29.交渉と犯人推理
翌朝パルパル様はツリーハウスを「次の拠点に移動するので、しまっておきましょう」を未来から来たアニメのキャラみたいに魔法で消して一つの光にしてしまい、自分の身体に収めた。
パルパル様の魔力は計り知れないわね。
出すもののセンスも良いし、物腰は丁寧なんだもの、出世をするわけだわ。
3人(パルパル様も1人よね?)で話し合いをし、シュナイツァーと一緒にいるラング様両方(一応言葉の神様だから、変に怒りを買うのも嫌なので様をつけておくことにしたのよね)が私を探してるとしたら、一体2人は何が目的なのかはっきりさせておこうとなったのだ。
勿論私は安全な場所にいて、ルーベルンが交渉係。
私はキャロレンに毒を盛った人物を探せば速いじゃないと訴えたが「人を殺そうとした犯人に無闇に近づく前に、ただこちらを探してる相手と話をした方が安全」と説かれた。
「美月さんは人を傷付けよう、殺そうとする様な人に直接関わった事が無いでしょう?」
パルパル様が出してくれた紙で作ったヨットに皆で乗り、ふわわ〜んと晴れて気持ちがいい空をゆったり飛びながら私達は真面目な話をしていた。
「普通無いわよ」
「そうでしょう。少しでも魔力を使った方法ならば僕とパルパル様ですぐ目星をつけられますが、それが見つからないから厄介な気がするんです」
「魔力を上手く使えない人なんて女中や使用人に沢山いるでしょ。つまりその辺りが怪しいってことね?」
「そうかもしれませんが。キャロレン嬢を嫌ってる使用人や女中などいましたか?」
「……」
いないわ。
あの子、私達貴族には「うわー」って目でたまに見られていたけど、それこそ仔犬みたいで助けてあげたくなるオーラ満載だったから女中達は手のかからないツンとした私より、キャロレン様キャロレン様。
男性の使用人達も、婚約者一筋で(人前では)ビシッとしてる私よりフラフラほにゃほにゃしてる無邪気な人タラシのキャロレン様キャロレン様、だったわね。
「いないわね。もし貴族に使われて動いた使用人なら、グレース家の中にはいないんじゃないかしら。キャロレンが死んでも家が混乱するだけだし、エメリスお兄様だってそんな馬鹿な事させないと思うわ。必要ないもの。何より、自分達が悲しいもの」
「そうです。つまり、グレース家に容易く入ってキャロレン嬢に近付いていた他の家の者が怪しいでしょう。更に僕達の存在を勘付いてる人が犯人だとしたら…」
「あ、待って。私分かったかも。シュナイツァーの事好きだなんてパーティで言ったから、キャロレンを真剣に好きだった相手が毒を盛ったのよ。あんなに悪化するとは思わなくて」
私が「どうかしら」と威張って推理を口にすると、ルーベルンは肩をすくめた。
「その可能性も一応あります。ですが貴族がバレたら自分の家を潰す様な愚かな行為をするでしょうか。重罪ですよ、ハリエッタがそれで処刑されるシナリオだったのをご存知でしょう」
「あ、そうか。じゃあその流れの使い捨ての使用人かしら…」
私が考えていると、船の先にある飾りみたいにしゅたっと立って前を見ていたパルパル様がちらりとこちらを見た。
「友人を疑うのが最後の最後なのは当然です。自分の気持ちを最優先して人を簡単に裏切るからこそ、あの家系は呪われているのでしょう」
「…?友人?家系?あの、パルパル様、それってどういう意味ですか…」
「…グリンド家の比較的近くに教会の廃墟がありますね。そこに降ります。ルーベルン、この手紙をシュナイツァーとラングの部屋へ置いてきてください。ハリエッタ捜索に出ていなければ、すぐにこちらへ来るでしょう…」
パルパル様は詳しく話を続けてくれず、ルーベルンも肉球マークの蜜蝋で閉じられた手紙を持ってヨットを飛び降り魔法の光を帯びながら走って行ってしまった。
私は犯人の目星が全然ついてないけど、パルパル様とルーベルンは何か思う事があるらしい。
何だか聞きにくい雰囲気だったので、ツタが好き勝手巻いている別の意味で神秘的な教会の綺麗にした個室で待ちながら私は花冠ならぬツタ冠を編んでみた。
「上手ですね」
瓦礫の中から照らされる陽気でまったり丸くなってる超可愛いパルパル様が目を細めて言ってくる。
パルパル様と一緒にいると、すごく落ち着くわ。友愛の神様で悪意が全く無いからかしら。
シュナイツァーとも、キャロレンともマリアとももう一度会ってずっとこんな風にまったり出来たら良いのに。
悪役令嬢って皆こう寂しい想いを見てみぬフリして走り抜けるものなんだろうけど、私はどうにもまだ弱くて情けないわね。
♢♢♢
「ハリエッタ。いるのかい、ハリエッタ…」
壁の向こうから懐かしくもあり、怖くもある相手の声が聞こえてきた。
8個目のツタ冠に取り掛かっていた私は手を止め、シュナイツァー、と声を上げそうになったけれどパルパル様が可愛い前脚で「むぐ」口を塞いでくる。
お日様の香りとぷにぷにが…っ!
