28.キャロレン毒殺事件


ルーべルンの身体は、私には常に触れられるけど他の人は彼自身が意識しないと相変わらず透けるのだそうだ。

パルパル様は神様だからかルーベルンが元々透けてる頃から触れてる。他の人に会えない今は本当にそうなのかは分からない。


はっきりと分かるのはルーベルンが食事に行ってお風呂に入って…という行動を始めた事。

若い男の子の身体になったからお腹が常にぐうぐう言っていて可笑しかった。


一日実体化した身体を慣らしてるルーベルンは赤ちゃんが初めて色んなものを触るみたいに感動していた。


「美月さんには何と言ったら良いのか…僕だけこんなに幸せをいただいていいんでしょうか」


これには赤面。新婚の旦那様じゃないんだから。


「良いのよ。私はルーベルンがいなかったらここに逃げて来られなかったんだもの」


「ありがとうございます。最初はあんなに失礼な事ばかり言って申し訳ありません」


「ええ…やめてよ、そんなの。気を遣われるような間柄じゃないでしょ。前みたいに毒舌で突っ込んでくれなきゃ調子が狂うっ」


「そんな事はもう出来ません」


すっかり私を崇拝するみたいになってしまったルーベルン。ええ…あのツンデレが良かったのに。

私とパルパル様は思わず顔を合わせて苦笑してしまった。



夜、ちゃんともう一つ魔法で作り出したベッドでスヤスヤ眠ってるルーべルンを見つめてると切ない気持ちになってきた。

思ってたのと違う…

もっと壁ドンとかキスをぎりぎり迫ってくる少女漫画的展開かと期待していたのに。

これはただの主従関係。

彼の愛してるって、パルパル様へと同じ敬愛の方だったのかしら。私神様じゃないわよ。


ただの人間よ…


ルーベルンの顔は、元々彼のものかは分からないけどとっても可愛くて綺麗だった。閉じた目のまつ毛すら艶々で、寝息が…もう。


こっそりキスでもしてやろうかな、とこそこそしていたらパルパル様が止めてくる。


「寝込みを襲うのはいかがなものかと思います」


うう、もっとも。

私前世27歳で死んで今ここで16歳だから良い歳だしそういうのは良くないわね…

ルーベルンとパルパル様の足元にも及ばない年数ですがっ。





翌日、ルーベルンがまたグレース家に見に行ってくれると王家も協力して「ハリエッタ捜索隊」が結成されたらしいと聞いた。


グレース家跡取りにはエメリスお兄様がいるし、娘の枠にはキャロレンがいるじゃないの。行方不明のままでいいじゃない。


シュナイツァーがその筆頭にいるらしく、周りも彼が気晴らしして元気になれば良いって感じなのかしらねと私達はもうしばらく様子を見る事に。

追跡魔法はパルパル様が私から棘の様な小さな光を取り出して近くの湖に入れてくれたので、そこに来たら移動しようとなった。



そう呑気に構えていたが、また次の日ルーベルンがグレース家に行くと急展開が起こった。

彼が帰宅した時私とパルパル様は猫じゃらしで遊んでいたのだけど、空気が一変。


「キャロレン嬢が昨日毒を盛られて今は意識不明の重篤です。グレース家の主人…ハリエッタの父親が激怒して犯人を探してます」


「えっ?!なんで?誰が何の為に今そんな事するの?」


「誰かまではまだ分かりませんが、ハリエッタ=ミレ=グレースに高額の懸賞金がかけられました。タイミング的に姿が見えない、しかも捜索中のハリエッタを容疑者にするのが一番周りも都合が良いでしょうから」


「都合が良いから私が怪しいってされてるの?!何それ!キャロレンは大丈夫なの?!」


「身体を隠して見てきました。苦しそうに浅く呼吸し、熱を出して気絶状態でした。あれ程の毒は専門知識が無いと作り出せないかと…だから賢く魔法が上手い弁解出来ない状態のハリエッタが挙げられたのでしょう」


「そりゃキャロレンは私にシュナイツァーが好きとか言って私達が不仲なんだろうなとは周りが思うだろうけど…っ最初そういうシナリオではあったけど!私はキャロレンに意識を失って寝込んでしまう毒なんて盛ったりしないわ!」


私がやってないのをあっさり私だろうと疑う周りも周りだとさすがに声を荒げてしまった。


「私とキャロレンの事何も知らないくせに、なんでそういう話になるのかしら!」


「真実が大事じゃなく、周りの人間が納得するかどうか。いつの時代もそういうものです。キャロレン嬢も目覚めてからハリエッタを疑う事はないでしょうが、それもきっと逆効果です」


可愛くて真っ直ぐなキャロレン。

いつだって行動や言動が怪しくて、最後無情にシュナイツァーを振って逃亡中の私。


そうね、キャロレンが

「お姉さまはそんな事しません(きらきら)」

そして周りは

「キャロレン様!(きゅん)こんなに信じてる女性を苦しめるなんて許せない(ゴオオオ)」

はい、キャロレンの周りが騎士モード炎上…



私は一通り考えて、ため息をついた。


「女神様はやっぱり私に処刑されて欲しいみたいね。納得するところもあるけど、このタイミングでキャロレンに毒殺容疑事件が起こるのはもう女神の介入、黒よ黒」


「それは否定出来ませんね。キャロレン嬢の魂は稀に見る穢れ無きものですから、惜しくなったのでしょう。ハリエッタが処刑されたらキャロレン嬢はおそらく今までの様にのほほんとは生きないでしょうから、輝かせるきっかけが必要だと」


「悪役令嬢ってそういうお仕事だもんね」


「…くだらない。来世でもずっと一緒にいるとはいえ、僕は美月さんを、ハリエッタを処刑などさせない。そんな姿は見たくありません。何が悪役令嬢シナリオだ」


「ルーベルン…」


やっぱりかっこいいかも。

ルーベルンと私が話してるのを、パルパル様は黙って見つめていた。


女神が自分の性格を直したくて薬みたいにキャロレンの魂を育ててるのは分かってるわ。

でも、私は栄養剤じゃないの。

一人の人間なのよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る