25.婚約破棄強行突破ですわ
「皆さんが見ているこの場でそんなお話をなさるなんて…!そんなはしたない方と結婚なんて恥ずかしいですわ。わたくしは秘めておきたかったですのに」
顔を隠して泣く真似をしてみせると、グリンド家のご両親が「シュナイツァー、今後は同じ過ちを犯さない様に神様と話し合って注意なさい」と彼を戒める。
「申し訳ありません。ハリエッタ、今のは私の言葉じゃない。分かってくれるだろう」
「シュナイツァーのせいじゃないのは分かってるわ。けれど、わたくし簡単にその光で神様と信じた訳じゃありませんの。今の所貴方の性格と口調が変わって腕に綺麗な宝石が嵌められてるだけじゃありませんか。証拠をお見せくださいませ」
「証拠…?」
「今のままでは信用出来ません。これは神様で間違いありません、というものがあればわたくしだって安心しますもの!」
勢いで言ってみるとこれは予想外の提案だったのか、シュナイツァーがしゅんとして困り果ててしまった。グリンド家のご両親も「やはりそう簡単には…」と彼の肩を抱いている。
会場の来客達はどちらかと言えば私の意見賛成派が多い様で、「確かに」「実は悪魔の呪いだったとしたら…」「しっ!伯爵家だぞ」などとコソコソ話し声が聞こえてきた。
ルーベルンが「なかなか良い感じですね」と声をかけてくる。
「言葉の神を攻めるのは少々心苦しいですが、今の発言はこちらに都合が良い」
(うん…)
シュナイツァーは私と言い合いをしたくないみたいだけれど一方で言葉の神様はそれを楽しんでるわ。
それを上手く利用したらこの場はごちゃごちゃになってきっと婚約なんて無かった事になるもの。
普通の優しくて可愛いキャロレンみたいなヒロインなら「そんなの関係ないわ、貴方は貴方だもの(きらきら)信じますわ(ぎゅっ)」とか言う所なのよね。
でも生憎私は悪役令嬢ですからドライなの。
「お姉様!それはひどいですわ」
はっ!
とか思ってたら本物のヒロインが来たわ。
落ち着いたと思ってしまったのか戻って来たお父様がキャロレンを連れており、高らかな声が上がる。
「シュナイツァー様がどれだけ素晴らしい方かはわたくし存じております故、信用出来ないなんてあんまりです」
「まあ、この場で勇敢ですこと。やっぱりキャロレンはシュナイツァーが好きなのね」
「好きですわ!」
会場がおおっとざわめく。
私は心の中で混乱を一瞬駆け抜けてから一気にガッツポーズを取った。
何これー!奇跡的!
急展開で当初のシナリオ展開に戻ったわ!キャロレン、会ってから今までで初めて見直したわよ。そのまま頑張って!
「良かったわねシュナイツァー。貴方の味方がいるわ、しかもグレース家の令嬢よ。わたくしはこのまま退場するので後は二人の祝福パーティに切り替えればよろしくてよ」
「何言ってるんだ…?ハリエッタ、私は君と結婚…」
「キャロレン、後はお願いねっ」
私はそう言ってから(ルーベルン、会場を出る道を教えてね)と心でつぶやきドレスの裾を踏まないよう掴んだ。
「はい、さっさとここを出ましょう」
ルーベルンがパーティ会場の正面出口に向けて指先から水飛沫を放ち、来客が「うわー!」「きゃー?」と大騒ぎする。
そして私の足元が風の魔法で軽くなる。
「これで10倍速です。どうせなら堂々と去りましょう。私がずっと一緒です、グレース家の屋敷に戻らなくとも」
「おっけー。じゃあね!お父様、お母様、お兄様ごめんなさいっ!私は婚約破棄します!」
私はシュナイツァーとキャロレンに「お幸せに!」と投げかけるとルーベルンの魔法で彼と一緒に会場を文字通り風の様に駆け抜けた。
「ハリエッタ!行かないでくれ!」
「おねえさま!まってー!」
遠くから声がしたけれど、振り返る理由はもう無い。
会場で悪役令嬢としての役目は果たしたんだもの。
空を飛んでる…?
ううん多分空中を蹴って駆けたのね。
そんなに地上と離れてはいないけれど、パーティ会場の階段を降りない位の高さのまま私とルーベルンは「成功したー!」と開放的な気分で随分長い間移動していた気がする。
初めは街の人達が過ぎ去った風をキョトンと振り返っていたが、やがて森の中。鳥や動物達がびっくりして逃げてくのに合わせ、私は徐々にゆっくり歩いた。
ここは何処なんだろう。
ルーベルンに「お疲れ様でした」と声をかけられ、花がたっぷり咲いた木々に囲まれた場所にひっそり建てられているツリーハウスの前に着く。木の上にある木の家。前世テレビでしか見た事無いけど…
「ルーベルン、これは?ここは…」
「ここはこの国の端も端、もう少し行ったら海がある安全地帯です。この家は美月さんが寝ている時に僕が時々来て作っていたんです」
「そんな事していたのね」
「この方も愛用してる場所です」
「ん?」
ツリーハウスの扉横に、よく見たら小さな扉があり「美月さん、ルーベルン。お疲れ様です」と可愛い猫ちゃんのパルパル様がそこから出てきた。
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