35.まだ問題が残ってますわ
グリンド家にシュナイツァーを送り届けてからは、まさに全てが「怒涛」だった。
まずグリンド伯爵家にてお互い謝罪と和解。
シュナイツァーの体調を説明して彼が自分のベッドで休む所までちゃんと見て、「毎日様子を見にきます」と伝えパルパル様とも再びお別れ。
グレース公爵家に戻ると、お父様お母様に生きてて良かったという愛情となんてことをしたんだというお叱りを一緒に受ける。
キャロレンがマリアの件を全部きちんと説明してくれて(エメリスお兄様が時々言葉を助けていたけどね)、ハリエッタの無罪はここで確定。
そしてグリンド家との和解も済んでいると伝えたらグレース家のピリピリ感はだいぶ無くなった。
「となると…後は王家に正式な謝罪だ。最近の若い者は未来に生きているな、と王子様が笑っていたから大丈夫だとは思うが…私達も柔軟に考えるべきなのかもしれないな、子供達の未来に上手く寄り添っていきたい」
「なんでもいいわ!ハリエッタが帰ってきてくれたんだから!ああ、生きていてくれて良かった!!もう好きに生きたら良いのよ、婚約だって嫌なら解消して良いんだから…!!」
「ごめんなさい、お父様。お母様…」
私はすっかり痩せてしまった二人にぎゅっと抱きついた。
お父様とお母様はきっとキャロレンとエメリスお兄様の事も前向きに考えてくれるわ。
そうこうしてるとルーべルンはもう実体化が常になったらしく、隠れるのもおかしいし行き場が無くて困っているのに気付く。
「この男性は誰だ?」とお父様とエメリスお兄様がしつこく聴いてきた。
「旅の方よ。わたくしの大切な人なの。ここに連れてきてくれて、何度も命を救ってくれた方よ。丁重にもてなしてください」
「なんと!ありがとうございます!」
「あ、はい」
ルーベルンはずっと無視され続けていたグレース家の人達に「ありがとうございます!」と言われくすぐったそうな表情だった。
良かったね、ルーベルン。
ようこそ私の家へ。
♢♢♢♢
王家に謝罪を無事済ませた数日後。
キャロレンと一緒に花の香りでいっぱいのお風呂に入りながら、私は「シュナイツァー、まだ眠ってるのよ…」とぼやいた。
「こぽぽぽ〜あっ。お姉様、おっぱい大きくなってますね。うらやましいですわ」
「それは今どうでも良いのよ。あとおっぱいとか言わないの、子供じゃないんだから。あなたエメリスお兄様の第二夫人になるんでしょっ。そうじゃなくて、シュナイツァーがどうして目覚めないのか、それを考えてるんだけど全然分からないの」
「やはりキスでしょうかっ、こぽぽぽ〜」
「溺れないでね?キス…うーん、そうなのかしら」
私はもうルーベルンと一緒にいると決めたから、シュナイツァーにキスして目覚めさせるのは失礼な気がしたのだ。
肝心のシュナイツァーが眠ったままだから婚約の話は停滞したまま。
グリンド家もグレース家も結婚はして欲しそうだけど、あんな事があったから強制はもちろん無し。私とシュナイツァーの問題になってくる。
もしシュナイツァーがまだ結婚したがってたら…断って大丈夫なのかなあ、彼…
でもでも、シュナイツァーと結婚して、さらにルーベルンにも仕えててもらうってのは…
無理でしょ。私が無理無理…っ
平気な人は平気かもしれないけど、私にはレベルが高過ぎる。
ざぱっ。
私が湯船から上がるとキャロレンが「ふわふわのすべすべなのです〜」と抱きついてくる。
「こらあ、やめなさい」
「だって。お姉様と一緒にいられる時間減っちゃうから…あーん、怖いです。一人で行くの」
そうなのだ。
キャロレンは改めて社交辞令を身につける授業を受けることになり、それに合格したらエメリスお兄様と祝言を上げることになっている。
ちゃんと合格するのか確かに私も心配だわ…
「時々様子を見に行くから。キャロレンも家に息抜きに来るのよ?」
「はいっ。えへへ!お姉様、お姉様」
ん、かわいっ!
身体も将来有望の香りがすごいわ。
女神のシナリオから解放されたこの子がどういう風に過ごしていくのか、私も楽しみだわ。
お風呂上がりに身支度をして軽やかなドレス姿でルーベルンにあてがわれた部屋へ行くと、彼はテーブルに本を積み上げてその間から顔を覗かせた。
「ハリエッタ。ご機嫌いかがですか」
「ルーベルン、ご機嫌よう。毎日すごいわね。何を読んでいるの?」
「武術の本です。今まで僕は実体が無かったから体術で攻撃は出来ず、魔術頼みでした。身体が手に入ったら理解しないと」
「前は医学だったわね」
「自分に関係あるのと無いのとじゃ、学ぶ姿勢が変わってきますね。無関係だった毒物も今僕自身が飲んだら死んでしまう…」
「そうか…そうね」
私と本契約をしたから、ルーベルンはもう神様や魂の世界にはいけなくなってしまった。
彼は人間になったのだ。
魂の記憶はパルパル様がしっかり結びつけておくと言ってくれたから、また生まれ変わっても会う事は出来るけど…
仮契約ならルーベルンに記憶は残ったけど、本契約になったら人間の力が強くなって忘れてしまうんだって…
「美月さん。僕は自分から望んで契約を持ちかけたんです。変に自分を責めないでくださいね?」
「え。う、うん」
「申し訳ないと思うなら、今宵僕と寝台を共にしていただけますか?」
「えっ!?そ、それは…っ」
「冗談です。シュナイツァーが目覚めてないのにそんな無神経なことはしませんよ。そろそろ時間じゃありませんか」
「…うん。行ってくるね」
私は照れながらルーベルンの部屋を出て、シュナイツァーのお見舞いに向かう準備をした。
彼から貰った沢山の贈り物の中から、いつも一つ、持って行く。
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