22.このタイミングでモテ期かしら
「美月さん。明日シュナイツァー子息がどう出るかは分からないままですが…あちらには友愛の神がついているので悪い事にはならないかと…」
ルーベルンがしどろもどろと話してくる。
彼も現状がよく分からないから困ってるんだろうな。しかも当事者じゃない、板挟みで困ってる中間管理職って感じの立場よね。
こんなに動揺してる声初めてだわ。
「もう良いのよ。悪役になりきれないでズルズルここまで中途半端に引っ張ってきた私が悪いの」
「いえ。僕もこんな事態までは想定出来ず…力不足で申し訳ありません」
「ルーベルンは何度もそれじゃダメとか色々教えてくれたから最初から言う通りにしていれば良かったんだわ。こっちこそごめんね」
私が枕から顔を覗かせて情けなく笑って見せると、ルーベルンは驚いた顔になってから俯いて「どうして」と小さい声で言った。
「どうして美月さんが謝るんですか。今回ばかりは気付くべきだった僕の方にしか非はありません」
「今回っていうか、私が与えられた仕事をアドバイス通りにこなせなかった上にクビみたいなもんだからマネージャーしてくれたルーベルンには謝るのが流れでしょ」
「美月さん…」
「ルーベルンもいきなり辞令出されて吹っ飛ばされたようなものだもんね。被害者仲間よ。しかも私なんかと組まされたんだからお疲れ様としか言い様が無いよ〜」
「……」
「砂なら海辺が良いかな。子供にお城にされるなら悪くないかな〜。花火で焦がされるのは嫌ね。カップル見かけたら目に入ってやろうかしら…」
「美月さん。砂になる事を受け入れるの早過ぎます。落ち着いてください、あとどうして夏仕様の想像なんですか」
「夏しか海なんか行かないわよ…あっ!私はともかくルーベルンにもペナルティあったりするんじゃないの?減給とか大丈夫なの?」
「……減給」
「あるの?」
「いえ。そもそも給料という概念が無いので」
「え、じゃあ何の為に働いてるの」
「何の為…強いて言うなら、仕える相手がいないと消えてしまう存在だからですかね」
「あ、そうなんだ。ニートは許されない世界なのね。だから性悪でも仕事をくれる女神の元で働いてるの?」
「あまり悪口を言わないでください、ヒヤヒヤします。僕の仕事について聞いてきた人はあなたが初めてです。誰とも長く一緒にいる事が無かったから当然か…仕える相手は選べるんです。ただ、それを探す時間も機会も無く気付いたら魂の管理仕事が当たり前になって、今更変える気力も度胸も仲間もおらず考えないようにしてました」
「転職が億劫なやつね、すっごい分かるわ。ルーベルンずっと仕事人間の無表情だったもの。ブラック企業に染まったら抜け出せないのにちょっと似てる…」
「振り返るとお恥ずかしいです」
「だとしたら、私はルーベルンに強制的な出張をさせたのね」
「そうなりますかね…」
「仕事はぐだぐだだし成績も消し炭っていうものすごい展開だけどルーベルン時々楽しそうだったから…なら一緒にいた甲斐あったかな、って私は思うけどどう?」
私が現実逃避も兼ねてルーベルンとの会話を楽しみ、ニコッと笑って見せるとルーベルンは真剣な顔つきでベッドに横になっている私に跪いて、手を取るような姿勢になった。
これは…騎士がお姫様によくするポーズかしら?
「どうしたの?」
「自らの意志で仕える相手などもう生涯見つからないと思っていた。けど僕は今決めました。こんなにお人好しで頑張り屋のあなたを1人では放ってはおけない…そして、あなたといると。楽しいんです」
「あ、はい。それは良かったです…」
なんとなく私も起き上がって背筋を伸ばして座ってしまう。
「許していただけるなら、どうか今世も来世もあなたにお付き合いさせてください」
「え?」
「美月さんが来世どんな姿になろうとも、僕がずっとお側にいて全力でサポートします」
一体ルーベルンの中で何があったのか分からないけど…
これはちょっとしたプロポーズかしら?
うん、見た目と声は自由自在で魔法使えて誠実な人(?)よね…なかなかハイスペックかしら。素直に「えへっ」て照れるべき?
いやいや待って。
相手は年齢不詳の中身おじいちゃんよ。
そしてなんでそうなったのか分かんない。
困惑した私にルーベルンは真剣な眼差しを向けたまま言ってくる。
「女神からの連絡も途絶えてます。ですから僕は僕で好きにやります。まず今世で思いっきり幸せになれるようご協力させてください。もう介入に遠慮しない為に僕には実体が必要です。ですから、契約を結ぶ事をご検討願いたいのですが」
「え。えーと…」
「あなたに…触れられるようになりたいです」
なんなんですかこの急展開は。
明日私婚約お披露目ぱーてぃなんですけど、ここで精霊?魂の管理者にプロポーズされて…?
やだ、もうグルグルする。
「か、考えときます…」
私はようやくそう言って、「ご飯は食べた方が良いです」と促されて放心しながら美味しい料理を口に運んだ。
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