24.婚約者シュナイツァーの正体(?)


ざわめくパーティ会場の中央にいる主役の私とシュナイツァー、そして皆には見えないルーベルン。少しだけ3人の間に沈黙があり、私が先に口を開く。


「この方がキャロレンと一緒にいるのはわたくし、ずっと見てました。他にも家族や友人が何人か見てますわ。一度や二度じゃありません。婚約者の家族と仲良くするにしてもエメリスお兄様とは関わらず義妹のキャロレンを選ぶのは失礼だと思いました」


「やきもちかい?」


「そんな痴話喧嘩レベルの話ではありません。今後に支障が出る可能性もあるからここでハッキリさせたいのですっ」


来客の目がシュナイツァーと私から、グレース家のキャロレンに移る。

当のキャロレンは求婚者の一人にまさかのケーキを「あーん」中だった。嘘でしょ。


「ぶふぁ…っっ、し、失礼。どうやら他の男性と仲睦まじいようだね」


シュナイツァーが顔に手を当てて笑いを堪えている。そしてお母様が慌ててそちらに注意する。


「キャロレンッ!あなた今何が起こってるか分かっているのっ?」


「えっ?はい、分かってますわ。お姉様がシュナイツァー様を好きすぎてちゃんと自分を最優先してるかの確認でしょう。らぶらぶで羨ましいですわ」


私は思わずその会話を聞いて突っ込んでしまった。


「違うわよ、あなたとの仲を疑っているの!あなたシュナイツァーの事良いなって思っているでしょっ」


「思ってますわ。だって将来お兄様になるんですもの!いつも二人でお姉様の事ばかり話してましたわ。この前も夜に逢引のお話を聞いてわたくしもうキュンキュンしましたもの…」


「キャロレン、ちょっと外の風に当たりに行こうか」


「あら?お父様どうしたの〜」


見かねたお父様がキャロレンを連れて行き、青ざめているけど安堵したお母様を駆け寄ってきたエメリスお兄様が支える。会場は「なんだなんだ」「ただの誤解なのね?」と和み始めてる。


シュナイツァーに向き直ると、彼はお腹を抱えて「もうやめてくれ〜苦しい」と必死で笑いを堪えていた。


まさかこの人この状況楽しんでる?

って、そうよ。この手がダメでも一番の決め手が目の前にあるじゃないの。


「もうさっきの話は無しで良いわ!話題を変えます。シュナイツァーじゃないわよね、あなたは誰?」


「あっはは…ふー…。それをこの場で聞くんだね、今まで何度も聞く場面があったのに」


「聞くなら今だと思ったのよ!あなたは11歳から急に話し始めて饒舌になった。今思うと急過ぎるわ。最近の事もそう、昔のシュナイツァーだったら周りに言われたからってそんな事出来るとは思えないの」


「男は思春期で変わるものだよ、ハリエッタ。恋をしたら特に」


「そういう御託は良いの。あなたは一体誰?それを聞かせて貰わないと結婚はできません!」


「……」


シュナイツァーはグリンド家の心配そうに見つめる両親と、なぜか目を丸くして驚いてるルック嬢を見る。そしてエメリスお兄様のそばにいたリーウェ嬢が優しく微笑んで「ハリエッタはシュナイツァーのこと、ちゃんと見ていたのね」と一言。


それで気持ちを決めたのか、シュナイツァーは剣をスラッと抜いて自分の左腕の袖に差し込んだ。私がビクッとしてルーベルンが身構えた時、服を切り裂く音がして袖の下に隠れていたシュナイツァーの腕が見える。

腕にぼんやり光る宝石の様なものが嵌め込まれており脈打つ様にぽうっ、ぽうっと赤く綺麗に光っている。とても頼りなく、今にも消えてしまいそうな暖かい光だった。


「…それはまさか、『言葉の神』の欠片?もうずっと前に消失したと言われている…」


ルーベルンは「気配が薄過ぎて分からなかった」と驚きを隠せない様子だった。


「…シュナイツァー、それは…あなた一体…」


「11歳になる少し前。ずっとうまく話せないまま、森に猟へ行った時一人長い間迷った事がある。心配かけるから黙っていたんだけどね。そこで消えかけていた割にお喋りな欠片に会ったんだ。『まだもう少し話したかったな。もっと色んな言葉を交わしたかったな』なんて言うから私と一緒に人のいる所に行くかい?って誘ってみたんだよ」


シュナイツァーは優しい手付きでその宝石を撫で、いつの間にかそばに来ていたグリンド家の両親も「黙っていて申し訳ない」と頭を下げてくる。


「教会や魔法使いに診てもらったら神様の一種だから加護はあれど怖がる事は無いと…だけど、もし万が一婚約者に怖がられて婚約を断られたらと。私達も自分可愛さに申し訳ないことをした」


「ハリエッタなら大丈夫だと、何度も言おうとしたわ。でも、大事な息子のシュナイツァーにはどうしても幸せになってもらいたかったの。あなたの事が大好きだからこそこの腕になったのだから…」


「この宝石の影響で私も随分お喋りになってしまったから驚いたよね。そしてイタズラ好きだからか私の口を借りてたまに発言するんだ。ハリエッタとも仲良くしたがっている。悪いものではないよ、どうか嫌いにならないでくれないかな」


「あ、はい。そ…そうだったんですか」


あれ。

なんだろこの展開。予想外すぎますわよ…

えーと、私確かシュナイツァーの正体が変なら結婚できませんって言って。

で、シュナイツァーの腕には言葉の神が宿っていて、だからたまに話していたのはそっちで…神様だから悪いものではなくって…


あ、そっか!

ここでそんなの信用できないからって断ればオッケーね!


「嫌です。わたくしそんな得体の知れないものを取り込んだ人とは結婚出来ません!」


そう、これが正解!


するとシュナイツァーの腕の宝石がカアッと強く光る。


「熱いキスを交わした仲じゃないか、ハリエッタ。夜の伽も。グリンド家でもグレース家でも見た者が沢山いるよ。私はちゃんと責任を取るつもりだからそんな事を言わないで欲しいな」


私がキッと睨みつけたら、シュナイツァーは顔を赤くして自分の口をばっと塞いでる。


「それは言い過ぎだ」


彼も面倒な体質になったものね。

でも喧嘩腰なら好都合だわ。

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