27.神様達の事情
翌日、用意されていた果物や野菜をパルパル様がささっと魔法で食べやすいサラダやスープにしてくれて、私はツリーハウスで身を潜めて過ごした。
ルーベルンが私のいなくなった後のグレース家を見に行ってくれている間、パルパル様と留守番して私達はとても仲良くなった。
ふかふかの身体をずっと触らせてもらえて、至福、至福…
「神になるのは、ある時突然選ばれるのです。次の瞬間には姿や役目が代わり、周りも絶対に異を唱えられない。唱えてもどうしようもないのです。ですから懇意だったルーベルンとは気持ちの整理をする前に離れてしまいました」
パルパル様はルーベルンと良い先輩後輩だったらしい。
ちなみに神や魂の管理者に性別はないらしいけど、女神は女性的だから自分は絶対仲間じゃないと区別する為にルーベルンは男性らしい振る舞いなんじゃないだろうか、とパルパル様は言う。
ルーベルン、女神嫌いっぽいもんね。
それにしても女神は仕事ちゃんとしてるのかしら?
「パルパル様、女神様の仕事って何なんですか。私の印象では人の魂と人生を弄ぶイメージしかないんですけど…」
「少し合ってます。生き物の生き方は単調ではいけない、それだと試練が無いというのが神々の代々続く考えです」
「えっ。もしかして、試練をわざと起こす係が女神様ですか…?」
「ものすごく簡単に言えばそうなります。基本は魂の管理者の総統に当たりますが、選ばれた魂に試練を与えるのもまた仕事なんです。その試練を終えた魂は女神の一部になり、存在が長く続くという事になってます」
「魂が意地悪で恨みがましかったら女神様もそうなっちゃうの…?」
「はい。ですから私はもう少しうまくやっていました。自分で見守るのは大変ですが、最後に救いを与えるように。今の女神はその仕事が好きではないでしょう。ルーベルンに丸投げしてましたし、私が潜入で潜り込んでも顔も魂の正体も見ませんでした。女神もまた選ばれたひとりなので、不器用に抵抗してるのかもしれません。自分に返ってくるとしても止められず…哀れです」
女神…様、も損な役職についちゃったのね。
パルパル様みたいにサクッとした「仕事ですからね」という冷静な性格なら良いかもしれないけど「なんでしなきゃなんないの!」だったら、今までのごちゃごちゃ感も分かるような気がしてきたわ。
それにしても神様も仕事確認で潜入捜査するんだ…職場がパニックになるのが嫌なのはどこも一緒なのね。
私はパルパル様を撫でながら言った。
「神様になりたいっていう人たまにいるけど、自分でどうにか出来るものじゃなく選ばれるものなんですね」
「はい。選ばれる理由は分かりません。私達も神という役職はありますが、駒なんです。長く存在して魔法力は強いですが、人間とさほど変わりませんよ」
立候補じゃなく推薦の方が確かに安心できるのかな…だけど、急に押し付けられた当人は大変そう。パルパル様が猫ちゃんの姿になってまで人間の世界にいるのって出張みたいなものなのかしら?
ぱちぱちと心地良い音を立ててる暖炉の明るい火を見つめながら、私は一枚着の白いワンピース姿でソファーに寄りかかるという前世と同じ様にリラックスして話を聞いた。
「パルパル様はルーベルンの私への態度、どう思います?私、契約して欲しいって言われたんですが…契約って何するのかも分からなくって」
パルパル様はヒゲをピクピク動かしてから
「双方の一部を双方に」
と言った。
「双方に…何です?」
「そのままです。ルーベルンには美月さんの一部を、美月さんはルーベルンの一部を体内に収めればよろしいのです」
「ルーベルン、実体がありませんけども…」
「はい。ですが私は一時だけ彼を実体化させる事が出来ます。私の言葉が戻ってからルーベルンには相談されてました。美月さんにだけ触れられるようにという限定的な契約ならば魔法力は半減こそしますが残りますし、彼を縛っていた魂の管理者の職務からも解放されます。何より、ルーベルンはあなたをとても愛してるようですね」
ボンッと顔が熱くなる。
いいい、一部を身体に収める?それってあの、あわわわわ。
私がパルパル様から離れてソファのクッションに顔を埋め「んんー!!」と叫んでると、パルパル様が「あの、そんなに大変な事ではないですが」と声をかけてくる。
「長く生きてる神様から見ればそうかもしれませんが、私前世でもそういうのはっ!!」
「いえ、だからそういうのではなくて」
「どうかしましたか?」
きゃああ!このタイミングで音もなくルーベルン帰ってきたぁぁ!