こんな状況なのにたまらなくその姿が可愛い。何言ってるのかしら私、そんな場合じゃないのに〜。
「ルーベルンが話を聞くまで答えてはいけません…ラングの力が少し強くなってます。身体の持ち主と同調したのかもしれませんね」
「はむ」
はい、と言おうとしたけどハムになってしまった。
私が大人しくしてると、ルーベルンの頼もしい声が聞こえてくる。
「僕はハリエッタさんの使いです。シュナイツァーさん、ラング様。貴方達の目的をお聞きしたい」
「目的?愛する婚約者が行方不明なのを必死で探すのは普通のことだろう」
「元、だろう。婚約破棄されてるじゃないか、公衆の面前で。恥をかかされた鬱憤を晴らしたいというなら、僕の方であのパーティの記憶を消す事に奔走します。そのくらいは出来る」
え、そういうの出来るのね。
なら私の存在をシナリオがうやむやになった時全部消してくれちゃえば良かったのに…なんて一瞬思ってから首を振った。
家族も、マリアや仲良くしてくれた人達も、キャロレンですらも私を忘れてしまう。
それは…私がこの先何をしても「消せば良いわ」って考えになってしまう。
もう逃げなくても良いし平気な顔で会える反面「どなたかしら?」って顔で全部無かった事になるのよね。
一番楽で、私がこの先一歩間違えたらダメになってしまう方法。
自分を消して良いのなら、相手にもいずれそう思う。それはとても危険なこと。
「ルーベルンが言ってるのはパーティの件だけですよ、大丈夫です」
パルパル様が肉球で頭を撫でてくれる。
きゅんとしてほっとしてると、シュナイツァーの声が聞こえてきた。
「恥なんて気にしてないさ。ただ、私は良いんだがシュナイツァーが塞ぎ込んでるんだ。ここのところ呼び掛けても反応しない。元々繊細な子だから、私のせいで大胆な行動をした反動と愛する婚約者を失ってずっと気絶同然なんだよ」
「シュナイツァーさんの意識とは話せないんですか…?」
「ハリエッタが出てくれば話すかもな。私も四六時中自由に動ける身体を貰ったようなもので最初は嬉しかったさ、だがシュナイツァーは私の恩人だからこのまま魂の転生まで気絶してるのも申し訳ない。だから私はハリエッタを探してる」
そんな事になっていたなんて!
そうよ、照れ屋で、無口でやっと微笑む事が出来る彼が大胆になったのはラング様のせい。
私ったらラング様の問題行動ばっかり見てシュナイツァーを忘れていたんだわ…!
「…っシュナイツァー」
「ハリエッタ、落ち着きなさい」
パルパル様がポカッと猫パンチをしてくる。
「彼は言葉の神です。口が上手い。もう少しちゃんと話を聞きますよ、事実を誇張してる可能性が大いにありますから」
うう。ごもっともだわ。
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