20.全部台無しですわ
「シュナイツァーも神様の仲間だったりするの…?」
何処からどう見てもただの人間。
パルパル様(もうそう呼ぶ事にするわっ)も普通の猫ちゃんだったもの、期待が膨らんじゃう。
もし2人共神様だったとしたら女神なんて目じゃないわね。虎の威を借る狐みたいで情けないけど、神様の事なんて分からないもの。
これは純粋にラッキーよ。
「私の素性は大した問題じゃないよ。それよりも明日の事だ」
シュナイツァーは両手を握りしめて期待を込めた私の視線から目を逸らす。
あらら…圧が強かったかしら…ただの人間だったら気後れもするわよね。
「そうですわね。ここまで状況が整っていれば理解していただけるかと。明日は皆の前でわたくしを堂々婚約破棄してくださいね。一言破棄すると言ってくだされば、後はわたくしがトントン拍子にいくよう準備してましてよ」
「どう考えても私が不利な立場になるのに、どうしてそれを承諾すると思うのかなあ、君は」
あら?
シュナイツァーはどうも反対のようね…
「き、き、キスをしてパルパル様のシナリオクリアに協力したじゃありませんか」
『様、なんておやめください美月さん』
「そんなわけにはっ。神様なんですからっ」
『お気遣いとご協力、改めて本当にありがとうございます。シュナイツァー本人が言いたがらないので私から彼の素性はお伝えできませんが…私の事でしたら。この堕天使のシナリオは元々私自身の呪いをシュナイツァーが操作して、この形に収めてくれたんです。シュナイツァー自身のシナリオはまた別です』
パルパル様が簡単に言ってる内容は私にちんぷんかんぷんだった。
「そんな事出来るの?ルーベルン」
「魔法の心得があるハリエッタもいずれ出来るようになりますよ。固結びになってる紐を解いてくようなものです」
「私、パズル苦手だから…とにかく、シュナイツァーは見返り無しでパルパル様を助けたのね。優しい」
『ふふ、先程の素敵なキスは彼のシナリオではなく全て私だけの為だったんですが。彼のシナリオにも役立つかと思います』
ちょっ、キスの事思い出させないでっ…
私がシューッと煙が出る程に赤くなっているとシュナイツァーが言ってくる。
「今の流れで、私のシナリオについては聞いてくれないのかいハリエッタ」
「…あんまり聞きたくないわ。キスしてあっさりしてるのも変…貴方は本当にシュナイツァーなの?私と夜会ってからすごくチャラいわ。全部軽いのよ。神様と魔法が揃ってれば何でもありなんだろうけど〜〜っとにかく私は明日婚約破棄してもらえればそれで良いの。これ以上情報増やさないでっ」
シュナイツァーは白い翼が生えて一枚の絵画みたいに美しい飛躍をしたパルパル様を優しい眼差しで見つめてから、
「ハリエッタはそれで良いの?」
と静かに、でもよく通る声で言った。
「ハリエッタはどうにも自分の
「…僕は責務をこなしただけです。女神に逆らうと美月さんの魂もハリエッタの身体も危ない。おかしな動きをしたら、いつでも消される。そういう職場ですから」
ルーベルンが私の隣に来て、シュナイツァーから庇うように一歩前に出てくれた。
私はそこで大事な事を思い出し、触れないルーベルンのパーカーをきゅっと掴む仕草をして聞く。
「…ルーベルン。女神っていつも見てるんじゃなかった?見つかったのは不可抗力だとしてもよ、一体今私の成績ってどうなってるの…」
「…覚えていたんですね」
「当たり前でしょっ!」
「…すみません。僕にももう何も分かりません。女神からの連絡は焼き切れて、先程貴方達がキスした時に成績表も黒焦げになったんです…怒りを買ったのは間違いないと思います、ですが…」
「!!!そんな!」
おめでとう、来世は砂よ!
うふふ☆悪役令嬢がキスしてんじゃないわよっ!ざまぁよざまぁ!
そう笑ってる女神(会った事ないけどね)が私の頭の中でほーっほっほっほと笑っていて「ああ…」とめまいがしてふらついてしまった。
まだ何か言おうとしてるルーベルンが咄嗟に手を伸ばしてくれるけど、実体が無いのでシュナイツァーがとすっ、と受け止めてくれる。
「大丈夫?随分と顔色が悪いね」
「…うう…来世は砂決定だわ。こんなに頑張って来たのに今までの努力と苦労は何だったの」
「砂?とにかく明日私はハリエッタを婚約破棄する必要は無いんだね。それは良かった」
何も良くないっ!!
むしろ最悪な展開よ。
パッと出てきたイッツファンタジーな悪魔と神様にやりたい放題されて、私のコツコツ積み上げてきたものをスパコーン!とボーリングみたいに台無しにされたじゃないの。
もう嫌、何だか頑張るの馬鹿馬鹿しくなってきた。イライラが止まらないわよっ。
「ハリエッタ。今から私の事をちゃんと話すから、座って…」
「帰ります」
「ん?」
「グレース家に帰ります。疲れてしまいましたわ、何年分もの疲れが一気に来て身体が重たいの。そして私は貴方とあまり話したくないわ。全部シュナイツァー、貴方のせいなんだからっ」
「おやおや…参ったなこれは」
困り顔で微笑んでるシュナイツァーを尻目に、私は止めるパルパル様とルーベルンを振り切って屋敷の外に待たせていた馬車に乗り込んだ。
馬が振動に少し驚き、ゆっくりと葉巻をふかしていた運転手が慌てて火を消してくれて申し訳なかった。
「ハリエッタ様、おかえりなさいませ。お次はパーティ会場でしたかね」
「いいえ。家に帰るわ。やっぱり当日まで楽しみにしとく…出して、お願い」
「そうですか。承知致しました」
馬車が動き出すと同時に、ルーベルンがするっと私の隣にやって来る。
「ハリエッタ、自暴自棄にならないでください。まだ終わったと決まったわけではありません。その証拠に女神は僕達に手を出して来ない。シュナイツァー子息はきっと重要な味方になってくれると思います。パルパル様が側にいるのが証拠…」
「今は聞きたくない。放っておいて」
私は一生懸命話してくるルーベルンに一言そう言った。ルーベルンは黙ってそっとしておいてくれた。
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