私はもうクッションと生きていくのかという位にしがみつきながらもがもがしていた。
「おかえりなさいルーベルン、グレース家はどうでしたか?」
「ただいま戻りました。シュナイツァー子息のグリンド家が沢山の詫び品を贈っており、ご両親はパーティの失態で走り回ってる様です。シュナイツァー子息は自室から出てこない状態。一方でキャロレン嬢はキャンベング家のマリアさんと仲良くなってました」
マリアとキャロレン?
変な組み合わせだけど、きっとマリアがキャロレンにシュナイツァーのお見舞い行きなさいとか言ってるのよね。
「報告ありがとう、お疲れ様。ところであなた達はいつ契約をするのでしょうか」
パルパルさまっ?!今それ聞いちゃいます?
「契約の話ですか…?それは、もちろん今すぐにでも」
ルーベルン?!
そ、そんなに焦らなくても…っ!
私はクッションから顔を上げられない状態のままだったけど、彼の声が近くなる。
「美月さん。僕に、おかえりって…言ってくれないんですか」
きゅううん、として私はクッションから目だけ出して「おかえり…」と小さく言った。
少し透けてる身体で、ルーベルンは「ただいま戻りました」と触れないのに頭を撫でる仕草をする。
触れないのに…
うう、ルーベルンそんな切ない顔しないで…っ!!
私は目を逸らしながらもがもが聞いた。
「け、契約方法って何するの…パルパル様から双方の一部を双方にって聞いた、けど、それって、私した事ないから、」
「…した事があったら、どんな状況だったんだと僕が先に問い詰めてます。髪、爪、血などほんんの少しお互いの一部を飲むだけです。美月さんはもちろん血なんて差し出さないでください」
なーんだ。ちょっと残念なような、いやいやいやえっちなのはお断りよ。
…ルーベルンは信頼出来る相手だし、私もこの先一人の身体なのはきっと寂しい。
それなら…
「ルーベルンがしたいなら、良いよ…っ」
「美月さん!ありがとうございます」
ルーベルン、すごく嬉しそう。
それを聞いてパルパル様がとことこ歩いてくる。
「良かったですね。では始めましょうか」
「い、今ですか?!」
「良くないのでしたら、先程の発言はいかがなものかと思いますが…」
「あっはい!良いです!大丈夫です!」
ルーベルンとの契約方法は、
実体化した彼は私にちょっと切った指先の血を。私は彼に少し切った髪の毛を渡して互いに飲む事だった。
血はやだと言おうとしてももう彼は手を切って出てしまっていた。
あわ。あわ。としながらもぺろっと舐めてあげると、彼の姿がはっきりとする。
私と同じくらいの男の子の姿のまま、ルーベルンは自分の身体をしばらくじっと見つめてから手で床を触ったり、果物を持って齧ったりしていた。
「ああ…いつぶりだろう。身体が重くって、なんて煩わしくて、最高なんだろう!」
ルーベルンはパッと私の方へ来て
「ありがとう」
そう言いながらギュッと抱きしめてきた。
私はまたもがもが。もがもがしか出来ないっ。
パルパル様は猫の姿なのに、ちょっと目をこすって泣きそうな声で言った。
「おめでとう。今までお疲れ様、ルーベルン」
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