです。」


 「じゃあ、あんたこれからどうするの?」


 「あの男を見つけ出して、このバカげたバトルを終わらせる。」


 「無茶よそんなこと…」


 「やるしかないんです。大丈夫。必ず帰りますから。」


 俺は立ち上がり、玄関を開ける。


 「待って!」


 桜が俺を引き止めてくる。


 「私も行く。」


 「何言ってんだ?危険だ!1歩間違えたら死んじまうんだぞ?」


 「桜、あなたはここに…」


 「お母さん!私もう高校生よ?それに、私が見ないで、誰が刀也の面倒見るの?」


 「桜…」


 「私だって弱くない。だから行かせて。お願い。」


 「わかったわ、桜。2人とも…気をつけてね。」


 「お母さんも何かあったら連絡してね。」


 「わかったわ。」


 「それじゃあね。」


 ガチャ


 「よし…行こう。」


 「その前にバーチャルクエストのルールだけ理解して。バーチャルクエストのバトルロワイヤルモードは、ゲーム内なら100人で行うモード。戦って、最終的に1人になれば勝ち。

 なんだけど、マップ内にはモンスターも出現して、それを倒すとレベルが上がる。レベルが上がると武器とか自分の攻撃力が上がる。そしたら強いモンスターを倒せるようになるし、対人戦でも有利になれる。そういうモードなの。」


 「わかった。じゃあ、最初はザコ敵からだな。」


 「そゆこと。」


 「わかった。じゃあ、いこうか。」


 そして俺達は進み始めた。この惨状を、終わらせるために。

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